私の母は、がん治療を続けている最中に転倒し、そのまま帰らぬ人となりました。がんと闘うことだけでも過酷なのに、転倒という予期せぬ事故が命を奪ってしまったのです。
転倒は単なるケガではありません。がん患者にとっては、命を左右する重大なリスクです。
転倒はがん患者にとって致命的な危険
がん患者は、筋力の低下・疲労・骨密度の低下・認知機能の衰えといった影響で、転倒しやすくなります。特に高齢のがん患者では、転倒の発生率が17.6%〜35.8%と非常に高く、普通の高齢者よりも危険性が増します。
しかし、それ以上に深刻なのは転倒後の死亡リスクの高さです。
例えば、がん患者が転倒による骨折や頭部外傷で入院すると、一般の高齢者と比べて死亡するリスクが約2.58倍に跳ね上がるという研究結果があります。がん治療で免疫力が低下しているため、転倒後の感染症や合併症のリスクも高まり、最悪の場合、命を落とすことになります。
転倒後の感染症や合併症が命を奪う
転倒後の骨折や頭部外傷は、それ自体が深刻な問題ですが、さらに恐ろしいのは、そこから二次的な合併症が引き起こされることです。
:肺炎のリスク
転倒して骨折すると、痛みや手術後の影響で動くことが難しくなり、長期間の寝たきりになりやすくなります。すると、呼吸が浅くなり、痰が溜まりやすくなり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが急激に高まります。がん患者はもともと免疫が低下しているため、一度肺炎を発症すると治りにくく、命に関わることも多いのです。
:褥瘡(じょくそう・床ずれ)と感染症
長期間動けない状態が続くと、皮膚の血流が悪くなり、床ずれ(褥瘡)ができやすくなります。そこから細菌が入り、敗血症(血液の感染症)を起こせば、一気に重篤な状態に陥る可能性があります。
:深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症
入院や寝たきりの状態が続くと、足の血流が悪くなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。これが血管を流れて肺に詰まると、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)となり、突然死を引き起こす危険もあります。
:感染症(術後感染・尿路感染)
転倒後に手術を受けると、免疫が弱ったがん患者は、術後感染のリスクが通常よりも高くなります。また、動けないことで尿路感染症が起こりやすくなり、これが全身に広がれば敗血症を引き起こし、命に関わるケースも少なくありません。
これらの合併症は、転倒が引き金となって発生するものであり、一つでも発症すると回復が難しくなり、最悪の場合、命を落とすことになります。がん患者に限りません。
たった一度の転倒が、すべてを奪う

転倒が原因で入院すると、そのまま寝たきりになる可能性が高く、がんの治療を継続することすら困難になります。母もそうでした。転倒する前は、治療を受けながらも日常生活を送れていました。しかし、転倒後は急激に体力を奪われ、回復することなく亡くなってしまいました。
がんと闘うためには、転倒を防ぐことが不可欠なのです。
転倒死を防ぐために、今できること
この現実を知っていたら、私はもっと母の周りの環境を整え、転倒予防に力を入れていたでしょう。でも、同じ後悔をしてほしくない。だからこそ、伝えたい。
* 自宅や病院の環境を見直す(つまずきやすい場所を減らす、手すりをつける)
* 筋力を維持する簡単な運動を続ける(歩行やストレッチなど)
* 転倒の危険性を知り、意識を高める(家族や医療従事者と共有する)
私はこの思いを込めて、「転倒死ゼロ」を目指すプロジェクトを立ち上げました。母を失った私だからこそ伝えられることがある。がん患者だけでなく、すべての人が転倒のリスクを知り、予防に取り組む社会を目指していきます。
どうか、あなたの大切な人を守るために、転倒の怖さを知り、今日からできることを始めてください。
未来への不安~超高齢化社会とがん患者の増加がもたらす危機
内閣府HPより
私たちは今、かつてないスピードで進む超高齢化社会に突入しています。
日本では、65歳以上の人口が3人に1人になる時代が目前に迫り、
さらに「2人に1人ががんになる」とまで言われています。
つまり、がん患者でありながら高齢者でもあるという人が、 これから増えていくのです。
この現実に対して、転倒予防の重要性は、もはや個人の問題ではなく社会全体の課題です。
転倒は、単なるケガではなく、命を脅かす重大なリスク。
しかし、残念ながらその危険性が十分に認識されているとは言えません。
「たった一度の転倒が命を奪う」
この事実をもっと多くの人に知ってもらい、意識を変えていかなければなりません。
もし何も対策をしなければ、
がん患者の転倒による死亡や寝たきりが急増し、
医療や介護の負担が爆発的に増え、
社会全体の支え手が足りなくなる
そんな未来が待っています。
だからこそ、今、この警鐘を鳴らします。
転倒を防ぐことは、 命を守ること につながります。
そしてそれは、大切な人の未来を守り、
ひいてはこの社会全体を支えることにつながるのです。
あなたの身近な人に、転倒のリスクがあるかもしれません。
その人が、ある日突然、転倒をきっかけに命を落とすかもしれない。
そんな悲劇を、もう二度と繰り返さないために。
今こそ、私たち一人ひとりが行動を起こす時です。





