「パンからつくった 朝のパン醤油」はその名の通り、パンの耳が原料。通常、醤油は大豆、小麦、食塩からつくられますが、小麦の代わりにパンの耳を発酵させてつくりました。食欲をそそる香ばしさが魅力の、おいしい洋風醤油です。



一般的な醤油よりも少しとろみがあり、ほのかな甘味が後味として残るところが特徴です。
いろいろな料理に合わせてみましたが、目玉焼きとの相性は特に抜群。半熟にした黄身の上にとろりとかけると絶品です。パンの耳からできていますので、もちろんパンにも合います。“朝食はパン派”という方にはぜひ一度味わっていただきたいです。



「醤油」という和の調味料でありながら洋の食材によく合い、パン粉を使ったフライにも最適。照り焼きバーガーのソースには醤油が使われているように、パンと醤油の関係は実は「テッパン」なのです。醤油とソースのちょうど中間にあるような、この新しい味。どんな料理に合うか、ぜひ試してみてください!



従業員にも好評だった照り焼きソースのタレ。このようにパンと合わせてさまざまな楽しみ方ができます!(※写真は生成イメージです)


そもそも、なぜパンの耳から醤油をつくろうと思ったのか。きっかけは、醤油屋の4代目である私のライフワークとも言える、菌の研究にあります。醤油づくりの工程には「発酵」があり、それによって醤油ならではの深い香りと旨味が生まれます。この「発酵」を促すのが菌の仕事で、私はこの菌の魅力にとりつかれてしまったのです。



十数年ほど前から菌の研究をはじめ、アワ、キビ、ヒエなどさまざまな穀類を発酵させ、その違いを評価し、うまく発酵が進んだものは商品化もしてきました。エゴマの搾りかすからつくった「エゴマ醤油」も、こうした研究が実を結び生まれた商品です。この商品を開発したことで、小麦以外の原料でもおいしい醤油にできると確信しました。



日本は高温・多湿が味方をし「ニホンコウジカビ」という麹菌がうまく働く環境が整っています。この「国菌」である麹菌が醤油、味噌、日本酒といった日本の伝統的発酵食品を生み出すのです。


菌と発酵の研究を進めていくうち「穀物以外の素材はどうだろうか?」という好奇心が湧き、さらに研究を重ねました。ありがたいことに、お客様から「これは発酵できますか?」とお声をかけていただく機会も増えてきました。南部アカマツやイタヤカエデといった岩手県内の木を原料にシロップを製造したり、熟成肉から「魚醤」ならぬ「牛醤(ぎゅうしょう)」をつくったり。「醤油」という枠から飛び出した商品も開発してきました。


岩手県盛岡市の城下町にあり、2023年にリニューアルした直営店舗「クラビヨリ」では、南部アカマツから抽出したエキス入りのシロップで作るジンジャーエールが楽しめる。

そんな時「イギリスの会社が廃棄される予定のパンからビールをつくった」というニュースを目にしたのです。これまでは穀物などの素材を発酵させることに取り組んできました。そのニュースを見て「一度加工されたものでも、菌とのかけ合わせで醤油づくりに向いた状態で発酵させられるかもしれない」と気付きました。これが「パンからつくった 朝のパン醤油」開発の始まりです。


幸い、私たちの工場の近くに大きなパン工場がありました。そこでは毎日、大量のパンの耳が出ており、その多くは家畜の飼料や廃棄となるものでした。廃棄予定の食材から醤油がつくれたら、アップサイクルになり環境にも良いはずだ。パン工場へ相談に伺うとすぐにお話に乗ってくださり、原料の確保はできました。


パンの耳。うまく発酵させるため細かく粉砕し、麹菌が活動しやすくする。


素材が決まり、一定量を確保できることも決まったら、あとは商品化に向けて試作を重ねるのみ。しかし、これがなかなかスムーズには進みません。

「素材の鮮度管理と処理」「発酵を促すための菌との組み合わせ」に苦労しました。



●素材の鮮度管理と処理

醤油の原料である大豆や小麦は乾燥させてあるため保存がききますが、パンの耳は常温で放置しているとすぐにカビてしまいます。カビやすいということは、醤油をつくるためのニホンコウジカビもつきやすい、とも言えますが、放っておくと発酵にも体にも悪影響を及ぼす他の雑菌やカビが繁殖してしまいます。そのため、鮮度管理には非常に気を遣っています。パン工場と事前に打ち合わせをし、工場で受け入れ後にすぐ圧力釜で蒸し、鮮度管理を徹底しています。


