
あたたかい応援とご支援をいただき、本当にありがとうございます。
2023年からケニア・ホマベイ郡で実施してきた「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)プログラム」が、このたび3年間の活動を終えました。
このプログラムは、PLASにとって初めてとなる性に関する教育事業です。
これまでPLASは、親子支援事業などを通じて、子どもたちを取り巻く環境づくりに取り組んできました。その中で、現地では早すぎる妊娠や出産といった課題が繰り返し見えてきており、長年活動を続ける中で、この問題に向き合う必要性を強く感じてきました。
そこで新たな挑戦として始まったのが、このSRHRプログラムでした。
このプログラムを担当したのは、海外事業プログラムオフィサーの牧野です。
ピアエデュケーターと牧野
現地パートナー団体ビアジェンコと日々オンラインでやり取りを重ね、何度も現地へ足を運びながら、若者や保護者、教師、地域の人々と向き合ってきました。
3年間を振り返り、牧野が感じたのは、若者たちの確かな成長だけではありません。
「支援する」とはどういうことなのか。
現地の文化や価値観とどう向き合うべきなのか。
そして、自分たちが良いと思っていることを、そのまま伝えることが本当に相手のためになるのか。
現場で活動を続ける中で、答えがすぐには見つからない問いにも向き合い続けた3年間でした。
今回は、プログラムを通して生まれた変化とともに、現場で牧野が感じた学びや葛藤もあわせてご紹介します。
「自分で選び、決める」ための知識を届ける
SRHRとは、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights)」のことです。

自分の体、性や生殖について、誰もが十分な情報を得られ、自分の望むことを自分自身で選択し、決定できること。そして、そのために必要な医療や相談へ安心してアクセスできることを意味します。
牧野は、3年間このプログラムに携わる中で、SRHRは決してアフリカだけの課題ではないと感じるようになったと話します。
「SRHRって、なかなか身近なトピックではないと思われがちなんです。でも、恋愛や結婚、妊娠、出産など、私たち自身の人生の選択にも関わることです。日本でも、周りの声や社会の価値観によって、自分の意思決定が左右されることがあると思います。」
SRHRプログラムは、性について教えることだけが目的ではありません。
誰もが正しい知識を持ち、自分自身や相手を尊重しながら、自分の人生を自分で選択できるようになる取り組みです。
なぜ、この地域で取り組む必要があったのか
プログラムを実施したケニア・ホマベイ郡は、ケニア国内でもHIV感染率や10代の妊娠率が高い地域です。

HIV感染率は全国平均を大きく上回り、10代の妊娠率は約23%。これまでには、9歳の少女が妊娠・出産した事例も報告されています。
その背景には、性について話すことがタブー視される文化や、正しい知識を学ぶ機会の少なさがあります。
また、若年妊娠をした少女は学校を中退せざるを得なくなったり、周囲から偏見や差別を受けたりすることも少なくありません。
その結果、教育や就業の機会を失い、貧困が次の世代へ引き継がれてしまうという課題があります。
牧野は、こうした課題に向き合う中で、「知識を届けること」の意味について考え続けてきました。
知識を伝えるだけで、本当に若者たちは未来を選べるようになるのだろうか。家庭や学校、地域の環境が変わらなければ、若者たちは安心して行動できないのではないか。
そうした問いを持ちながら、プログラムは進められてきました。
若者だけではなく、地域全体とともに
プログラムの中心となったのは、「ピアエデュケーター」の育成です。
15〜18歳の若者たちがSRHRについて学び、その後、自分たちの学校や地域で同世代へ知識を伝えていきます。
ピアエデュケーターたち
しかし、PLASが目指したのは、若者だけが変わることではありませんでした。
家庭へ戻れば、保護者がいます。
学校へ行けば、教師がいます。
困ったときには相談できる医療施設が必要です。
そして、その地域には行政や地域のリーダーがいます。
だからこそ、このプログラムでは、保護者への研修、教師への研修、医療施設との連携、行政との関係者会議など、地域全体を巻き込んだ取り組みを進めてきました。

