
ケアテントとモグモグスタンドから考える、屋外イベントのインクルーシブな環境整備
アースデイ東京2026インクルーシブエリアには、ケアテントが配置されました。
アースデイ東京2026インクルーシブエリアに設置されたケアテント。テント内には、横になれる簡易ベッドと、介助時に荷物や物品を置けるテーブルが用意されました。
ケアテントの中には、簡易ベッドとしてコットが置かれ、その上にマットを敷いて、横になれる場所がつくられていました。
座位保持が難しい障害のある人が横になり、おむつ交換などのケアを受けることができる場所です。
公共施設のバリアフリー化が進み、さまざまな公共施設に車椅子使用者が使えるトイレが増えました。これは、とても大切な前進です。
けれど、ケアベッドがあるトイレは、まだとても少ない状況です。
僕は、重度障害のある人の外出のお手伝いをするガイドヘルパーをやっています。本人が楽しめる場所やイベントに一緒に出かけるのですが、ケアベッドを必要とする方が外出先で使用できるトイレは限られていて、外出先の選択肢はとても狭められています。
車椅子で入れるトイレがあることと、必要なケアを受けられるトイレがあることは、同じではありません。
車椅子で入れる広さがあっても、横になれるベッドがなければ、おむつ交換ができない人がいます。
座った姿勢を保つことが難しい人にとっては、「車椅子対応トイレがあります」だけでは、外出先の安心にはつながりません。
つまり、トイレがあるようで、実際には使えるトイレがない。
このことは、重度障害のある人や家族、介助者にとって、外出先を選ぶ時の大きな壁になります。
行きたい場所がある。参加したいイベントがある。会いたい人がいる。子どもに体験させたい遊びがある。
でも、「そこでトイレはどうするのか」が解決できないと、外出そのものをあきらめざるを得ないことがあります。
これは、ぜいたくな希望ではありません。人が外に出て、地域のなかで過ごすための、ごく基本的な条件です。
アースデイ東京2026インクルーシブエリアにケアテントを設置した意味は、まさにそこにあります。
ケアテントは、単に「おむつ交換ができる場所」ではありません。
重度障害のある人とその家族、介助者が、イベント会場に安心して来るための入口です。
「トイレがないから行けない」「おむつ交換できる場所がないから長時間いられない」「途中で困ったらどうしようと思うと、最初から参加をためらってしまう」
そうした不安を少しでも減らすための環境整備です。
ケアテントとモグモグスタンド
【ケアテントとモグモグスタンド説明動画】ケアテントには、コットとマットを使った横になれる場所を設置。向かいには、ミキサーやとろみ剤などを使える「モグモグスタンド」も用意されました。
アースデイ東京2026インクルーシブエリアには、ケアテントとあわせて「モグモグスタンド」も用意されていました。
アースデイ東京2026インクルーシブエリアに設置された「モグモグスタンド」。ミキサー、とろみ剤、洗浄用の水まわり用品などを用意し、食べものをそのまま食べることが難しい人も、会場の食を楽しめるように工夫されました。
屋外イベントには、さまざまなおいしい食べものがあります。
けれど、食べものをそのまま噛んだり飲み込んだりすることが難しい人にとっては、「食べたいものがある」ことと「実際に食べられる」ことは同じではありません。
モグモグスタンドには、ミキサー、とろみ剤、洗浄に使う水まわり用品などが用意されていました。
会場で購入した食べものを、その人が食べやすい形に調整できる。必要に応じて、とろみをつけることができる。使った道具を洗うことができる。
こうした場所があることで、食べることにサポートが必要な人も、家族や介助者と一緒に、屋外イベントの「食」を楽しみやすくなります。
モグモグスタンドでは、食べものをそのまま食べることが難しい人に合わせて、食バサミで細かく刻むなど、食べやすい形に調整できるようにしました。
写真は、食バサミでチキンフライを食べやすい大きさに刻んでいるところです。
「食べる支援」というと、ミキサー食やとろみ剤のような専門的な対応を思い浮かべるかもしれません。
でも実際には、「少し小さく切る」「食べやすい大きさにする」「その人のペースに合わせる」といった、日常的で具体的な工夫もとても大切です。
食べものが会場にあるだけでは、すべての人が食を楽しめるわけではありません。
その人が食べられる形にできること。安心して口に運べること。家族や介助者が落ち着いて準備できること。
そこまで含めて、ようやく「一緒に食べられる」環境になります。
つまり、インクルーシブエリアは、遊び場だけを用意した場所ではありませんでした。
食べること。休むこと。横になってケアを受けること。家族や介助者が安心して過ごせること。
そうした、外出を支える具体的な条件を整えようとした場所でした。
屋外イベントで「楽しむ」ためには、ステージや遊び場だけでは足りません。
食べられること。トイレやケアの心配が少ないこと。疲れた時に休めること。必要な支えがあること。
その土台があって、はじめて「イベントを楽しむ」ことができます。
