カンヌ4日目
さすがに4日目ともなると映画祭の流れにも慣れてきます。
とはいえこの日は自作の上映がある日でやや緊張しておりました。
朝早く会場につき、各会場に上映日時の書いたポストカードを設置。
その後、マーケットブースで今回の上映のための会見を行いました。
またCinéfondation Selectionの回に赴きました。その後、末長監督の「冷たい床」を鑑賞。この作品は27分の中短編ですが制作に約3年近くかけたらしいです。古いコテージハウスで起こる密室ホラー劇ですがとにかく音、美術、演技など一つ一つのデテェールへのこだわりが素晴らしいです。まさにかつての中田秀夫監督の「リング」にあるようなJホラー的な空気感を思い起こさせました。とにかく怖いので夏の夜に一人で見ることはお勧めしません。ここで知り合ったサウンドデザイナーの生水さんによるとなんと音声だけで1年近く編集に時間をかけていたそうです。蝉の声や山の音、それに声も別どりして無意識に働きかける異常な感覚をパルス単位で処理していたそうで、まさに細部に神は宿るのだなと実感。当然のごとくニース国際映画祭でも各賞を総なめにしたそうです。
その後は取材用に黒服でパビリオンやビーチレッドカーペットを散策し収録をしていました。写真はすぐ上げらるのですがビデオのほ編集に時間が必要のため時間のある際に後程アップします。
収録後、今度は「On the road to feature」というトークに参加。ここでは前日と別のスピーカーで短編から長編へのアドバイスを語っています。いくつかはいろいろとオーバーラップしてましたが、メモ書きを残していたとこを確認すると、企画書のシノプシス(あらすじのようなもの)を書く際に企画意図を書くことが重要と述べていました。どのような作品で、あなたがどのような監督で、なぜ今その作品をとりたいのかという監督自身のプロフィールに関わる部分と背景をつけてあると印象が良いようです。(もちろん何がベスト化は人によりまちまちで正解はないのですが)。またとある女性監督は長編のために資金をいろんなところに申請しては拒否されていたようでしたが、そのたびになぜ拒否されたのかという理由を相手にメールして確認していたようです。そうするうちに企画書自体も完成度が上がっていったようです。
そのトークの後は上映前最後のハッピーアワーということもあり最後の呼び込みをかけました。シネフィルパスを持ったフランス人に話しかけると日本映画のファンだとのこと。特に黒澤明、北野武や三池崇などをよく見るとのことを話していました。(正直、これに小津を入れたほかの監督はあまり海外ではあまり知られていないのでは、あとは是枝、河瀬、黒沢清、塚本監督か、アニメも入れると宮崎監督も)上映案内を書いたポストカードを渡し、その後、スイスから来た哲学専攻の学生に「Are you a film maker?」と話しかけられる。今回は鑑賞のみの参加とのことで哲学の話題になったが自分はあまりその分野に詳しくなく返答にしどろもどろした。哲学はなかなかハードなどと話していて、私が物理専攻との旨を話すと、「物理をやっていて哲学がハードなわけないでしょう」と言われ確かにそうかもしれないと妙に納得する。話を映画に戻し上映のことを伝えていると、その連れの子が来る。彼女のほうは監督で母と5歳の娘の和解をテーマにした作品を制作したそうです。宮崎アニメの影響も取り入れているそうで、ジブリの影響力の波及は世界的だなと感じました。今回僕が制作した映画も、父と息子の家族に関わるテーマで共通している部分があり、今夜この後すぐ上映がある旨を告げると見に来てくれることになりました。
そんなこんなでハッピーアワーが終わるや否や上映会に向かいました。会場にはロンドンから来たという映画関係の学生がすでに待っていました。何でもポストカードを見てきてくれたそうで、上映を楽しみにしていたそうです。それに続き、末長監督とサンドデザイナーの生水さんも来てくれました。直前に誘ったスイス人の女性2人も後から合流し、あとはルームメイトのブレンダンを含め、のべ6名ほどが上映に来てくれました。上映中はなぜか妙に緊張していたような気がします。終わった後、末長監督と生水さんと30分近くも映画に関して議論していました。音に関してやや問題はあったのですが、評判はおおむね良好な感じであったように思います。
上映が終わると急にこれまでのマラソンを走り終えていたような感覚が消え、ようやく自分は映画祭というお祭りそして南仏のリゾート地のカンヌに来たのだという実感を感じることができました。その後カンヌ市内で監督たちと杯を交わし、また映画の話を飽きることなく何時間も話すという映画人にとっては至福の時間を過ごしました。
確かその夜だったか、いやその前の夜だったか帰りの電車で一駅おり間違て、カンヌ市街地行きの電車をプラットフォームで待っていると、駅に新聞を読み込む紳士がいました。もう終電近い時間でまだ電車があるかと聞くと、彼はこれから会場に向かうとのことで次来る電車に一緒に乗ればいいよと教えてくれました。電車が来て一駅降りるまでの15分。彼と話をすると、彼は映画祭の夜勤でした。なんでも会場ではお客が帰ったと朝にかけてスクリーニングのテストをプロデューサーなどを交えて朝までするそうです。なんだか映画祭の裏側を覗いたような感覚になりつかの間の会話の後、私は彼に別れを告げて家路につきました。まさに映画祭の間はカンヌは不夜城のようです。
最後に今回ファンド頂いた資金は、今回の映画祭での経験を存分に生かし次回作の制作に回していきますので、残り数時間となりましたがあともう一押しお願いします。
どうぞよろしくお願いします。