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今回も『時折2024』収録作の紹介をしていきます。
【時折2024 作品紹介】では、それぞれの月のテーマとなる12の作品について1つずつご紹介したいと思います。
※作品写真は本番の紙で折る前の「試作」状態のものを含みます。商品に掲載されるものはより見栄えのする状態になっているかと思いますのでご期待くださいませ。
今回の特集:3月掲載分「チョウ」
3月は春らしいモチーフを選んでみました。
この作品は『時折2024』プロジェクト発足前に創作したもので、「折紙探偵団コンベンション」という折り紙作家・愛好家の交流イベントでの講習用に作った作品です。
講習のしやすいように難易度が低めのものを考えていたため、この『時折』にもマッチしたというわけです。
見てのとおり、触角や脚などは省略されており、『時折2024』の中で最も難易度の低い作品となっています。
しかし、見どころのない作品というわけではありません。
「チョウ」を語るにあたりテーマの一つとなるのが、「対称性」というワードです。
こちらは初期の試作です。上下の羽の形がかなり似ているのがわかるかと思います。
この作品の基本構造は、上下で全く同じものになっています。腹の部分をどちらかに倒すかの違いのみによって上下が確定するのです。
ただしこのままでは生き物感が薄すぎるため、仕上げで上下の羽をそれぞれ作り込み、形を整えたものが今のバージョンです。
折り紙にあまり馴染みのない方の中には、なぜこのような創作の経過をたどったのか不思議に思われる方もいるかもしれません。
「どうせ上下で違う形がほしいのであれば、一旦対称な形を作るような回り道をせずいきなり作り分ければいいだろう」と。
この手法をとった理由について説明するには、折り紙作品を成り立たせる「基本構造→仕上げ」の流れを見るのがよさそうです。
基本構造/仕上げって?
折り紙作品には再現性があります。それは、用いられた折り線を、展開図(や折り図)として残しておけるからです。
一部のマニアであれば、展開図をポンと与えられさえすればその作品を再現することができるのです。僕も今までに創作したほとんどの作品や部分試作を備忘として展開図に残しています。
しかし、展開図のとおり折り畳めばそのまま作品が完成するかというと、多くの場合そうではありません。
通常展開図に描く折り線は、あくまでその作品の基本構造に限られます。仕上げで行われる曲面加工や基準のない折り、多くの層を一度に曲げるような折りの一つ一つまでを反映してしまうと図がとっ散らかり、美しさや見やすさが損なわれてしまうからです。
そこで、「基本構造を作るための折り」と、「仕上げの折り」を分けて捉える考え方が生まれ、現在の主流となりました。
基本構造の考え方にはさまざまな形式が存在しますが、紙を縦横に等分したグリッドに基づいていたり、一定の基本角度(22.5度、15度など)の倍数角しか登場しなかったり、何かしらの数学的背景を持つことが多いです。
こうした理論に基づいて創作された作品の基本構造には、幾何学的調和に基づく独特の美しさがあります。こうした背景から、「完成品だけでなく、展開図そのものの美しさを求める」といった価値観が折り紙作家の中で次第に醸成されていったのです。
「チョウ」と対称性へのこだわり
今作の話に戻しますと、「チョウ」の基本構造で上下の対称性を保つことは当然必須ではありません。仕上げにおいてあえてその対称性を崩していることからも明らかです。
しかし、基本構造の審美性という観点において、この要素を折り線として残しておくことに意味があると判断したのです。
「繰り返しの手順が増えることで説明や折りが楽になる」といったメリットも手伝って、迷いなく対称性を基本構造に残す結論に至ったのでした。
この話は作家のエゴだと言われればそれまでですが、「完成品から見て取れない、作品に内在する調和」と捉えると皆さんも少しワクワクしないでしょうか。しますよね。
これは、僕が折り紙という手法に惹かれ続けている理由の一つでもあります。
なかなか脱線してしまいましたが、好き勝手話せて満足したので今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
折り紙の魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。
では、また次の作品紹介で!