当たり前ですが、本は「商品」としてはどれを買っても同じものです(版が違えば内容が改訂される、ということはありますが)。
しかし、どこで買ったか、誰から買ったか、何を思って買ったか、読んで何を思ったか......すなわち「経験」としては、ひとつとして同じものはありません。書店はいわばその「経験」のプロセスの、大きな一翼を担う部分です。
世の中のすべての人がひとつの巨大書店からのみ本を買う未来を想像してみてください。手に入る経路という意味での「経験」の多様さが削がれるだけでなく、やがて本を作る人、届ける人、買う人、みんながそのシンプルさに最適化し、スムースでなめらかな一様の「経験」を作ることに加担してしまうようになるでしょう。そうした精神の行き着く先は、どこでしょうか。
出版がもはや規模の経済として成立しないこのご時世に新しい書店を作ること、さらにその運営方法も更新していこうとするトライアルは、一人ひとりの生における固有の「経験」を手放して何か大きなものに預けるわけにはいかないのだという強い意思が形になったものだと思います。
同じ意思で本やプロジェクトを作ってきた人間として、応援しています。
安東嵩史(X/Instagram)
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