2018/10/09 22:24

AFFECTUS vol.3に収録するタイトルのご紹介、今夜は第9本目になります。

今回ご紹介するタイトルは、もしかしたら書いた時の思い入れは、vol.3の中で一番かもしれません。

突如ファッション界を去ってしまったスコット・スタンバーグ。彼の名がメディアに全く上がらなくなったころに書いたタイトルです。

スコットのあたたかいユーモアを備えたデザインは、彼の新ブランド「Entireworld」でも健在でした。

ぜひ読んでください。

 

 

 

「スコット・スタンバーグよ、もう一度」

 

もう見れなくなって悲しいブランドはある。そのデザインが見れなくてなってしまい、寂しくなるデザイナーもいる。たいてい、そういうときはブランドのビジネスがうまくいかない場合が多いだろう。売れるか売れないかの世界は、とてもシビアだ。でも、それでも、願わくばもう一度そのデザインを見たいと願うデザイナーはいる。

僕にとってその一人が、バンド オブ アウトサイダーズ(以下バンド)を立ち上げたスコット・スタンバーグになる。いまや、メディアで取り上げられることのないスコット・スタンバーグについて、自由気ままに喋りたくなった。

一時期、僕はバンド オブ アウトサイダーズを熱心に見ていた。ウェブでスコット・スタンバーグのインタビューを探しては見つけ、何度も繰り返し読んでいたし、セレクトショップに行ってはそのデザインの秘密を探るように、パターンと素材を喰いるように何度も見ていた。バンドはメンズも展開されているので(そもそもメンズからスタート)、試着もしてその服を体感することも怠らなかった。今では僕は服を買うことがほとんどなくなってしまい(そのお金があるなら服作りの資金や、デザインに関わる資料の購入にまわしたい)、持っているバンドの服は黄色いポロシャツ一枚になる。

スコット・スタンバーグのデザインは、伝統的なアメリカントラッドスタイルを自身の感性でクールでシャープなスタイルへと変換させていた。アイコンともいえるボタンダウンシャツを着てみると、それがよくわかる。かなりスリムなシルエットだ。僕はボタンダウンシャツを初めて着たとき、身体へのフィット感に驚いた。バックスタイルにはヘムラインから肩甲骨に向かってダーツが伸びていく。そのダーツが左右両身頃にあり、ボディのシルエットをきつく絞る。シャツのレングスも短い。シャツの裾を外に出して着るスタイルが促されているようだった。

スコット・スタンバーグがデザインしたボタンダウンシャツに、心地いい着心地があったかといえば、それは否定する。決して着る人に心地よさをもたらす服ではない。スコットの服へ対する美学が、一方的に押し付けられているのかのようなボタンダウンシャツだった。それはボタンダウンシャツに限らず、スコットがデザインするすべての服にいえる。

「これが一番カッコいいんだよ。着てみなよ」

そんなメッセージが潜んでいるかのような服だった。

伝統的なアメリカントラッドに測りながらも、自分の美学を反映したスタイルを提案する。服は決してリアリティは失わない。けれどその保持されたリアリティの中に、着る人間に労苦を強いる強引さも明らかにある。服の外観はまったく異なるが、その感覚はまるでコムデギャルソンのようだ。伝統は現代で新しいステージに上っていた。今、書いていて気づいたのだが、その静かな興奮があったから僕はスコットの服に魅せられていたのかもしれない。

そして、その面白さは服だけではなく、毎シーズン発表されるビジュアルにも反映されていた。スコットは、アメリカントラッド伝統のユーモアを決して忘れていなかった。バンドのビジュアルで最も好きな写真がある。どこかのカフェなのか、丸いテーブルを挟んで二つの椅子がある。一方の椅子には女性がカップを持って楽しげに笑っている。向かい合ったもう一方の椅子に座っていたのは、ゾウのぬいぐるみだ。その風景のあたたかさが、僕はとても好きでバンドのビジュアルの中でも一番好きだった。

それにバンドのビジュアルは、モデルの女性たちの笑顔がとてもステキだった。純粋にかわいい。そう思えてしまうほどに、彼女たちの笑顔は魅力的だった。女性の笑顔をかわいく見せることでは、スコットが僕の中ではNo. 1デザイナーだ。その思いは今でも変わらない。なんでモデルたちは、あんなに魅力的な笑顔を見せていたんだろう。彼女たちに仕事を忘れさせて、遊び心を思い出させているような、まるで子供が見せる本当にステキな笑顔だった。淡く儚げで、色褪せた色調の写真に流れるノスタルジックな空気と共にスコットが見せてくれた彼女たちの笑顔は、僕を心地いい気分にしてくれた。たとえ、その写真が見れなかっとしても僕の毎日に何の影響もなかっただろう。だけど、見れたことで感じた心地よい気分は、その瞬間を楽しさで満たしてくれたのも事実だ。

いい服を作っていたし、いいビジュアルも作っていた。だけど、それでもビジネスが失敗するのがファッション界。いや、ファッション界に限った話ではない。それはわかっている。でも、それでも、その切なさを最も強く感じるのは、節操がないほどに新しさを追い求めるファッション界に思えてならない。

もし、スコットがもう一度ファッションデザインをやるなら、ショーなんてやらないで、ただただ自分の美学を反映したアメリカントラッドを作り、そのスタイルをビジュアルだけで発表して欲しい。そして、彼の服を好きな世界中の人たちに届けて欲しい。カッコよく着れて、ユーモアにじませて、笑えて毎日を過ごせる服を。

<了>

 

*こちらのタイトルは、note「AFFECTUS」にアップされた「スコット・スタンバーグよ、もう一度」と同じ文章になります。