荒俣宏クラウドファンディングプロジェクトの事務局、株式会社春陽堂書店です。
弊社は1878年の創業。文明開化期の書籍や滝沢馬琴などの作品の復刊から始まり、ゲーテ、デフォーなどの翻訳文学も手がけてきました。
大正期以降は夏目漱石、芥川龍之介、森鷗外など皆さんご存知の文豪による作品も、弊社から数多く出版しています。
このたび、SFやファンタジーといった幻想怪奇文学の大家である荒俣宏が、
作家人生の集大成として、若き時代の情熱をひたすら注いだ英米名作の翻訳集成を美本にまとめることを思い立ち、
師であった翻訳家平井呈一の処女作を刊行した弊社での刊行を希望されました。
荒俣先生より直筆でいただいたクラウドファンディングへのメッセージをご紹介します。
このたび、半世紀にわたりおこなってきたライフワーク「英米幻想怪奇小説」の日本紹介とその翻訳をまとめて、長かった翻訳者人生に区切りをつけることにいたしました。
直接の理由は、すでに76歳を過ぎ、体力と気力の限界に近づいたことを思い知らされたからです。思えば、中学生のときに恩師平井呈ー先生の翻訳に接し、戦後の日本にもようやく、英米の伝統である幻想怪奇文学という分野が知られ始めたことが、この道を探求しようと決心するきっかけとなりました。
さいわいにも、同じ考えから活動されていた平井先生と、その若き継承者であった紀田順一郎先生の薫陶を得て、今日までこの文学とともに走りつづけることができました。古くは大学生のころから、同人誌に掲載した作品をはじめ、約十年間の会社勤めの合間に、筆名を用いて商業誌に寄稿したもの、単行本化できたものなど、振り返れば多種に及ぶ蓄積が残りました。
これらの仕事を現在の目で見直し、内容の再検討をおこない、読みやすさにも気を配った、後世へのメッセージとなる形で刊行したいと思うようになりました。それも、今もって文芸書の出版にこだわり続ける老舗、春陽堂書店のお世話になることを望んでおります。
残り少なくなった自分の余命を考えあわせ、この望みが叶うかどうかは別として、とりあえず四巻分の刊行準備に取り掛かっている次第です。
〈荒俣宏 幻想文学翻訳集成〉
・第一巻 妖精幻想詩画帖
『妖精の国で』ウィリアム・アリンガム挿絵:リチャード・ドイル
『ケルトの黄昏より三篇』(新訳) W・B・イェイツ
『サクノス以外に破るあたわぬ堅砦』ロード・ダンセイニ
『秘密の共和国』ロバート・カーク
『城一ひとつの寓話一』ジョージ・マクドナルド
『お目当ちがい』ジョージ・マクドナルド
など
・第二巻 イギリス寒雪夜がたり集
『レノーレ』(新訳)ビュルガー原作&ロゼッティ英訳
『まぼろしの恋人』ヴァーノン・リー
『夢日記』アンナ・キングズフォード
『帰還』アルジャノン・ブラックウッド
『街―ある悪夢』G・K・チェスタトン
など
・第三巻 アメリカ異世界冒険譚
『来たるべき能力』エドワード・ベラミー
『龍(ドラゴン)の鏡』A・メリット
『血は命なれば』F・M・クロフォード
『墓を愛した少年』(新訳)フィッツ=ジェイムズ・オブライエン
『半パイント入りのビン』デュボス・ヘイワード
など
・第四巻『異次元を覗く家』ウィリアム・H・ホジスン
“コズミック・ホラー”の先駆的作品として知られる本書『異次元を覗く家』は、ラヴクラフトなど後世のSF、ホラー作家に多大な影響を与えた名作です。また、ホジスンの作品は明治時代から翻訳紹介されていますので、その詳細を特別付録として掲載します。
ファンタジーなる用語は昨今どこの国でも重視され、文学の面ばかりでなく仮想現実をテクノロジー化しつつあるデジタル社会共通の関心事になっています。
この語はもともと、神話・民話・童謡・民謡および神秘劇やおとぎばなしを総括する用語でしたが、ロマンス時代以降は想像の世界をあつかう創作物語の全体をこのように呼ぶこととなりました。
私はこれらファンタジーに対する強い興味により、『指輪物語』に代表されるような近世ファンタジーブームの起源を成す作品の紹介を開始しました。
