
原作者ニールセン氏が、電車の場面を図解して説明してくれました
AIは小説を翻訳し、その文章をもとにイラストを生成することができます。
しかし、生成されたイラストは、原作者が描こうとした場面を正しく表しているのでしょうか。
今回、アルゼンチンの作家グスタボ・ニールセン氏の小説『El amor enfermo』を題材に、この問いを検証しました。
取り上げるのは、地下鉄の車内で複数の人物が登場する場面です。
AIが生成した動画では、主人公のサラビアと、泣いている女性、音楽を聴いている女性が、同じ車両にいるように描かれていました。
ところが、原作者の説明によると、実際にはそれぞれの人物がいる場所を区別して理解する必要がありました。
登場人物が誰なのかを把握するだけでなく、それぞれがどの車両にいるのか。その位置関係を正しく読み取ることが重要だったのです。
原作者本人が、図を描いて説明
この違いについて、ニールセン氏は動画の中で、電車の車両Aと車両Bを図に描き、人物の位置関係を説明してくれました。
【今回作成した「車両A・車両Bの位置関係」の図解】

図では、サラビアがいる車両Aと、若い女性たちがいる車両Bを分けて示しています。
文章を読んでいるだけでは、人物の配置や車両間の関係を見落としてしまうことがあります。しかし、図にしてみると、何を正しく理解する必要があったのかが明確になります。
今回の検証で重要なのは、AIが描いたイラストを見て、原作者本人が「この場面はどういう状況なのか」を説明してくれたことです。
【AIが生成した、実際の地下鉄のイラスト】

なぜ、この違いが重要なのか
この問題は、単純な翻訳ミスとは少し異なります。
単語や一文を日本語に訳すことができても、複数の人物の位置関係や、その後の場面へのつながりまで正確に把握できているとは限りません。
また、これはAIだけに限った問題でもありません。
外国語で書かれた小説を読むとき、翻訳者であっても、言葉の意味を追うだけでは場面の構造を十分につかめないことがあります。特に、文化的な背景や文章の流れを踏まえなければ理解しにくい描写では、前後の文脈を丁寧に読み直す必要があります。
今回のように、人物が別の車両にいるという情報は、物語の状況を理解するうえで重要です。
その違いを原作者自身に説明してもらい、図解として可視化できたことは、この実験の大きな意味のひとつだと考えています。
AIは、文章を訳すだけでなく、物語を理解しているのか
今回の実験では、AIの解釈が原作者の意図と一致しているかどうかを、具体的な場面ごとに確認しています。
イラストに違いが生じたとき、それが翻訳の問題なのか、物語の解釈の問題なのか、あるいは画像生成時の表現の問題なのかを区別して考える必要があります。
一つの場面だけで、AIが文学を理解できるかどうかの結論を出すことはできません。
それでも、原作者本人の説明と照らし合わせることで、AIが読み取れていたことと、十分に捉えられていなかったことを、具体的に検討することができます。
今回、ニールセン氏が動画の中で図を描いて説明してくれたことで、文章だけでは見えにくい物語の構造を、目に見える形で記録することができました。
今後も、残りの解説動画を含めて検証記録を整理し、AIと文学の関係について考える材料として残していきたいと思います。
この実験に関心を持ってくださった皆さま、ありがとうございます。



