
皆さん こんばんは。
先日、川崎市が発表した災害時トイレ対策の方針が報道されました。
能登半島地震の教訓を踏まえ、災害時のトイレ対策の主軸をマンホールトイレに
転換し、全小中学校などの指定避難所に整備を進めるという内容です。
計画では、発災直後は携帯トイレ(非常用トイレセット)を併用し、
その後は下水道に接続したマンホールトイレを、持続的・衛生的に
利用するとされています。
また、能登とは異なり、川崎市では耐震性の高い水道管・下水管に更新しているため、
使用できる可能性が高いとNHKニュースでは説明もされていました。
トイレ問題を重要課題として捉え、予算化し、計画的に整備を進めようとしている点は、
自治体として評価すべき取り組みだと感じます。
ただ、防災の現場を見てきた立場からは、違和感もあります。
能登半島地震で明らかになったのは、発災直後が数時間や数日で終わるものでは
なかったという現実です。
1週間、2週間、地域によっては1か月単位で、水を使わない携帯トイレ(非常用トイレセット)に頼らざるを得ない生活が続きました。
インフラの強度以前に、「使える条件がそろわない期間」が長く続いたのです。
さらに、川崎市の人口は約1,550,000人
そして避難所に収容できるのは市民全体の約2割程度です。
ニュースでは、首都直下地震がきても、
市民は避難所に行けば使えるトイレがあるようにしたいと担当者は
言っていました。
でもそんなことできるでしょうか?
避難所1か所あたり5〜10穴のマンホールトイレが設置されて、
1,550,000人のトイレ、本当に足りるでしょうか。
夜間や屋外で使えない人が必ず出る現実もあります。
今回整備される貯留型マンホールトイレは、
排泄物を溜める構造です。
下水直結型よりは臭いが上がりにくい設計ではあります。
しかし
排泄物を貯留する以上、時間とともに腐敗・ガス(硫化水素・アンモニア)が
発生します。
これは構造では防げません。
そして災害時は清掃や管理が難しく、時間とともに臭気が強まります。
過去の災害でも、「臭くて使えない」「近づきたくない」となり、
使われなくなる例は少なくありませんでした。
そして今、私が最も懸念しているのは、この施策そのものが、
市民一人ひとりの備えを弱めてしまうリスクをはらんでいることです。
「マンホールトイレを整備している」
「避難所に行けば、いずれトイレは使える」
こうしたメッセージが強く伝わるほど、市民の中に「家庭でそこまで備えなくても
大丈夫なのではないか」という意識が生まれやすくなります。
防災において、この「誰かが用意してくれているはず」という空気ほど
危険なものはありません。
現実には、
・避難所に行けるのは市民の一部に限られる
・避難所に行っても、すぐにトイレが使えるとは限らない
・数や設営、運営の問題で使えない時間が必ず生じる
それでも一度、「避難所に行けば何とかなる」という認識が広がってしまうと、
家庭での携帯トイレ、つまり非常用トイレセットの備えを後回しにする人が確実に増えます。
結果として起きるのは、トイレが使えない現実に直面したときの、
「こんなはずではなかった」という混乱です。
携帯トイレ(非常用トイレセット)は、「念のための備え」ではありません。
災害時には、生活を続けるための最低限のインフラです。
それを、「併用」「つなぎ」「一時的なもの」として位置づけてしまうことは、
市民に「備えなくてもよい理由」を与えてしまいます。
行政の取り組みを否定したいのではありません。
しかし、施策の伝え方ひとつで、市民の行動は大きく変わります。
だからこそ今、「避難所の整備」と「家庭での備え」は別物であり、
後者こそが命と生活を左右するという点を、強く、丁寧に伝え続ける必要が
あると感じています。
防災アドバイザー岡部梨恵子