この翻訳集成本の第一期には、そうした活動をかえりみるばかりでなく、現代ファンタジーの成立発展過程がじつは今この時代の世界観にも同期していたことを示したく思います。
今回の企画は、私がコレクションしてきた関係書物の図版、挿絵などのヴィジュアル資料も収め、造本デザインも後世に残せる美しいものにすべく、多くの知友の力をお借りする予定です。
めざすは、書棚に置いておきたくなる魅力的な文芸書にすることです。
出版事情の悪化に加え、私自身が一時代前の世代となったために、かえって集成のような形式の本を出しにくくなっています。
電子書籍というメディアへの移管も選択肢ではあるのですが、新しいシステムへの変換や私自身に残された時間の少なさから、自らの集大成を紙の書籍で残すことにこだわろうと思っています。
今回の版元である春陽堂書店と私には、恩師である平井呈ーを通じた縁があります。
私が中学生時代に一方的に押しかけて弟子入りした平井先生が初期の著作を世に出したのが、春陽堂書店だったのです。
恩師の初期作と弟子の最終作が約百年の歳月を超えて同じ版元で上梓されるなら、こんな奇縁はないでしょう。
平井先生は、商業的には恵まれることのない作家人生を送りました。
そんな作家にも出版の機会を与え、才能の芽が潰えないよう支援する。作家へのサポートを通じて文壇を盛り上げようという気概が、かつての出版社にはありました。そうした昔ながらの版元の代表的な存在が、春陽堂書店であったように思います。
平井先生がおられなければ、私が幻想怪奇文学の世界で半世紀にわたって作家生活を送ることもありませんでした。
そんな私が、このたび、“遺言”ともなりそうな集成本の出版を春陽堂書店さんからお声かけいただいた。
たしかに出版の現状は厳しく、この老舗と言えども昔のような趣味ある美本は作れないと聞きますが、なんとしても文学書として価値のある作品を世に残そうという強い思いを曲げたくありません。
荒俣宏
春陽堂書店です。
以上、荒俣先生のクラウドファンディングへのメッセージをご紹介しました。
今回ご支援をいただく方々へ、下記の返礼品を準備しました。
【資金の使い道】
✅いただいた資金は制作費とし、書籍の完成を目指します。
荒俣先生のメッセージにもあるように、出版市場は年々、悪化の一途をたどっています。そのような時代でも、本当に価値ある作品を紙で出版し、皆さまの書棚に届けたい。それが、創業から150年近くを文芸出版に捧げてきた弊社としての思いです。
今回弊社が、クラウドファンディングという新しい形で出版プロジェクトに取り組んでいるのは、老舗出版社として出版界に温故知新を実現するための挑戦です。
ぜひ、荒俣先生ファンをはじめとする文学愛好者の皆さんから応援を頂けると、大変うれしく思います。
荒俣宏(あらまた・ひろし)
1947 年東京都生まれ。小説家・博物学者・翻訳家・妖怪研究家・コメンテータ一。
1970 年代より、「団精二」の筆名で海外SF &怪奇幻想文学の翻訳をスタート。1980 年代、「月刊小説王」(角川書店)で連載した初の長編小説『帝都物語』が350 万部を超え、映画化もされるベストセラーに。
その後、『世界大博物図鑑』(平凡社)、『荒俣宏コレクション』(集英社)など、博物学、図像学関係の本も含めて著書、共著、訳書を多数著す。
現在、京都国際マンガミュージアム館長。角川武蔵野ミュージアム博物館ディレクター。
く主な受賞歴>
『世界幻想文学大系』(国書刊行会)で1976 年度日本翻訳出版文化賞受賞(紀田順一郎氏と共同編集)
『帝都物語』(角川書店)で1987 年度日本SF 大賞受賞
『世界大博物図鑑第2 巻魚類』で1989 年度サントリー学芸賞受賞
2007 年ナイスステップな研究者―「サイエンスとアートの融合した展示の企画」
2013 年水木十五堂賞受賞
「キネマ旬報」連載『百年の闇、キネマの幻』で2014 年度キネマ旬報読者賞受賞
応援したいのですが、支払いに進めません。リターンの選択から先の表示が出ないので、どうすればよいのか困っています。