「里沼の記憶」は調性音楽です。
これまでの僕は現代音楽に見られる無調の曲を作ることが多かったのですが、
館林の歌にはいわゆる古典芸術の伝統的なスタイルである、
調性音楽がふさわしいと思いました。
調性音楽とは、中心音(主音)が存在する音楽で、長調と短調の2種類が存在する音楽です。
そこには主音に進もうとする引力のような 「力関係」 が存在します。
ドミナント(属音)はトニカ(主音)へ解決します。
2021年春から夏に味わった辛酸の全ては、
現在の暮らしを導くためのドミナントだったと、今なら思えます。
5月3日から始まった川越での生活。
万事うまく行くように準備して居を構えたはずでした。
しかし、間もなく2つの問題が勃発。5/24には早くも内覧に行っているのです。
7月には、3つ目の大問題で、もう住めないことが決まりました。
防音工事は9月開始、10月完成。このスケジュールは変えられませんでした。
自宅では音を出すことができず、
日に日に技術が衰えていくのがわかり、辛い時間を過ごしました。
コロナ自粛で演奏会ができないどころか、練習さえままらない。
音楽家にとってこれ以上の懊悩はありません。
どうにか、住める場所を探さないといけない。
この歳で住宅ローンはできませんし、今はコロナで収入が絶たれ賃貸も無理です。
そして防音室2部屋分を作る資金しか持ち合わせていません。
それで買える家ということは、
築40年以上の山の中のボロ屋か階段4階の古い団地アパートです。
7月までに、ざっと6件は内覧したと思います。
いっそ福岡に帰ることも考えましたが、むしろ立ち行かなくなります。
母はそんな状況を見かねて、
「もうすぐ死ぬから、私の虎の子を全部使って、もう少しいい家にしなさい」
と言ってくれました。そこから潮目が変わります。
中古でもリフォーム済み、しかも戸建で駅近が視野に入りました。
川越にも近い場所で探し、足利、羽生、そして館林と、
物件巡りが大好きな母は、歩くことさえやっとなのに一緒に来たがりました。
真夏の内覧ドライブの日々は、今思えば母との最後の思い出作りだったのです。
館林の澄んだ空気に心打たれ、中古の戸建に決めかけたその翌朝、
PCに舞い込んできた新築戸建の新情報。
ちょっと予算を超えていましたが、すぐに内覧に行きました。
新築を見るのは初めてで憶するものがありましたがちょっと工夫すれば届く値段。
それが今住んでいる、茂林寺近くの家です。
(続きは明日)