皆さま、
カシミール国際言語学会での発表が終わりました。
インターネットによる情報洪水の時代に、いかにして言語情報を活用する「言語的人間」になるか、をテーマにした発表でした。
パキスタンでは、まず二年前のラホール講演で、喉頭降下による母音獲得と脳室内免疫細胞ネットワークによる脊髄反射の回路で言語処理していることを論じました。
続いて、昨年のカラチ講演では、大陸と大陸が衝突した際に生まれた隙間に、土砂が堆積して生まれた、ヒトの認知能力を越える大平原で、王権の統治目的で文字が生み出され、それを副次的に利用して、知識の世代間継承が可能となり、文明が生まれたとする、まったく新しい文明観を提示しました。
文明を言語的現象としてとらえると、インダス文明崩壊の謎も、識字教育不足による、言語的継承の不足という言語的現象として、説明できます。
そして、いよいよ三回目のカシミール講演では、言語的人類にとっての三回目の進化、コンピュータネットワークの時代にどうすれば言語的人間になれるかを、論じることになりました。
問題を二分し、まず、どうしたらヒトは脊髄反射による言語処理の制約を、乗り越えることができるかを論じました。
それには4つの注意事項があります。
① 静かで、平和な環境で、適度に身体を運動させることによって、知的好奇心を活性化させる。
② 言葉の意味のメカニズムを理解する。
まず、言葉の記憶を司る概念装置を産生(成熟)させる。
次に、感覚記憶を獲得する。
そして、概念操作を通じて、論理操作の記憶を蓄積する。この論理操作の記憶によって、概念体系が構築されます。また、感覚記憶を伴わない論理概念の意味はこの思考記憶を意味とします。
③ 脊髄記号反射は、書き換えや、入力信号を疑問視することを予定していません。ヒトが、言葉を正しく使うにあたって、この点はきちんと理解しておく必要があります。
つまり、自分の構築した概念体系や、言葉の意味を、柔軟に書き換える覚悟をもつこと。そして、入力信号(記号や情報)が、正しいものであるかどうかを、常に疑う必要があるということです。
④ 脊髄記号反射は、記号単体に反応するメカニズムです。より複雑なシステムを考えるようにはできていません。
複雑なシステムを考えるためには、ブロック図(参照モデル)を別に作成して、それを見ながら、自分は巨大システムのどの部分について考えているのか。システムは、矛盾なく動くだろうか、と常に全体を考える必要があります。
第二の問題は、どうすれば誤りのない言語情報にできるか、です。
これは、情報理論における通信路符号化誤りと情報源符号化誤りという二分法を参考にします。
具体的には、誤りを、著者の責任によらない誤り(著者の手を離れた後に起きる誤り、誤植、改ざん、偽書など)と、著者の責任による誤り(著者自身の考え間違いや盗作やゴーストライター作品)に二分するのです。
この二分法は、(著者の責任によらない誤り)と(著者の責任による誤り)を合わせると(全ての誤り)になります。
つまり、どの著者の著作を読むとしても、必ず(著者本人の希望する言葉であるか、通信路符号化)、(著者の考えは正しいか、情報源符号化)の両方を丁寧に確かめながら読み解いていくことが求められているのです。
こうすれば、いつか我々言語的人類は、知識のゲノム化を行うことができます。
パキスタンのおかげで、デジタル言語学は、行くところまで行ったという気がします。
発表に対する反応として、これまで直立二足歩行したから喉頭降下が起きたと習っていたが、違うのか。という疑問、感想がありました。
これまでの言語学は、その程度の見かけや憶測で、できていたのです。
今回発表して、あらためて、デジタル言語学と言語学の関係は、分子生物学と生物学の関係に等しいと思うに至りました。
あるいは、分子生物学の研究成果を言語学に適用したのがデジタル言語学といえるでしょう。
得丸久文