牧野は、このプログラムの特徴を次のように話します。
「全体としては、ピアエデュケーターの育成と啓発活動ということになるんですけれども、そこから学校、家庭、地域を巻き込むプロジェクトの設計になっています。」
地域の中に、若者が安心して相談できる人がいること。
家庭でも学校でも、将来について話せる環境があること。
そうした積み重ねが、若者たちの選択を支える力になるとPLASは考えています。
そして、牧野はピアエデュケーターについて、こんな言葉で表現しました。
「ピアエデュケーターというのは、パッと問題を解決する存在ではありません。すごく長い目で知識を届けていかなければいけない存在です。地域の中で変化を生み出す入り口であり、きっかけになる存在だと思っています。」
目に見える変化は、すぐには現れないかもしれません。
それでも、一人の若者が勇気を持って声を上げることが、友人へ、家族へ、そして地域へと少しずつ広がっていく。
PLASは、その小さな積み重ねこそが、地域の未来を変える力になると信じています。
たくさんの子どもたちの前で話すトレバーさん
若者たちの挑戦が、地域を少しずつ変えていった
3年間のプログラムを通して育成したピアエデュケーターは28名。
学校や地域で実施した啓発活動には延べ1,628名の子ども・若者が参加し、6つの医療施設を通じて約21,000個の避妊具と約3,800個の避妊薬を届けました。
こうした数字は、プログラムが届けた成果の一部です。
しかし、牧野が3年間で最も大きな変化として感じたのは、数字では表せない「人の変化」でした。

「伝える側」へと成長した若者たち
リリアンさんは、学校で同級生が若年妊娠やHIV/エイズによって将来の選択肢を失っていく姿を見て、「自分も地域を変える一人になりたい」と思い、ピアエデュケーターになりました。

活動を始める前は、人前で話すことが苦手で、自信もありませんでした。
しかし、研修や啓発活動を重ねる中で、今では地域の人々に性感染症や望まない妊娠について自信を持って伝えられるようになりました。
ロジャースさんもまた、若年妊娠や学校中退が身近にある地域を変えたいという思いから活動に参加しました。

活動を続ける中で特に印象的だったのは、若者と親世代との間にある「世代間のギャップ」だったと言います。
「親や祖父母の世代は性について話すことに抵抗がある。でも、若い世代には正しい知識が必要です。」
そう感じたロジャースさんは、地域だけでなく、自分の家庭でも少しずつ話し合いを始めました。
その結果、家族の中でも将来や家族計画について話せるようになり、「チームワークで地域を変えられること、人は誰かに良い影響を与えられることを学びました」と話しています。
牧野は、こうした若者たちの姿を間近で見続けてきました。
「以前は人前で話すことが苦手だった子が、自信を持って地域で話せるようになる。そういう変化を見られたことは、本当に大きな成果だったと思っています。」
地域にも少しずつ広がった変化
変化は、若者たちだけにとどまりませんでした。
学校の先生からは、
「ピアエデュケーターは学校にとってとても大切な存在です。先生は恥ずかしくて話題を避けてしまうこともありますが、生徒同士だからこそ安心して話せることがあります。」
という声が寄せられました。

また、医療施設のスタッフからは、
「以前は若年妊娠した少女が毎日のように来ていましたが、今は着実に人数が減っています。」
という変化も聞かれました。
一方で、
「若い世代は以前より情報を得られるようになってきました。次は地域の大人たちの意識も変えていく必要があります。」
という声もありました。

若者たちが変わることで、学校や家庭、医療施設にも少しずつ変化が生まれ始めています。
だからこそ、このプログラムは若者だけではなく、地域全体を巻き込む形で進めてきました。
データが裏付けた「対話」の変化
プログラムでは、開始前と終了後に同じアンケートを実施し、参加者の変化を確認しました。
その結果、家族とのコミュニケーションには大きな変化が見られました。

「心配事や身の危険について親と話せる」と答えた若者は大幅に増え、「性や生殖について家族と話したことがある」という回答も大きく伸びました。
また、
・若年妊娠が将来へ与える影響への理解
・妊娠が分かったときに取るべき行動
・性的同意の大切さ
・性について友人と話すことへの抵抗感
など、知識だけでなく、自分で考え、行動する力にも変化が見られました。

一方で、データだけでは見えてこないこともありました。
例えば、アンケートでは「家族と話せるようになった」という結果が出ても、その背景には、勇気を出して初めて親に話しかけた若者がいます。
人前で話すことが怖かった子が、何度も練習を重ねて地域で啓発活動を行うようになった姿があります。
そうした一人ひとりの変化を見てきたからこそ、牧野は「数字だけでは測れない成果がある」と感じています。
現場で見えてきた問い
3年間の活動を通して、若者たちには確かな変化が生まれました。
一方で、牧野の中には、活動を続けるほど簡単には答えを出せない問いも生まれていきました。
その一つが、「ジェンダー」についてです。
アンケートでは、性や生殖に関する知識や、性的同意への理解は大きく向上しました。
しかし、男女の役割に対する考え方については、大きな変化は見られませんでした。

