人間、誰もが年齢を重ねると、体が弱ってしまい思い通りに動かせなくなるのは仕方がありません。
ですが私たちの社会はまだ、そうした当たり前のことに対して、きちんとした対応をしきれていないように日々感じています。
例えば車椅子でお食事をされる方が、既存のレストランのテーブルの高さで、快適に料理を楽しむことができると思いますか?
咀嚼する力が弱くなった方が、食感を楽しめるゴロゴロお野菜や、分厚いお肉をかみ切ることができると思えますか?
食事は、生きるのに必須であることはもちろん、誰もが楽しむことのできる手軽な娯楽だと思います。
それなのに、ちょっと年齢を重ねただけで、選択の幅が大きく狭まってしまうのはどうなのでしょうか。
始めまして。中野景太と申します。
現在、日本料理店で調理師として働いています。
私は、もともと京都で約300年続く老舗割烹店の調理師をしていました。
調理師を志すきっかけとなったのは、高校時代のことです。
私の母は高齢者や障がいを抱えた方向けに、介護食のお弁当を作る仕事をしていました。
私もその手伝いとして、調理補助のようなことを行っていました。
料理を作る楽しさに目覚めた私は、高校卒業後、調理系の専門学校に進学。
栄養士の資格を取得するに至りました。
専門学校を卒業した私は、20歳から、先述した京都の老舗割烹料理店で修業を始めます。
5年間下積みを続け、最終的に煮方まで任せていただけるようになった後、同じお店の系列である大阪店へ転勤となりました。
足掛け7年、そちらの会社でお世話していただいたことになります。
調理師として7年過ぎたころ、実家の母が骨折をしてしまいました。
母は、祖母二人の簡単な介護をしていたのですが、骨折により施設への送迎ができなくなるということで、私が代わりに面倒を見なければならなくなりました。
大阪の店に勤めながらではとても手が回らないと困っていたところ、専門学校時代の友人が助け舟を出してくれました。
彼は、介護食の給食会社で働いており「一緒にここで働かないか」と誘ってくれたのです。
調理師という仕事はどうしても仕込みから閉店作業まで働きづめになるため、祖母の面倒を見ながらでは難しいところがありました。
ですが、介護施設の厨房チーフとして働けば、朝から働いても給食の配膳が終わる夕方には上がることができました。
調理という仕事から近くとも遠からずの業務ですし、私は友人の優しさに甘えることにしました。
厨房チーフとしての私の業務は、高齢者の方々のために栄養バランスの取れた献立を決めるだけではありませんでした。
調理を行ないながら現場の調理師さんたちを仕切る必要もありましたし、
施設の職員さんから厨房宛にいただく利用者の方々の状況報告を受け、食べやすい形に食材の切り方などを変更する業務も含まれていました。
いざ、厨房チーフとして介護食を作る現場に携わってみると、同じ料理を作るという作業でも、
注意を払わなければならないポイントの量が桁違いだということに気が付きました。
介護食の場合は、食べて下さる方が高齢者です。
ちょっとしたミスが誤嚥などを引き起こし、命の危機を招いてしまう。
もちろん、食の安全には今までも気を付けてはいましたが、責任の重さをより感じるようになりました。
それでも、やりがいはものすごく感じました。
食べているところへ伺って、おじいちゃんおばあちゃんに料理の感想を聞く機会があります。
そんな時「おいしかったよ」「いつもありがとう」と笑顔で言ってもらえると、この仕事について本当によかったと生きがいを感じるようになりました。
調理師の時も、お客さんから「おいしい」と言ってもらえることは何度もあったのですが、おじいちゃん、おばあちゃんからかけてもらう言葉は、本当に心に刺さります。
食事をおいしく食べるというのは、いくつの人でも笑顔にすることができます。
ですが、なかにはそうもいかない人がいるのだということにも徐々に気づいていきました。
私の祖母は車椅子で生活しており、細かく刻んだものでないと食べることができませんでした。
たまに「おいしいものを食べに連れていきたい」と思っても、連れていけるお店がかなり限られているということを意識するようになりました。
車椅子に対応していたり、介護食に対応したりしているお店をネットで調べてみるものの、かなり数が少ないです。
また見つけたとしても、大阪や東京の大きなホテルである場合がほとんどです。
しかも、利用する場合は事前連絡が必要となっており、近場で気軽に外食しようとなると、本当に存在しないのです。
「高齢だから」
「介護が必要だから」
ということを理由に、食の楽しみの選択が狭まってしまうという事実は、ただ調理をしていただけの頃には気が付かない現実でした。
デイサービスで施設を訪れるおじいちゃん、おばあちゃんたちとお話をしていると、ときたま、少し悲しそうに私にこんな言葉をかけてくるんです。
「私、車椅子に乗っているから外で食べに行くところないねん」
近場でこういった店があればみんな喜んでもらえるはずなのに……。
車椅子対応をしてくれると謳っている施設についても、
実際に訪れたとして、
そのお店で「介護食が提供できるか」「車椅子の方や障がいをもった方向けの設備があるか」というと別問題です。
