2022/06/18 10:00

こんにちは 馨子です 

今日は長野県内に住むアーティスト中條聡さんに活動報告を書いていただきました。

中條くんはなんだかおもしろい人です。

急に話を振るとおもしろいことを言ってくれます。


そんな中條くんが「こんなヤバそうなの誰が行くんだろう」って思ってる方のために 活動報告を書いてくれました。


それではどうぞ 

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『長野県大町市・木崎湖のほとりに集うアーティスト達。"原始感覚"に手繰り寄せられた彼等がつくるディープな祭、原始感覚美術祭―。』


こんなヤバそうなの誰が行くんだろうって思ってる方のために、実際に足を踏み入れるようになった僕の体験をお話しします。


初めて原始感覚美術祭を見に行ったのは、美大で絵を描いていた学生の時です。


そもそもアートを見れる場所は数多あるわけで、わざわざ地方の、決してアクセスがいいとは言えない木崎湖までやってくるお客さんたちも、きっと"原始感覚"という響きに何かを感じてしまう人たちなんでしょう。 


長野県が地元とはいえ、やっぱり僕もその一人でした。

アトリエで絵を描いたり、ぜんぜん描けずに遊び歩いたりしていた学生時代。民俗、文化、身体感覚、いろんなことをつまみ食いして、ヒトの根底にある普遍的な何かを覗きたくて悶々としていました。そんな青年にとって、"原始感覚美術祭"だなんて、まるであまーいトッピング全部のせパフェみたいに心ときめく響きなのでした。


田舎者の僕は、アートに憧れながらもアートに対してなんだか距離を感じていました。自分の散らかった生活の場に一旦鍵をかけて、よそ行きの格好で美術館やギャラリーという特別な社交場に出かけていくような感じです。 

もちろんそういった特別感もまたアートの楽しさのひとつだと思います。だけどそれはある約束の上に成り立っているもので、もしギャラリーの中に鳩が一羽迷い込んで、立派な絵の額縁に止まって「でーでーぽっぽー」とでも鳴こうものなら、急に展示室の崇高さが乱れて、さっきまで堂々としていた絵がバツの悪そうな顔をして咳払いでもするんじゃないか…という気がしていました。


信濃大町駅で自転車を借りて、キコキコ漕いで見て回った原始感覚美術祭は、蛾がいっぱい死んでる市民講堂だったり、蒸し暑い蔵の中だったり、雨ざらしの湖畔だったり、蚊に追われて進む林の中が舞台でした。立派そう・賢そう・空調効いてそう・さわったら怒られそう…といった僕の持っていた狭い美術のイメージとはぜんぜん違った、土とか汗とかカビ臭いものでした。鳩が止まっても平気な顔をしていそうでした。


場所と繋がった作品は、そこに存在する必然性があって、アートの世界の話だから、と無視できないような切実なリアリティを持っていました。

置かれた作品と、汗ばんだ裸足にゴム草履をはいた僕とが、確かに同じ地面に立っているという感覚です。


表現するという行為が、できあがった作品だけの問題ではなくて、その置かれている場所とか、展示空間の外の景色とか、その景色を軽トラで通り過ぎていったおじさんの生活とか、家に帰って台所でご飯に納豆をかけてる僕の生活と、細い根っこみたいに繋がってる。こんなふうに泥臭い日常に根っこを張って、その上に花が咲くように表現というものがある。

頭でっかちで、そのくせ取り繕いきれないでいた僕は、なにか救われたような気がしました。


…そんなこんなで絵を続けているうちに、ご縁があって昨年から作家として原始感覚美術祭に参加しています。


お気づきでしょうか。"原始感覚"と聞いてなんにも引っかからない人は、そもそもこんな文章読まないんです。そうです。あなたもこっち側なんですよ…


木崎湖で待っています。ぜひ遊びに来てください。

中條聡

■作家紹介
中條聡
1994年長野県松本市生まれ
金沢美術工芸大学(日本画専攻)卒業
東洋絵画の墨線と紙の空白による表現から発展して、羊毛フェルトをキャンバスとして自我や意識をテーマに絵画制作をしています。