右奥の灰色の釜でパンの耳を蒸し上げる。


さらに、処理方法でも小麦とは違った配慮が必要でした。大豆・小麦とパンの耳では粒の大きさが違います。パンの耳は15cm四方ほどの大きさです。一方、大豆は水を含ませて膨張した状態でも1cm~2cm程度。麹菌が隙間に入り込み、呼吸をしやすい大きさなのです。そのためパンの耳を発酵させるとき、麹菌が入り込みやすいように砕きます。そこに水分を含ませ、適温に保ってあげる。そうすると、麹菌が活動し始めます。



例えるなら、麹菌という赤ちゃんが食べやすいよう、消化しやすいように離乳食を作ってあげる感覚でしょうか。適度に湿らせ、食べやすい大きさにちぎり、しっかり菌の栄養になるような環境を整えてあげることが必要なのです。


●発酵を促すための菌との組み合わせ

実は、同じ麹菌でも「タンパク質を好む菌」「炭水化物を好む菌」など、さまざまな特徴を持った菌が存在します。そのため使う麹菌の種類により、出来上がるお醤油がフルーティーに仕上がったり、旨味が強くなったり、という変化が生まれるのです。



パンの耳は小麦から作られるため、炭水化物を糖に分解するのが得意な麹菌に働いてもらいます。通常、日本酒づくりにも使われるこの麹菌がパンを発酵させていくと、まるで洋風甘酒のようなものができます。そこからさらに熟成させて醤油へと変化させていくのです。



醤油はたくさんの香り成分が複雑に絡み合い、何とも言えない食欲をそそる香りになっています。「パンからつくった 朝のパン醤油」の香り成分を調べると約300種類が検出され、そのうちこの醤油独自の成分が8種類確認されました。現在特許を出願しておりますが、製法等については学会に発表予定であり、オープンソースとして業界内外に広く活用していただこうと考えています。



香りはとても繊細で、発酵の度合いによって良い香りに感じるかそうでないかが分かれます。一定の品質の醤油をつくり続けるためには、発酵状態の管理が非常に大切です。必要な麹菌にはずっと住み着いてもらい、他の雑菌は排除しなければなりませんから、品質管理には国際規格に則りとても気を配っています。





「一度加工された食材であるパンを発酵させると、どうなるのか?」というところからスタートした醤油づくり。試行錯誤を経て、パンに合う味と香りの醤油が出来上がりました。

「発酵」の技術を生かし、未利用資源を新しい価値あるものに生まれ変わらせる。これが、浅沼醤油店の使命だと考えています。その過程にあるのが今回のクラウドファンディングです。

「パンからつくった 朝のパン醤油」はまだできたばかり。支援者の皆様には、いち早くお手に取ってもらい、ぜひ感想をいただきたいと思っています。
支援者様のお声を反映して、「パンからつくった 朝のパン醤油」をより良い商品にすることが、クラウドファンディングの一つの目的なのです。
 今回は、混ぜ物の少ない高級食パンに属するパンの耳で醸造してみました。昨日、醸造したものから少しだけ搾ってみたところ、今までの試作品より上品なものが搾れました。今回の支援者様には非売品の搾りたての生醤油も送付させて頂こうと思います。

日本の朝の食卓に欠かせなくなるような醤油を届けたい。この取り組みの最後の仕上げに、支援者の皆様のお力を貸していただけると大変うれしく思います。


<リターンの使い道>
研究とは不思議なもので、新たな疑問が次々と湧いてきます。例えば、パン生地の焼成の強さは醗酵後の調味料にどのような影響を与えるのだろう?発酵過程でどのような変化が起きているのだろう?
こうした疑問に向き合うことは現在直接事業利益につながらなくても、いつかは世の中の役に立つのではないか?
リターンは社会に還元できる新たな研究予算として活用させていただきます。

<スケジュールについて>
3月20日:クラウドファンディング締切
3月30日頃:パン醤油圧搾
4月10日頃:リターンの発送


<募集方式について>
本プロジェクトはAll-in方式で実施します。目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。

  • 2024/03/20 08:00

    ご支援者の皆様へ、私たちのプロジェクト「パンの耳から生まれるお醤油」は本日の終了を目前としてSUCCESS致しました。皆様の温かい支援があったからこそ、このニッチな挑戦を成し遂げることができました。初めてのクラウドファンディングで、多くの不安と戸惑いがありましたが、皆様の励ましと信頼に支えられ...

  • 2024/03/14 14:04

    皆様、ご支援本当にありがとうございます。このようなマニアックな研究にお付き合いくださり、とても勇気を頂いております。今回テスト醸造しているパン醤油は、まぜ物の少ない高級パンに分類されるものの耳を使用して醸造してみました。昨日、少しだけ搾ってみたのですが、今までのテスト品にはない上品な仕上がりと...

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