ケアテントとモグモグスタンドは、その土台を支えるための大切な設備でした。
実際にケアテントを利用したご家族の声
実際に、アースデイ東京2026でケアテントを利用してくれたご家族のみなさんに感想を伺いました。
屋外イベントは、楽しい場所である一方で、重度障害のある人や家族にとっては、不安の多い場所でもあります。
人が多い。音が大きい。暑さや寒さがある。休める場所が限られている。そして、必要な時にケアができる場所があるかどうか分からない。
そうした不安があるなかで、ケアテントの存在は、「行ってみよう」と思うための大きな後押しになります。
「クッションもあって、全然痛くない」
ケアテントを利用してくれたご家族。横になってケアできる場所があることで、屋外イベントへの参加のハードルが下がります。
【インタビュー1】「クッションもあって、全然痛くない」
東京都稲城市から来場されたご家族は、インクルーシブエリアについて、「とても楽しいです。お天気も良くて、こういうコーナーがあってありがたいです」と話してくれました。
実際にケアテントを使った感想を伺うと、
クッションもあって、全然痛くないし、寝転がって、大きかったので、全く問題なく交換できました。
と話してくださいました。
これは、とても大事な声です。
ケアベッドがあるかどうかだけでなく、実際に横になった時に身体が痛くないか。十分な広さがあるか。落ち着いて交換できるか。
そうした細かな使いやすさが、本人や家族の安心につながります。
また、ご家族は、ケアベッドがある場所について、
商業施設にあったりするところもあるんだけど、混んでいて使えなかったり、ベッドが置いていなかったりするトイレも多いので、なかなか見つけることが難しい。
とも話してくれました。
「あることになっている」だけでは足りない。本当に使える状態で、必要な時に使えることが重要です。
だからこそ、イベント会場の中に、ケアのための場所が用意されていることには大きな意味があります。
「使いやすかったです」
ケアテント前で。重度障害のある人と家族が安心して過ごせる場所を、イベント会場の中につくることが大切です。
【ご家族インタビュー2】「使いやすかったです」
別のご家族にも、ケアテントを利用した感想を伺いました。
そのご家族は、ケアテントについて、
使いやすかったです。
と話してくれました。
さらに、テーブルがあったことで、介助する側の荷物を置いたり、作業をしたりしやすかったという声もありました。
ケアの場所に必要なのは、ベッドだけではありません。
おむつや着替え、タオル、医療的ケアに関わる物品、本人の荷物、介助者の荷物。外出時には、さまざまな物を持って移動しています。
それらを一時的に置ける場所があるだけでも、介助のしやすさは大きく変わります。
また、こうしたイベントにベッドがある場所がないと参加しづらいか伺うと、
そうですね。やっぱり必要なことなので。
と答えてくださいました。
この「必要なこと」という言葉は、とても重いと思います。
ケアテントは、あれば便利な追加サービスではありません。必要な人にとっては、参加の前提になる環境です。
「これがなかったら来られなかった」
ケアテントを利用してくれた、板橋区の「あゆちゃんち」のあゆみさんとお母さん。「必要な時に戻れる場所」があることは、外出の安心につながります。
【あゆみさんとお母さん インタビュー】 「これがなかったら来られなかった」
三組目にお話を伺ったのは、板橋区の「あゆちゃんち」のあゆみさんとお母さんです。
「あゆちゃんち」は、地域の中で、だれもが安心して過ごせる居場所づくりに取り組んでいる場です。
「あゆちゃんち」https://ayuchanchi.jp/
「あゆちゃんち」YouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCh3t5IO0alX5GtIa3CaD1zw
この日、あゆみさんとお母さんは、アロマのハンドマッサージを受けたり、手作りパックを体験したり、ステージを見たり、鹿のコロッケを食べたりと、アースデイ東京の会場を楽しんでくれていました。
そのうえで、ケアテントについて感想を伺うと、
もう、なくてはならない。本当にありがたいです。
と話してくださいました。
さらに、
このテントがなかったら、トイレができなかった。本当に必需品です。これがなかったら来れなかったです。
という言葉もありました。
これは、ケアテントの意味をとても端的に表していると思います。
ケアテントは、あると便利な設備ではありません。必要な人にとっては、「そのイベントに参加できるかどうか」を左右する環境です。
あゆみさんとお母さんは、会場でいろいろな体験を楽しんでいました。
でも、その楽しさは、トイレやケアの不安が少しでも減らされていたからこそ成り立っていたものでもあります。
「楽しかった」という体験の前提には、安心して休める場所があること。必要な時にトイレやおむつ交換ができること。本人も家族も、無理をしすぎずに過ごせること。
そうした環境が必要です。
最後に、こうしたイベントでケアテントやベッドのある場所がもっと増えるとよいか伺うと、
増えてほしい。
