
2018年、マウリッツハイス美術館が実施した大規模な科学調査プロジェクト『The Girl in the Spotlight(脚光を浴びる少女)』によって、『真珠の耳飾りの少女』の背景について新たな発見がありました。
現在は真っ黒に見える背景ですが、左上部分には、
かつて描かれていた緑色のカーテンのドレープ(ひだ)の筆跡が残されていることが判明したのです。
この発見は、私たちが長年見慣れてきた少女の姿とは異なる、描かれた当時の姿を想像させるものとして注目を集めました。
ただ、残念ながら緑色の顔料は長い年月の中で大きく変質しており、実際にどのような色彩だったのかを正確に再現するまでには至っていないようです。
私自身、この研究結果にとても興味を惹かれました。
もしフェルメールが背景に緑のカーテンを描いていたとしたら、どんな色だったのだろう。
少女の肌や真珠の輝きは、どのように見えていたのだろう。
そんな想像を膨らませながら、フェルメールが描きそうな緑のカーテンを背景に加えたイメージを制作してみました。
もちろん、これは私なりの想像であり、実際の姿を再現したものではありません。
今回の修復では、背景は現在の作品の印象を尊重し、黒のままとしています。
ですが、もし400年近く前に描かれた少女の背後に緑のカーテンが揺れていたなら――。
そんなもう一つの『真珠の耳飾りの少女』も、楽しんでいただければ嬉しいです。
*********************
修復作業の様子をご紹介します。
古い絵画をデジタル化した画像では、ひび割れが必ずしも同じように見えるわけではありません。
撮影時の光の当たり方や絵の色調によって、ひび割れが白く浮かび上がる部分と、逆に黒く沈んで見える部分があります。
そのため私は、作品ごとに修復の順番を変えています。
全体的に明るい絵であれば、黒く見えるひび割れから。
そして今回の『真珠の耳飾りの少女』のように、背景に深い黒が多く使われている作品では、白く浮かび上がったひび割れから修復を進めています。
これは、先に白いひび割れを修正して全体の色調を整えた方が、作品全体のバランスを取りやすいからです。特に黒い部分が多い作品では、白いひび割れが目立つため、最初にそこを自然な色合いに戻しておくことで、その後の細かな修正作業も進めやすくなります。
白いひび割れは、一見すると小さな傷のように見えますが、拡大すると複雑に入り組んでおり、一つひとつ周囲の色や質感に合わせて丁寧に修正していかなければなりません。

地道な作業の積み重ねですが、その積み重ねによって、400年近い時を経た少女の肌やターバンの色彩が少しずつ蘇っていきます。
派手な作業ではありませんが、私はこうした細かな工程も含めて、修復の面白さだと感じています。



