
学生のころ、黒板授業は一限。先生は授業の始めるかなり前に教室に入り、中央に水平線を一本引くところからはじまりました。
毎回、迫力満点の黒板絵――しかし次の授業のために必ず消える。惜しさが募り、かなり後年になってから、ロール状のケント紙を黒板に貼って上から書いていただき、アーカイブとして残す運用になりました。いまや膨大な量で、いつか展示をと密かに思っています。
それでも私の記憶に最も強く刻まれているのは、消される瞬間の緊張と儚さです。あの時間を逃すまいと、目を見開いて講義を聴きました。
今回の収録では、大阪公立大学・生活科学部の回で、実際の黒板に一本の線からライブで描き、終わりに消すところまでをやってもらいました。企画の立ち上げ時から「黒板を消す」所作をぜひ、と先生にお願いしていたものです(当日は不在のため、私も本で体験します)。
「消す」という行為まで含めて黒板講義――その間合いと緊張が、ページの上に立ち上がることを願っています。ページを開くたび、粉の匂いと手の速度を思い出せるよう、写真と文字の配置も細部まで調整しています。黒板の前に立って耳を澄ませるように、静かに、しかし確かに届く一冊にします。