多くの飲食店さんが、善意から少し手伝えば車椅子や介護の対応はできると考えて下さると思いますが、実際はそう甘くない現実を嫌というほど私は見ています。
例えば、そもそも入り口や座席の幅が車椅子が入れないというお店はかなりあります。
大きな問題として、車椅子の方用のトイレがきちんと整備されているお店もほとんどありませんし、
テーブルの高さだって車椅子の方に合うものが用意されていることはまずありません。
こうした問題を解決するには、最初から経費をかけてバリアフリーの設備を準備する必要があります。
一生懸命対応してくださっている従来の飲食店さんに、そこまで追加負担を強いることはできません。
ここまで考えて、ふと思ったのです。
「私には、調理師としての経験もあるし、介護食も提供できる。車椅子の高齢者の介護も現在進行形で実行している。
だったら、既存の飲食店さんにバリアフリー化をお願いするのではなく、私自身で車椅子の方も高齢者の方も利用できる飲食店を作ってしまえばいいのではないか」と。
私は現在この店舗開店に向けて、兵庫県宝塚市に店舗を購入。
現在、2024年6月頃の開業に向けて、活動を始めております。
このプロジェクトで実現したいこと
まず、お店にとって絶対に必要となるものが、車椅子の方が利用するための動線確保です。
入り口からテーブルまでの通路の幅を広くし、段差もなくしてしまおうと考えています。
車椅子の方ですと、どうしても普通のトイレを使用することは厳しくなってしまいます。
そこで、バリアフリー対応のトイレを購入し、整備もきちんと行います。
私たちは自分たちで椅子の高さを調整することができますが、車椅子の方は車椅子の高さを自由に調整することができません。
そこで、車椅子に座ったままでも食事ができるように、電動の昇降テーブルを購入し設置いたします。
家族みんなで外食を楽しんで欲しいという想いから始めるプロジェクトですので、通常のメニューだけではなく、各種介護食も提供します。
老舗割烹料理店で学ばせていただいた本格的な和食の味付けをベースとして
「柔らかければご自身で楽しめる方向けの、歯を使わなくても食べられる柔らかいコース料理」、
「嚥下する力が弱っている方のために一口大にカットした料理やとろみ食コース料理」
などを、提供しようと思います。
そのほか1ミリ単位まで刻んだキザミ食や、ミキサー食にも、事前にご連絡いただければ対応できるようにいたします。
今回ご支援いただいた資金は、先述のバリアフリー対応可能な店舗への設備改装費の補填や、
高齢者の方でも使用しやすいメラニン食器や、ワンプレート食器などの購入費用に充てさせていただきたいと考えております。
スケジュールについて
・2024年3月初旬:店舗改装工事
・2024年5月末:店舗完成
・2024年6月初旬予定:オープン予定
・2024年6月初旬予定:リターンの発送
最初は私一人でお店を回していく予定です。
調理から、お客様の対応。
場合によっては、介護のお手伝いもさせていただくことになるかと思いますので、
介護食が必要な方の店内のお食事利用は夜に一組のみになってしまうかもしれません。
お昼は当面、松花堂弁当の提供をさせていただく予定です。
ですが、本プロジェクトがうまく行き、みなさまのご支持を集めることができるようでしたら、
ゆくゆくはスタッフを増やして事業を拡大していくことも考えております。
みんなで集まって食事を楽しんでもらうことがコンセプトのお店にしたいので、
年をとって量が食べられない方がいらっしゃれば、おじいちゃんおばあちゃんは、松花堂弁当を提供するという形にするなど、ご要望にも柔軟に対応いたします。
和食の経験を活かして、例え介護食になってしまっていても、味はできるだけおいしいと感じてもらえるものにいたします。
ときどき、施設から出てこれて会えるようになったタイミングの会食や、おじいちゃん、おばあちゃんの誕生日。
傘寿、米寿などのお祝いの席に選んで利用していただけるお店にしていきたいです。
今回、お店の名前を「健康食道 老若男女」としました。
お子様からお年寄りまで、みんなでテーブルを囲んで食事ができる団らんの場を作りたいという想いからです。
介護が必要になったり、認知症が少し始まった方でも、みんなが集まって、より良い思い出になる場になったらいいなと考えております。
京料理の修業を積んできたうえに、管理栄養士並びに介護食士免許を所持して実際に現場で働いている私だからこそできる、お店を作ります。
生活形態や食事形態の変化により、外食を諦めてしまった方にも、家族と一緒に食卓を囲んでいただける場にしていきたいです。
今、おじいちゃん、おばあちゃんを連れての外食の場が無くて困っている方はもちろんですが、
今後、みなさまのご家族や、みなさま自身も確実に介護のお世話になる機会は訪れます。
高齢者を排除しないで済む、優しい社会が今後訪れてくれたらいいなと切に願っています。
みなさまの温かいご支援をお待ちしております。
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