◎相州北秦横曽根村難村取直し相続手段帳(大日本帝国報徳第四十四編明治30年8月)
相州大住郡北秦横曽根村仮趣法帳
一 右は其村方の儀前々より致困窮罷在候処去る巳申(天保4、7年)両度の大凶荒飢饉に付暮方初万端必至と差詰り取直しの手段術斗尽果一同十方に暮候処当村庄兵衛老人年来善事を心懸居候へ共其村方取直し手段十方に暮候処へ風と十ヶ市場庄七出会いたし咄の内に二宮先生様の大名を承り善道の大意を蒙り度義八ヶ年以前より心懸け候処幸に庄七去る寅(天保十三年)の六月野州桜町御陣屋へ罷越候て小田原領中沼村伝蔵殿取次を以て先生様へ相願一家取直し相続其外色々御理解承り恐入感服仕候て七月二十六日まで逗留致し同日御いとま申上帰国さっそく横曽根村庄兵衛村方へ一同相談仕候得共早速に相分り兼候中段々其年も暮に相成り卯(天保十四年)の二月より下拙以参いたし庄兵衛諸とも其村方へ大小一同談合二宮先生様の御理解段々十月まで毎月三度づつ参り解聞せ候処村方名主伴右衛門、市右衛門、吉左衛門、吉蔵、惣右衛門右五人を初め村中一同恐入感心いたし御趣意に基き日々日々農業は不及申其外何事に不限村為に相成業を工風いたし出精仕或は作初穂或は山稼或は索綯(さくとう:縄ない)莚織或沓草鞋農間朝夕相励み村柄取直しの趣法組立度候得ども其目的無之致成就申間敷より先人々身の分限を能く能く弁ひ申度候譬は木ハ同じ杉といへども桶屋一升樽を造れば一升樽に成たる所則身の分限なり三升樽を造れば三升樽に成たる所身の分限なり五升樽を造れば五升樽になりたる所則身の分限なり壱斗樽を作れば壱斗樽に成たる所則身の分限なり又曰水六尺五寸の大桶を作れば日みづし大桶に成たる所則身の分限なり壱升樽弐升樽三升樽五升樽壱斗樽それぞれ日みづ大樽の積をせんといへども十分に不及候故に他念なし他念なきが故に生涯それぞれ八分に入置時はこぼれちる憂ひなし然れば横曽根村に住する者ハ村高五十七石家数潰ども弐拾弐軒但一軒に付弐石五斗九升壱合目に当る是則天性自然なり其余ハ農間朝夕相励み勤行いたし天道の正理を恐れ各々本業を尽し御百姓相続致度候若し分を失へば貧苦艱難免れず其根元を案ずるに人皆天地の間に生れて天地の潤沢を得て天地の間に住みながら、何ぞ天地に随はざるべけんや。弥慎み守る時ハ安楽自在を得る事疑なし。聖語曰天命謂之性率性之謂道脩道之謂教道也者不可須臾離可雖非可離非道也
右は相州大住郡北秦横曽根村連々致困窮難渋罷在候処去る巳申両度之大凶荒飢饉に付暮方必至と差詰り此侭差置申候ては退転仕より外有御座間敷と十方に暮れ無拠所村中一同相談の上村役人惣代を以て御地頭所へ奉願上候処助成米御金左之通り
一
一
右の通り御拝借被仰付被下置村内一同相助り様々露命を繋ぎ補ひ候段重々冥加至極難有仕合奉存候につき去る酉年より今卯年まで年々割済を以て御返納仕置候へども其未だ村柄取直しの義は十方に暮候処此度庄兵衛取持を以て二宮先生様の御理解を承り一同感心いたし前文の通り人々分限分内を弁へ候て天命に基き候へば貧窮の憂ひを免れ富貴一段の事と相励み農行出精いたし農間朝夕丹精致し或は縄索莚織草鞋其外村為にも可相成義を案外勤行いたし度義に付村中一同連印左之通り
発言人 姓名 印
名 主 同 印
組 頭 同 印
百姓代 同 印
総百姓 同 印
取次人 同 印
二宮金次郎様
聖語曰過則勿憚改と宣り
中庸曰果シテ能此道矣雖愚必明雖柔必強シ今般村柄取直し御百姓相続之趣法組立候儀は段々当二月より御理解被仰付承服仕居候処村方前々より困窮難渋いたし或は潰或は退転仕候其根元は銘々本業に怠り終に身の分限を失へ奢に長じ候故之儀尤貧富は背時て為変化者に候は一村同所に生合候義は前世の宿縁万代不易之大幸依之村内申合潰百姓或は極困窮人今日之暮方に差支へ候もの相互に助合取直し申合常々不限何事万端物事に倹約を宗とし或は酒を止め其器物を売払或は煙草を止てその道具を売払ひ或は麁服を用て其余服を売払或は麁器を用て余器を売払或は神事を厚ふし長するを禁じ或は仏事を厚ふし長ずるを禁じ、或は伊勢太々講驕奢を禁じ・・・・・・或は吉礼凶礼惣て本源を厚し弊風驕奢を省き節倹を尽し潰百姓相続仕度段窮民撫育の為め勤行仕家政取直子孫相続の義に付本業出精いたし暮方の驕倹其外何事によらず友々勤行致度事に候
日々につもる心のちりあくた
あらい流して我を尋ねん
飯としる木綿着物は身を助く
其余は我をせむるのみなり
恐可恐受財楽身有其身其身天命年々減其徳分内
恐可恐受財楽身有其身其身天命月々減其徳分内
恐可恐受財楽身有其身其身天命日々減其徳分内
恐可恐受財楽身有其身其身天命時々減其徳分内
恐可恐受財楽身有其身其身天命刻々減其徳分内
恐可恐受財楽身終減父母祖先徳失其身子孫徳也
勤可勤苦身施財有其身其身天命年々増其徳分内
勤可勤苦身施財有其身其身天命月々減其徳分内
勤可勤苦身施財有其身其身天命日々減其徳分内
勤可勤苦身施財有其身其身天命時々減其徳分内
勤可勤苦身施財有其身其身天命刻々減其徳分内
勤可勤苦身施財有其身其身天命其身子孫得徳也
聖語曰天命之謂性率性之謂道脩道之謂教道也者不可須臾離可離非道也
曇らねば誰が見てもよし富士の山
生れ姿で幾世経るとも
聖語曰過則勿憚改
日々に積る心のちりあくた
あらい流して我をたづねん
聖語曰君子必慎其独
山寺の鐘つく僧のおきふしは
しらてしりなむ四方のさとひと
湯之盤銘曰苟日新日日新又日新
いにしへの白きを思ひ洗濯の
かへすかえすもかへすかへすも
富貴貧賤善悪邪正共
蒔種と生たつさまは異なれど
実法は元の種となりぬる
蒔種のすぐにその侭生たちて
花と見るまに実法る数数
天地や無言の経をくりかへし
後に語曰天謂何時々行而百物生是謂天何儒者語同経曰色則是空空則是色(完)