アフリカ大陸最高峰へ
2023年8月25日、僕がリーダーを務める表銀座班(*1)は、槍ヶ岳から上高地までの道のりを歩いていた。4泊5日にも及ぶ2023年度夏合宿(*2)が終わろうとしているのだ。それと同時に、あと少しで僕の岳文会幹事長としての生活も終わるのである。そう思うと、達成感もあったが、少し寂しく、感慨深いものがあった。思えば約2年半もの間、僕の大学生活は岳文会1色だった。中高帰宅部の僕が、大学へ入学し、岳文に出会い、登山にハマり気がつくと幹事長にまでなっていた。運動嫌い、ゲーム大好きだった当時の自分がこのことを聞いたら、驚愕するだろう。人生何があるか分からないなー。そんなことを考えながら、小梨平キャンプ場まで歩いていた。
ふと、岳文会の幹事長を引退したら、僕は何をするんだろう、そんなことを考えた。
順当に行けば就活である。僕は大学で生物学を学んでいるが、特にやりたい分野がある訳ではなかったため、院進はあまり考えていなかった。早いなと感じた。もう就職か、と。それと同時に、僕の大学生活は岳文会だけだなと思った。それを悪いとは思わないし、むしろ幸せな大学生活だったと思う。しかし、なにか物足りなさと虚無感が僕の中に芽生えた。
何かをしたい。面白いことをやりたい。僕にしかできない、今しかできないこと。
このことを思い浮かぶ人間は限られてくるのだろう。"自分にしかできないこと"とは、ある適度、本気で特定の分野へ打ち込んだ人間しか、想像しえないからである。もし僕がプログラミングの分野で、なにも勉強していないのにも関わらず、「自分にしかできないことをやりたい」なんて言っていたら、プログラミングを本気で取り組んでいる人に対して失礼である。
僕が本気で取り組んできたこと。
あるではないか。
上りは美しい景色を求め、下りは温泉とビールがあるからと、自らに言い聞かせ、なんとかモチベーションを維持し、時になぜ自分はこんなことをしているのだろう?と疑問に思わせてくるアウトドアスポーツが。
だとしたら、"僕にしかできないこと"の答えは出た。
海外の山へ行こう。小梨平にてそう決意した。
それからはひたすら調べた。海外の山なんて考えたこともなかったし、そもそも本当に現実的なのだろうか。
死ぬのは嫌だなあ。お金もかかりそう。
調べていくうちに、"7大大陸最高峰(seven summits)"というものを知った。この地球上にある、変化に富んだ7つの大陸の最高到達点。
アジア-エベレスト
ヨーロッパ-エルブルス
オーストラリア-コジオスコ
アフリカ-キリマンジャロ
南米-アコンカグア
北米-デナリ
南極-ヴィンソンマシフ
これを知った時、興奮した。かっこよかった。登ってみたいと心から思った。恐らくこれはNewスーパーマリオブラザーズをやっていたときの感覚に似ている。それぞれ環境が異なるマップがあり、それぞれのマップにボスがいる。マップボスを倒すと次のマップへ行け、最後のマップで最大の敵クッパを倒し愛しのピーチ姫を救うのだ。
ここで言うクッパは恐らくエベレストだろう。では最初のマップのボスはだれだろう。恐らくそれはキリマンジャロだ。7大大陸最高峰の中で、特別な登山技術を必要とせず、タンザニア政府により登山者にガイド、ポーター(荷物持ち)の同行が義務付けられている。7大大陸最高峰の中で最も登りやすい山(オーストラリア大陸のコジオスコは標高2000mなので除外します。コジオスコはマリオで例えるならパックンフラワーですかね。)である。
とはいえ標高は5895m。酸素濃度は地上の約半分だ。舐めてはかかれない。マリオは穴に落ちても生き返るが、僕は生き返らない。
登山面以外も問題は山積みだ。まずお金。飛行機、ホテル、人件費(現地のガイド、ポーター)、食事、ワクチン(保険適応外なのです。)、撮影機材、、、
到底大学生である僕が払える金額ではない。
どうやって集めよう。
そんな時、同じ早稲田大学出身で7大大陸最高峰へ日本人最年少である20歳112日で登頂を果たした南谷真鈴さんの記事を思い出した。彼女はメディアや新聞に片っ端からメールを送り、取材を受け、その記事を読んだ人々からの寄付で南米最高峰のアコンカグアへ挑んでいた。集め方は違えど、僕にも同じようなことができるのではないか。岳文会のOB・OGの方々に僕自身の思いをちゃんと伝えられれば、ご支援してくださる方が見つかるのではないか。
そう思い、クラウドファンディングをやろうと決意した。
初めは本当にお金が集まるのか半信半疑だった。クラウドファンディングを初めて僅か2週間で目標金額の50万円を達成した時は、感動で胸が震えた。岳文会OB・OGの方々以外にも、現役岳文会の先輩・後輩・同期、中高の友達、昔の小学校の友達、バイト仲間、親戚、東進チューター時代の教え子などなど、たくさんの人たちが応援してくれた。僕の人生で関わってきた人たちが一つに繋がった気がした。
そして僕は今、羽田空港第三ターミナルにいる。いよいよ始まるのだ。キリマンジャロへの挑戦が。
少しの緊張感と、多くの高揚感を胸に、まだ見ぬ景色へ心躍らせながら、出発を待つ。
2024年2月2日 岳文会 64期 山内悠平
クラウドファンディングでご支援していただいた皆様、応援してくださった皆様、ありがとうございます。また、僕の挑戦を岳文会OBの方々へ伝えてくださった阿子島さん、並びに岳文会OB会長の宮島さんに心からお礼申し上げます。
*1 表銀座班: 早稲田大学公認サークル岳文会の中の表銀座縦走コースを登る班の名前
*2 夏合宿:岳文会の夏の一大イベント。各班が北アルプスの各コースを1週間かけて縦走する。