
以前、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”のプロジェクトリーダー稲葉医師にこれからのチームの在り方について尋ねると、こう答えてくれました。
「自分たちにしかできないところを突き詰めながら、被災地で柔軟に、なんでもできるチームでありたい。これができれば欠けたピースが埋まったり、ここにこういう組織がいると全体がうまくいくような、誰も担えない役割を埋めていくようなチームでありたいと思っています」
4月26日、大規模山林火災の発災から5日目。岩手県大槌町でに発災した山林火災の緊急支援で、この言葉を体現する出来事がありました。
緊急避難指示が発令された現場へ出動要請

大槌町小鎚地区の山林で、消火されたと思われた場所にまだくすぶっていた火種が乾燥と強風で再燃。さらに風向きが変わって延焼が民家に向かったため、小鎚地区に住む15世帯24名に緊急避難指示が発表されました。
同地区は、山間部にある小さな集落で高齢者が多く、現場では消防と警察が救助にあたっていましたが、なかには要配慮者がいることから医療従事者が求められていました。そのピースとして保健医療福祉調整本部から空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”に出動の要請がありました。
「今朝、小鎚の一番奥の長井地区に避難指示が出て、警察と消防で避難させていますが、高齢者の多い場所なんです、自分で動ける人もいれば動けない人もいて、でもその把握がきちんとできていない状況のなかで、避難者の要配慮者の介護や介助と、そのまま移送するお手伝いをお願いできませんか」
今回の緊急支援チームリーダーの新谷看護師はふたつ返事で任務を引き受け、急遽市の職員と一緒に宮内看護師とともに小鎚に向かいました。
めまぐるしく状況が変わるなかで情報は錯綜

現場は物々しい雰囲気で、狭い道に消防車と多くの隊員が集まり、どこからか情報を得た報道カメラマンの姿も見られます。消防と連絡を取りながら現場に向かいましたが、空飛ぶ捜索医療団の看護師ふたりが到着した頃にはすでに避難者は近くの集会所に移送したのでそちらに向かってほしいとの連絡。救助された避難者はどこにいるのか、めまぐるしく状況が変わるなかで情報は錯綜しました。

新谷と宮内看護師は、慌ただしい現場から避難した人が集められていた集会所に移動。避難者の健康状態を一人ひとり確認したのち、市と連携して避難者1名をより安全な避難所に移送する役割まで担当。
集会所の周辺には避難者と周辺住民の方が集まり、もくもくとあがる煙を不安そうに見つめます。
「火が静まったように見えたんだけどね、、、10時くらいまでは静かだったんだけど、ちょっとずつまた燃えてきて、空がモヤっとなっていってね。もし火が来たら危ないと思って急いで避難してきました。今朝は全然こんな感じじゃなかったですよ」

避難所からも見える距離に迫ったところで勢いよく煙はあがり、上空には消火活動を続けるヘリコプターが飛び交うなか、最終的に15世帯24名の無事を確認。当初の予定からは二転三転しながらも任務を無事完遂した新谷看護師は、この日の出来事をこう振り返りました。
「コミュニティとか地域のつながりは、本当にすごく大事ですね。あの人いないよ、どこにいったよ、この方気にかけてあげたほうがいいよとか、いろいろな情報を共有してくれてありがたいなと。こっちの小鎚のほうはなかなか情報が入ってきてなかったので、今回初めて現場に入ってみて、今回の山林火災が同時多発的に起きているんだということをあらためて感じました」(新谷看護師)
空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”の役割

保健医療福祉調整本部には26日時点で医療・福祉関係の10団体、41名が参画。空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”も含めた保健師・看護師が手分けしてすべての避難所に常駐し、連携しながら避難者の健康管理と環境改善に努めています。
そのなかで空飛ぶ捜索医療団は、他団体と同じように常駐・巡回要員として支援活動を行うとともに、民間ならではの柔軟性と機動力が評価され、なにかあったら柔軟にすぐに対応する“緊急対応”の役割も担っています。この日の活動はまさにその対応で、無事任務を終えたこと、なにより避難者を守れたことに、新谷、宮内はほっと胸をなでおろしました。
被災地の現場で、できることは限られているかもしれません。だからこそ、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”としてできることはすべて考え、これからも被災者の安全と健康を守るために、柔軟に迅速に対応していきます。