活動地域では、宗教や文化の影響もあり、「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という価値観が、長い年月をかけて地域に根付いています。
その現実を目の当たりにした牧野は、「変わらなかった」という結果だけでは語れない思いを抱くようになりました。
「私たちが『ジェンダー平等でなければいけない』と伝えることが、本当に現地にとって良いことなのか。理想だけれども、現実は全然違う。そのギャップの中に若者たちを置き去りにしてしまっているんじゃないか。そんなことも現地で考えるようになりました。」
PLASが目指しているのは、価値観を押し付けることではありません。
地域には、その土地の歴史や文化、人々の暮らしがあります。
だからこそ、外から「こうあるべき」を伝えるだけではなく、現地の人たちと対話を重ねながら、一緒に考えていくことを大切にしています。
ヒアリングに協力してくれたピアエデュケーターのウィクリフさんとクリスフィーンさん(中央)
牧野は、この問いに対する答えは、まだ見つかっていないと言います。
「データだけ見れば、『変わらなかった』と言えてしまうかもしれません。でも、それだけではないと思っています。答えはまだ見えていません。」
その一方で、この3年間を通して、一つ確信したこともありました。
「知識は必ずついていることはデータからも見えています。その知識を持った上で、お互いを尊重するパートナー関係を築けること。その大切さを伝えていくことが、今の私たちにできることなんじゃないかと思っています。」
現場では、ほかにもさまざまな課題が見えてきました。
例えば、HIVに関する感染経路についてです。
研修を重ねても、「唾液で感染する」といった誤った知識が繰り返し聞かれることがありました。
また、USAIDによる支援縮小などの影響を受け、避妊具や避妊薬の供給をPLASに頼らざるを得ない医療施設もあります。
牧野は、このことについても率直に語っています。
「PLASとしては『あげる支援』ではなく『つくる支援』を目指しています。避妊具や避妊薬についても、現地で持続的に入手できる方法を模索していきたいと思っています。でも、どうすれば依存を減らし、現地だけで続けられるのか。まだ答えは見えていないところです。」
若年妊娠は、知識だけで防げる問題ではありません。
貧困や教育、社会制度、文化、偏見など、さまざまな要因が複雑に重なり合っています。
だからこそ、このプログラムも「知識を届けたら終わり」ではなく、地域の中で対話を続けながら、一歩ずつ環境を変えていくことを目指してきました。
次の挑戦へ
3年間のプログラムで得られた経験は、新たな取り組みへとつながっています。
現在、ホマベイ郡では、若者たちが安心して学び、相談できる「チルドレン&ユースセンター」の建設が進んでいます。
建設中のチルドレン&ユースセンター
センターにはパートナー団体ビアジェンコのカウンセラーが常駐し、研修や相談対応、若者同士が学び合う場として活用される予定です。
また、新たに50名のピアエデュケーター育成も始まりました。
さらに、ケニアで培った経験は、2026年からウガンダでも新たなプログラムとして展開されています。
もちろん、ケニアとウガンダでは地域の状況が異なります。
だからこそ、同じ方法をそのまま当てはめるのではなく、現地の人たちと話し合いながら、それぞれの地域に合った形を一緒につくっています。
ムコノ政府との会合(ウガンダ)
若者たちの勇気を、これからも
牧野は、この3年間を振り返り、最後にこんな言葉を話しました。
「ピアエデュケーターは、すぐに問題を解決する存在ではありません。時間をかけて知識を届け続けることで、地域の中に少しずつ変化を生み出していく存在だと思っています。」
一人の若者が勇気を持って声を上げること。
その声が友人へ届き、家族へ届き、地域へ広がっていくこと。
その積み重ねが、少しずつ地域を変えていく力になると、PLASは信じています。
修了証書を手にしたピアエデュケーターたち。修了式後の集合写真。
3年間のプログラムは一区切りを迎えました。
しかし、若者たちが自分らしい未来を選択できる地域をつくる挑戦は、これからも続きます。
現地の人たちとともに悩み、ともに問い、ともに答えを探し続けながら。
この3年間の歩みは、皆さまからのあたたかいご支援があったからこそ実現することができました。
これからも、若者たち一人ひとりが自分らしい未来を選択できる社会を目指して、現地の人々とともに歩みを続けてまいります。
PLASは設立20年という節目を迎え、これまで培ってきた支援の知見を他の地域へ広げる新たな挑戦を進めています。
「子どもたちに夢を。支援の知見を分かち合う、20年目のPLASの挑戦」については、こちらからご覧いただけます。



