
これは安田登(能楽師)が書いております。
※上のイラスト、怪しくてすみません(生成AIに文章を読ませて描いてもらいました:笑)
クラウド・ファンディング、今日が最初の1週間の最後の日です。
クラウド・ファンディングをするかどうかを悩んでいたので登録が遅くなり、たった1カ月の公開になりました。それでも今日までの時点でたくさんのご支援をいただきました。
ご支援いただいた皆さま、まことにありがとうございます。
また、お近くの方にもお知らせいただけますと幸せでございます。
また、「偶然の入金があったから、もっと支援する!」なんて方は、ぜひ追加のご支援を(笑)。
ノボル・ラスト
さて、共同体の話から「土地」と「神話・伝説・物語」に関していろいろ書いておりますが、今日も続き。
今日は《日本の土地は「聖なる地」》というお話をします。
あ、そうそう。こんなこと書くと嫌われそうですが、だからといって僕(安田登)は「日本ファースト」なんて思っていませんので。
今回の公演もそうですが、僕たちのチーム「東京雑戯團」が中心になって行います。そのチームで先日、思想家・武道家である内田樹さんの道場・凱風館で『銀河鉄道の夜』を公演したのですが、その打ち上げで、うちのチームは「ノボル(僕の名前)ファーストではなく、「ノボル・ラストだ」なんて話になりました。
具体的なエピソードは省略しますが、チームの中では僕はよくないがしろにされます。おいしいものも最後に回ってきます。が、それが自由なチームのためにとてもいいのです。
というわけで「日本ファースト」よりも「日本ラスト」。
「どうぞ、どうぞ。おいしいところは持って行っていただいて、こちらは尻尾でいいですから」くらいがちょうどいいと思っています。
さて、そんな前提のもとに、それでも《日本の土地は「聖なる地」》という話をします。
土地というのは中国語
当たり前といえば当たり前ですが「土地」というのは日本語ではありません。
まず漢字ですが、読みの「と」も「ち」も音(オン)です。すなわち古代の中国語です。
ちなみに「土」という漢字は土を固めて柱状にしたり、饅頭型にしたものの象形で、ここに神様を降ろします。依り代です。神社の「社」もそれです。
ちなみに「神」は、もとは右の「申(電)」だけで、これはピカピカっていう稲光の象形。天空の神です。
ですから「神社」というのは、天空の神と地の神のことをいいます。
そして「地」。これは昔の漢字(金文)を見ると、階段に犬がいる。階段というのは神様の昇降する聖なる梯子(はしご)、そして犬は生贄です。生贄を捧げて神様をお呼びする場所が「地」でした。
つまり「土地」というのは、両方とも神様の来臨を待つ、聖なる地なのです。
「つち」と「ところ」

しかし、「土」も「地」も中国語、日本語ではありません。
じゃあ、『古事記』や『万葉集』などの古代の日本語ではなんといったか、というと次の2つをあげることができます。
・つち
・ところ
もうひとつ「くに」もありますが、これはちょっと違うので、ここでは「つち」と「ところ」を見ておきたいと思います。
「つち」
最初にお断りしておきますと、日本は中国と違って語源学があまり発達しなかったので、日本語の語源には《定説》というものがないことが多いです。
「つち」も、「これ!」という定説はありませんが、そのひとつを紹介すると…
「つ」:つく(築く)
「ち」:霊
…というものがあります。
まず「つ」は、何かを築(つ)き固めること、
そして「ち」は霊だというものです。
日本の古語では「霊」を表す接尾語には以下の3つあります。
・み:わたつみ(海神)、やまつみ(山神)
・ひ:たかみむすひ(高御産巣日神)、かみむすひ(神産巣日神)
・ち:おろち(大蛇)、いかづち(雷神)、ち(乳、血)
この中で「み」と「ひ」は仲間の音です。「ひ」は中世までは「フィ(Φi)」と発音されていました※。「み」も「ふぃ」も上下の唇を閉じ、さらにそれを鼻腔共鳴を使って発音します。
この発音が明確にできるのは人間だけです。大型類人猿も近い発音をすることは報告されていますが、人間ほどしっかりした音を出すことはできません。だからこそ、多くの国で「母(はは:古語ではファファ)」にあたる語には「M」音や「F」音、あるいは「B」や「V」の音が使われるのでしょう。
