今回、クラウドファンディングを初めて試み、いろいろな学びがあったのでまとめてみます。
1.究極的な直接金融
まず、クラウドファンディングは「究極の直接金融」であり、大きく分けて、寄付型、購入型、投資型という分類があります(三菱UFJ信託銀行「クラウドファンディングとその特性」資産運用情報2015年9月号)。私が実施したプロジェクトは本の購入型ですが、購入型と寄付型のハイブリット型といっていいかもしれません。なぜなら、出資者が本を購入した、あるいは情報を買ったといっても、3万円や10万円を出資した出資者にとっては、その値段や価値以上の出資をしていることになるからです。実質、寄付と思っていただいた方が多いのではないかと思いました。
2.寄付型と購入型の規制は緩い
また、やってみて感じたのですが、購入型と寄付型に関する法的規制はあまりないことは意外でした。特に資金調達者である私には、大きな負担は生じていません。ただ、購入型は、通信販売に当たるので、特定商取引法の規制がかかりました。価格の表示や支払方法、商品の引き渡し時期などの表記に関して厳格なルールに従っています。不当表示にならないように、景品表示法にも注意が必要でしょう。また、欠陥品が販売された場合は、民法の契約法に基づき、商品の交換や損害賠償請求など発生するかもしれません。ただ、商品が本なのでそのようなリスクは僅少だったことでしょう。そしてある程度、良識従い、誠実に対応することで十分でした。
一方、投資型になると、金融商品取引法の規制が出てきて、途端に難易度が上がります。よって、個人や小規模事業者が投資型クラウドファンディングで資金調達するのは現実的ではないかもしれません。おそらく、私たち一般人が検討するのは、寄付型や購入型になるのだと思います。
3.参加型クラウドファンディング
そして、もう一つ私が注目したいのは参加型です。今回立ち上げたコミュニティの「働きながら社会人大学院で学ぶ研究会」が典型ですが、購入型と連携しながらプロジェクトにも参加いただくというもの。参加には毎月の会費が必要ですが、まるで部活の部費を納めるようなもので、参加者自らもプロジェクトに貢献するという参加型になります。
たとえば、今後共著の出版を模索していますが、全員で継続的・持続的に活動し、その成果物の一つとして共著を世に出していくことになります。理屈上は月1000円の会費で15名集まれば、継続して年に一冊オンデマンドの共著を出版できることになります。資金不足が生じた場合、通常の購入型クラウドファンディングで予約販売機能を持たせた資金調達で補完することも可能かもしれません。
4.応援に値する社会性や将来性
井上徹「クラウドファンディングを巡る諸問題:展望」横浜経営研究38巻2号(2017年)によると、クラウドファンディングに関する研究が極めて少ないのは、投資型については、既存の議論で十分であり、あらためて議論する必要性がなく、一方、寄付型や購入型に対する理論的アプローチは、心理的な問題や、感情、満足度などの要素があるので、難しいからだと指摘します。
なるほどと思いますが、銀行に事業計画を提出しても審査が通らない案件が、「この案件は応援したい」、「この人を支援したい」あるいは「このプロジェクトに参加したい」という支援者のおかげで成功するわけです。このように人々の動機を分析して、成功の秘訣を探るのは難しいと思いますが、経済的なリターンを度外視したファンをどれだけ集められるのかがカギになるのでしょう。
5.「谷町」性は浸透するのか
「谷町」あるいは「タニマチ」は、現在の大阪市中央区谷町に実在した医師が、幕下力士に無料で治療を提供していたことに由来する言葉です。その医師は、一貫して「貧乏人は無料、生活できる人は薬代1日四銭、金持ちは2倍でも3倍でも払ってくれ」を通したそうですが、この谷町の医師の精神に通じるものがクラウドファンディングにもあるように思います。結局、同一の商品・サービスに対する対価が人によって一定ではなく、収入の多寡や資産の大小によって変わることになります。しかもそれは出資者の自発性に拠ります。寄付型・購入型では、世の中でこの「谷町」性がどこまで浸透するのか、ということが今後の発展の要になるのかもしれません。
私にとって今回の小さな挑戦から得られた経験は貴重でした。現時点で次のクラウドファンディングにつながるかわかりませんが、ひとまず自らの体験を整理しておこうと思いました。