クラファンを開始して10日あまりが経過し、早くも当初資金調達目標額に対して、6割近いご支援を頂きました。まことに、有難うございます。
実際に書籍をお届けできるのはまだしばらく先ですが、あまりネタバレにならない程度に、the Hungry Tideの登場人物を少しだけ紹介してみたいと思います。今回ご紹介するのは、本作の無口な主人公、シュンドルボンで蟹をとって細々と暮らしている貧しい漁師フォキール・モンドル。
シュンドルボンに棲息するイラワディ・カワイルカの生態調査にやってきたインド系アメリカ人の海洋哺乳類学者ピヤは、調査の相棒となるフォキールについて、こう言っています。
「自然ってね、ずっと長いこと何も起こらないものなの。それで、突然爆発的に何かが起こって、だけどそれも一瞬で終わってしまう。そんなリズムに適応できる人は、そうそういるものじゃないわ。百万人に一人ってところ。だからこそ、フォキールみたいな人に巡り合うのは本当に素晴らしいことなのよ。さっきフォキールがイルカを見つけたの、見たでしょう?フォキールって、本当にずっと水を見ているのよ―無意識かもしれないけどね。これまでも、沢山年季の入った漁師と一緒に仕事をしてきたけど、ここまで優れた感覚を持っている人はいなかったわ。河の中で何が起こっているか全部わかるみたいなのよ」
もっともこのフォキール、ベンガル語しか話せないので、超重要人物であるにもかかわらず、作中では、彼自身が喋ることはあまりありません。相棒のピヤは反対に英語しか話せないので、ピヤ&フォキールの調査チームは、身振り手振りによる意思疎通だけで、ピヤの今後の人生を変えてしまうような素晴らしい成果をあげていくことになります。
さて、このフォキールは、優れた漁師であるだけでなく、本作の展開の鍵を握るいろいろな秘密を秘めた登場人物なのですが、その辺は完全にネタバレになってしまうので、今日は伏せさせていただきます。
ところで、このフォキールという名前から、皆さんは、彼が、ヒンドゥー教徒か、イスラーム教徒か、見当がつきますか?インドにいたことがある方や、詳しい方なら、インド人の宗教は名前を見ればだいたいわかってしまうのですが、このフォキール・モンドルという名前は少し判断が難しいかもしれませんね。このよくわからない名前は、おそらく著者アミタヴ・ゴーシュの意識的な仕掛けで、このことは、物語の後半で大きな意味を持ってきます。とりあえず今のところは、一見人食い虎や鰐がはびこるとんでもない辺境に思えるガンジス河口のマングローブ地帯シュンドルボンが、実はさまざまな信仰の十字路でもあって、人々の文化・生活においても独特な生態系を築き上げてきた土地であり、フォキールもまたその豊かな伝統をしっかり受け継いでいる人物であり、彼の名前もそれと関係があるのだと思わせぶりに述べるに留めておきたいと思います。
次回は、ベンガルの最大の悩みともいえる、この地の自然災害について少し解説してみたいと思います(気が変わって全然別のことをお話するかもしれませんが)。