と答えてくださいました。
この「増えてほしい」という声を、次につなげていきたいと思います。
アースデイ東京のような大きな屋外イベントだけでなく、地域のお祭り、公園、公共施設、避難所、スポーツイベント、文化イベントなどにも、横になってケアできる場所がもっと広がっていく必要があります。
「行きたい」と思った時に、トイレの不安であきらめなくてよい。「楽しそう」と思った場所に、家族で出かけられる。そのためには、ケアテントのような環境整備が欠かせません。
ケアテントは、参加を支える環境整備
もちろん、ケアテントひとつですべてが解決するわけではありません。
天候、動線、介助者の人数、医療的ケア、休憩できる場所、音や人混みへの配慮など、外出にはさまざまな条件があります。
それでも、横になれる場所がある。必要なケアができる場所がある。荷物を置いて、落ち着いて介助できる場所がある。困った時に戻れる場所がある。
その安心感があるだけで、「行ってみようかな」と思える人がいます。
そしてもうひとつ大切なのは、ケアテントが「困った時だけの場所」ではなく、「ここにいていい」と感じられる場所でもあることです。
イベント会場のなかに、重度障害のある人のケアを前提にした空間がある。
それは、単なる設備以上の意味を持っています。
重度障害のある人も、このイベントの参加者として想定されている。家族や介助者も、無理をしながら参加するのではなく、必要な支えを受けながら参加していい。
ケアテントは、そのメッセージを会場の中に具体的な形として置いたものだったと思います。
インクルーシブなイベントとは、ただ「誰でも来てください」と呼びかけることではありません。
来られない理由を具体的に見つけて、その理由をひとつずつ取り除いていくことだと思います。
「みんなのイベントです」と言いながら、実際にはトイレの問題で参加できない人がいる。
それなら、そのイベントはまだ本当の意味では「みんなのもの」にはなっていません。
ケアテントの設置は、その現実に対する小さくても具体的な応答です。
重度障害のある人が、家族や支援者と一緒に、屋外イベントに参加する。
芝生の上で過ごす。音楽を聴く。人と出会う。子どもたちの遊ぶ姿を眺める。その場に「いる」。
その「いること」を支えるために、トイレやケアの場所は欠かせません。
イベントの華やかなステージや企画に比べると、ケアテントは目立たない設備かもしれません。
けれど、こういう目立たない環境整備こそが、誰かの参加を可能にします。
設置して終わりではなく、声を聞いて改善していく
今回の設置で見えてきた課題もあります。
場所は分かりやすかったか。案内表示は十分だったか。利用したい人に事前情報が届いていたか。テントの広さや動線は使いやすかったか。暑さ、寒さ、雨風への備えは十分だったか。介助者が一緒に入って動ける余裕はあったか。荷物を置く場所や、介助に必要な作業スペースは十分だったか。食べることにサポートが必要な人に、モグモグスタンドの情報が届いていたか。
実際に利用してくれたご家族の声は、次回に向けたとても大切な改善材料です。
インクルーシブな場づくりは、「設置しました」で終わりではありません。
使った人の声を聞く。困ったことを確認する。次はもっと使いやすくする。必要な情報をもっと早く届ける。他のイベントや地域にも広げていく。
その積み重ねによって、少しずつ本当に参加しやすい場になっていきます。
今回、ケアテントを利用してくれたご家族の声から改めて感じたのは、重度障害のある人の外出にとって、「安心してケアできる場所」は絶対に欠かせないということです。
そして、それは特別扱いではありません。
誰もがトイレを使うように。誰もが休憩を必要とするように。誰もが安心して過ごせる場所を必要とするように。
重度障害のある人にも、その人に合ったトイレやケアの環境が必要です。
「トイレがないから行けない」をなくしていく
「トイレがない!」という困りごとは、とても日常的で、とても切実です。
そして、その困りごとを解決することは、障害のある人の外出や参加の権利を支えることにつながります。
アースデイ東京2026インクルーシブエリアでケアテントを設置したことは、重度障害のある人も、家族も、介助者も、地域のイベントに参加できる社会をつくるための一歩でした。
これから、屋外イベントや公共施設、公園、避難所、地域のお祭りなどにも、ケアベッドやケアスペースの必要性がもっと広がってほしいと思います。
車椅子で入れるトイレの次に必要なのは、横になってケアを受けられる場所です。
そして、「食べものがあります」の次に必要なのは、その人が食べられる形に整えられる場所です。
「誰でも来ていいよ」と言うなら、「来たあとに困らない場所」まで用意したい。
ケアテントとモグモグスタンドは、そのための大切な実践です。
「トイレがないから行けない」を、少しずつなくしていく。「食べられないから楽しめない」を、少しずつなくしていく。
そのために、ケアテントやケアベッド、モグモグスタンドのような環境を、これからもっと当たり前にしていきたいと思います。
文:中村和利(NPO法人風雷社中・一般社団法人アースデイ東京)



