
1.「診断が出るまで、ずっとひとりだったんです。」
池袋の難病カフェの、佐藤さんがぽつりと言いました。Zoom越しに聞いていた私は、その一言に胸をつかまれたまま、深く頷きました。
「寄り添ってほしい人」ばかりじゃない
「向き合う」「寄り添う」。支援の世界では、よく使われる言葉です。
でも佐藤さんは、はっきり言いました。「私、自分の活動ではその言葉を使わないようにしているんです。」
寄り添ってほしい人もいる。でも、「ずっと寄り添われること」を望んでいない人も、たくさんいる。
障害のことを語る場よりも、「好きなマンガの話」「最近ハマってるカレーの作り方」そんな“なんでもいいテーマ”で集まりたい人もいる。
障害当事者も、支援者も、家族も。立場を超えて一緒に笑える話題のなかで、「結果的に」インクルーシブな空気が育っていく。
「2足歩行の人にはわからない」とこぼれた本音と、それでも「障害の話だけの場にはしたくない」という願い。
その振れ幅の大きさに、居場所づくりの難しさと可能性が、ぎゅっと詰まっている気がしました。
2.「やりたいこと」と「やれること」をどう両立させるか
車いすでもあきらめない世界をつくるバリアフリーマップ「WheeLog」の代表・織田さんは、活動の理念と、運営を続けるための仕組みづくりについて、丁寧に教えてくれました。

脳フェスにご来場いただいた織田さんと
支援してほしい「個人」
支援したい「団体」
この2つをつなぐ役割を担いながら、すべてをオープンにしすぎるのではなく、「半分閉じた空間」の方が、安心してつながれたり、本音を出しやすかったりするのではないか、という視点。
そして何より印象に残ったのは、
「今のお金の多い少ないじゃない。将来も続いていく形にすることが大事。」
という言葉でした。
「みんなのため」が、みんなを苦しめるとき
やってはいけないのは、
やることを広げすぎて、八方美人のサービスになること。
「みんなにいいことをしたい」という想いに、全部応えようとして潰れてしまうこと。
お金のために、自分たちの信念をねじ曲げてしまうこと。
「お金でダメなことをしないこと。それが継続の秘訣。」
この一言は、ぴあまっぷや脳フェス、ぼこでこの未来を考えるうえで、何度も自分に問い直すコンパスになると思っています。
3.SNS時代、「患者会離れ」の現実
ある希少疾患の患者会の代表は、何十年にもわたる活動経験のなかで、「患者会の会員離れが進んでいる」と話してくれました。
X(旧Twitter)やTikTok、ショート動画。「速い情報」は、スマホさえあれば、誰でもすぐに手に入ります。
検索すれば、最新の治療情報が出てくる。同じ病名の人の体験談が、ハッシュタグで簡単に見つかる。YouTubeで専門医の解説も見られる。
そうなると、
「患者会に入らなくても、情報は取れるから」
という感覚になるのは、自然な流れかもしれません。
でも、「速い情報」と「ゆっくり育つコミュニティ」は、本来、別物です。
情報を消費するだけではなく、自分の物語を安心して語れる場所。誰かの物語を、途中からでも見守り続けられる場所。
支援団体の役割は、情報のストックから、関係性のストックへと静かに変わりつつあるのだと思います。
4.ぴあまっぷが目指す方向性
こうした対話を重ねて見えてきた、ぴあまっぷの方向性。
障害や悩みといったものがきっかけでつながるのではなく、それぞれの「好き」「ちょっと聞いて!」からつながり、そこからコミュニティができ、外出への扉を開けることができる。
そんな「体温を感じるWebサービス」。
アプリではなく、まずはアクセスしやすいWebサービスとして、閲覧は誰でもできる。でも、登録した人だけが参加できる。
そして、病前から感じていた「好き」や「推し」をきっかけに、再び社会に出ていく一歩が、自然と踏み出したくなる。外出意欲が高まった時には、そこには支援団体やサービスと繋がれる仕組みがある。
5.最後に:「支援団体の課題」は、私たち全員の課題だ、けど。
これまでに、脳卒中や脊髄損傷などの脳・脊髄の病気、ALS・ALD・筋ジストロフィーなどの神経筋の難病、心疾患・腎疾患・糖尿病といった内部疾患、視覚障害、さらに、がんや睡眠障害など。
本当にさまざまな病気や障害のある方たちに、お話を伺ってきました。
病名も、年齢も、家族構成も、働き方も、全然違う。それでも、どの語りにも共通していたのは、
「あのとき、たった1人で抱え込んでいた時間がいちばんつらかった」
という記憶でした。
ここまで書いてきた「障がい当事者支援団体の課題」は、支援団体だけの問題ではありません。
いつか、自分や家族が当事者になるかもしれない未来。
友人や同僚が、静かに助けを求めているかもしれない現在。
そして、「見えない孤独」があちこちに積もり続けている社会。
その全部に、密接につながっている課題です。
だからこそ、、、なんていうアプローチは、しません。
そんな辛い現実はあるけど、「お気に入りの野球チームの話で盛り上がれる」ような感覚で、ゆるやかにつながり、その「結果として」外に出たくなる意欲が高まる。
そんな余白をたっぷり残した、「体温を感じるWebサービス」にしていきたい。
20年前、退院直後で世界に一人ぼっちだと思っていたあのときの自分に、心から届けたいサービスを、今を生きている仲間たちと一緒に、これからも粘り強く、つくっていきます。
もし共感をいただけたら、この記事を拡散していただけたら嬉しいです。
NPO法人ぼこでこ
代表理事
小林純也



