2022/04/03 16:17
柴田先生のお仕事、実践は、臨床心理学の教育の中では語られていないこと

柴田先生のご本『沈黙を越えて』(萬書房)を読ませていただいて、本当に私も驚きました。本当にこんなことがあるんだと。今日もこの会に、心理を専門にしている方々が何人も来ていただいていると思うのですが、ぜひ読んでいただきたいです。今回のこの対談集の私と柴田先生の対談も読んでいただきたいですし、この柴田先生が書かれた『沈黙を越えて』も、ぜひ読んでいただきたいです。臨床心理学の教育の中では、こんなことは語られていないです。でも私は自分の目で見てきたし、それは実践されているんです。

私が、今回のこの対談本をぜひ世の中に出したいと思った1つの意図は、この柴田先生のお仕事を、もっと多くの人に知ってほしいということです。これが1つです。それと最後6人目の対談者の光吉先生の仕事も知ってほしい。この2つが、とても大きな動機になっています。

柴田先生の開催されている「きんこんの会」というところに一度お伺いしました。障害の当事者の方々が30人くらい集まっておられ、家族の方、柴田先生、そして何人かの通訳をされる方が参加されている会でした。

知的障害の方、けっこう重い自閉症の方、普通にしゃべれない方々、そういう方々の手を取って、自分の手のひらにその当事者の方の指を乗っけるんですね。そして、自分の手のひらに言いたいことを書くようにしてもらうと、ちょっと動くだけでも読み取っていけるということなんですね。これを指筆談とおっしゃっていました。そして、この読み取るスピードがすごいんです。普通にしゃべる速さなんです。ということは、「これって本当にその人が、話していることなの? 柴田先生が自分の思いを書いているだけなんじゃないの?」と、そんな風に思われてしまいますよね。

でも、私は見てきましたので、そうではないと。

どんな感じなのかというと、みんな順番に話していくんですね。知的障害の当事者の一人の方が司会をして、柴田先生が順番に一人ひとりの隣に行って、座って、手を取って、こういうことを今話そうとしていますということを、柴田先生の口から話してくださっている。そうすると、みんな静かにして聞いているんですね。一人ひとり、聞いているんです。

自閉症の方で、奇声を発して、全然じっとしていられない方もいらして、ギャーギャー言っているんですけど、柴田先生が隣に行って、手を取ると、すっと静かになって、そして考えていること、年相応に考えていることを、お話されるんですね。

後で聞いて分かったのですが、自閉症の方というのは、不随意運動が出てしまうんですね。自分の言いたくないことを情動行動のようなものが出てきて、言っても仕方のないようなことをずっと繰り返してしまう。しかしそれは、自分にとって不本意なので、なんとかそれを抑えようとする。その抑えようとするところで、我々の心のキャパシティ、ワーキングメモリを全部使ってしまう。それで自分が言いたいことがあってもそれが言葉にならない、ということなんですね。

だから、こちらがそれをサポートして、言葉にしてあげるということで手伝ってあげれば、自分が話したいことがそこからずっと出てくる、ということなんですね。なるほどなと思いました。


身体を通して、うたがそのまま聞こえている

そして、もしこれが本当に通訳をしている方々の考えていることを話しているだけであれば、みんなも聞いていないと思うんですね。だけど、みんな黙って静かに聞いている。私も静かに聞いている。

鎌田先生が完全受動態についておっしゃった、日本の和歌とか俳句というのは生きとし生けるものが歌っているそのうたを聞いて、それをそのまま写し取っていく。それが和歌や俳句なんだ。完全受動態になれば、生きとし生けるもののうたが聞こえてくるんだ。鎌田先生はそういう風におっしゃっていました。これは古今和歌集の仮名序というところに、紀貫之が書いたらしいのですけれども、そういうことが書いてある。

それと同じだ、と私は思ったのですね。柴田先生がやっておられることは、この人たちのうたがそのまま聞こえているんだ。そのまま聞こえる。どうやって聞こえるかというと、身体を通して感じるのだと。非常に不思議で、最初は運動感覚を感じている、掌の上で相手の指が動く運動感覚を感じているのだけれども、それがそのうち必要なくなるというんですね。手を持っているだけでわかるようになってくる。これは何なんだろう? 運動しようとする、神経インパルスでもいいですけど、神経インパルス自体を感じているのか?

そのひとの本当に言いたいことが、柴田先生の口を通して出てくる――言霊という言葉がありますが、鎌田先生は言霊の研究者ですが、柴田先生は言霊実践家だと、私はその時思いました。

中途障害か何かで動けなくなった方がその時来ておられて、全くしゃべれない。その方は横になって、やはり通訳の方に手を取っていただいて、お話をされた。その時におっしゃっていたことが、私は凄く印象的でした。「ここに来ている人たちは、みんな本当にやさしいですね」と。「身体でわかるんです」と、その時おっしゃったんです。私もそう感じたんです。ちょうど津久井やまゆり園で非常に悲惨な殺人事件があった後でした。当事者の方が巻き込まれた。あのことについてみんな怒っているんですね。私も皆さんのお話を聞いて、その怒っている内容に、本当にそうだなと思いました。「みんな言葉が話せなくても、知的障害でも、命なんだから大切にしなくちゃいけないでしょう」と、そんな感じでいう人たちは大勢いる。でも、そうじゃない! われわれは喋れる! 我々は言葉を持っているんだ! 我々はいろんなことを考えているんだ! それを知ってもらわないと、という話をみんなされていました。

私も、そこの場にいさせていただいて、心洗われるというのはこういうことだなと思いました。鎌田先生のところでお話したことで言えば、超パワースポットという感じでした。

そういうことができるんだということを、我々はもっと素直に認めていくことで、自分というものの出来ること、あるいは人とのつながりも広がっていくんじゃないかな、ということを思わせていただいた対談でした。

(熊野宏昭)

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