さて、話を戻すと「み」「ひ」「ち」の中で「ち」だけが発音が違います。そして、霊の性質も違うのです。
「み」と「ひ」がどちらかというと神的というか、静なる霊力を意味するのに対して「ち」は蠢(うごめ)く霊力を表わします。生命力、活動力に溢(あふ)れた霊力といってもいいでしょう。
「おろち(大蛇)」もそうですし、「いかづち(雷神)」もそうです。ちなみに「乳(ち)」は『古事記』の中で死んだ大国主命を生き返らせる霊力を持ったものとして現れます。「血」も生命力ですね。これがなければ生きていられない。
そして「とち」の「ち」もそうだというのです。
うごめく霊力をもった地、それが「とち」です。
「ところ」
次は「ところ」です。
「ところ」は「とこ」と「ろ」に分かれます。「ろ」は接尾語。
大事なのは「とこ」の方ですが、私たちは「とこ」と聞くと、「床(寝所)」を思い出しますし、あるいは「常世(とこよ)」の常(とこ)を思い出したりもします。
「とこ」にはこんな意味があります。
************
寝床・寝所 → いまの「ベッド」とか「布団」とか
神床(みとこ:御床) → 神が降臨する座
とこしえ(常しえ) → 永遠(動かぬ基盤)
→常世(不老不死の理想郷)
************
…ここが「神が降臨する地」だとなると「ところ」も「つち」と同じく、神霊と関係ある地だということができそうです。
「ひもろぎ(神籬)」

「土地」の古代の日本語である「つち」も「ところ」も、聖なる地を意味していた言葉であったようです。
前回に書いた、日本の土地が神話や伝説、物語を持つというのは、日本の土地自体に聖性があったからなのかもしれません。
が、神霊が眠っていたり、降臨するのは「土地」だけではありません。
日本には「ひもろぎ(神籬)」といって、テンポラリー(一時的)な神の降臨地を作るということをしていました。
『世界大百科事典』には以下のように説明されていました。
************
神霊をまつるための施設で常磐木(ときわぎ)を用いて作る。《日本書紀》神代巻に〈吾(高皇産霊尊)は則ち天津神籬及天津磐境(いわさか)を起樹(おこした)てて,当に吾孫の為に斎ひ奉らむ〉とみえる。その語義については,神の室としての意から柴室木(ふしむろぎ),神霊の馮(よ)ります樹立の生諸木(おいもろぎ),あるいは〈ひ〉は霊,〈もろぎ〉は籬(かき)を意味し,神を守る所ともいうが未詳。現在では,一般に案上に枠を組み,中央に榊を立て,麻や紙垂をつけたものをいう。
************
そこがどこであっても、榊などの木を立てることによって、そこが一時的な神霊の降臨基地、すなわち「つち」「ところ」になるのです。
今でも地鎮祭などのような神霊施設がないところでは「ひもろぎ」を立てて行われますね。
ひもろぎと聖なるネットワーク
…だとすると、土地に根ざすと思われている「神話」や「伝説」も、そしてそれに関わる神霊の力も、「ひもろぎ」によって、その地を離れてもそれが再現をすることが可能だということです。
昔から、霊力の強い神様の神社を他の地に建てることによって、そこに神様を勧請して、その霊力をいただくということがなされていました。そこでは「ひもろぎ」としての神社だけでなく、「名前」も付けますね。
今回、芸能を行う「賀茂神社」も、都の賀茂神社の名をいただいていますし、神様も賀茂の別雷(わけいかづち)の神と同一体です。
また、俗なたとえをすると、日本各地には「●●銀座」というものがありますが、あれも同じようなものです。
で、実は僕たちが考えている「ドラゴン・ネットワーク」も、これがベースにあるのです。
「龍(ドラゴン)」の神話を、9月4日に香川県の仁尾で上演します。が、そのときにそこにいらっしゃる方だけでなく、バーチャルな「ひもろぎ」をその地に立てることによってドラゴン・ネットワークを通じて、今回、ご支援していただいた方の力もその地に運ばれ、そして「龍」や神霊の力も皆さまにお届けする、そんなことができないかと思っています。
これについてはまた書きますね。
では、今日はこのくらいで失礼します。
《続きます》



