心療鍼灸
精神科・心療内科領域に対する鍼灸治療②
症例1
[患者]
40代 女性 会社員 独身
[主訴]
抑うつ 不安感 動悸 息切れ 嘔気 めまい 浮動感 食欲不振
[現病歴]
Ⅹ-1年6月ごろより仕事中に動悸と息切れが出現。内科受診するも異常なしと言われる。
8月ごろにはなんとなく気分が鬱々とし、家事の気力がなくなるが、仕事はなんとか気力を振り絞っていた。
11月に上司が気付き、産業医受診を指示され、産業医より精神科受診を助言される。
抑うつ状態で服薬開始。体が動かず朝起きづらくなり、めまいや浮動感もあって、仕事を休みがちになる。Ⅹ年4月にうつ病と診断され休職となる。
Ⅹ年5月に知人の紹介で母親と来院。
現在の症状を本人の言葉そのままで記述
動悸 息切れ
常に不安感があって、たまに近い強い不安が襲ってくる
落ち着かない感じ
頭(特に後頭部)が張った感じ
考えがパッと浮かばない
頸と肩の凝る
急に手足が冷たくなって頭の中心だけ熱い
なんかザワザワする
休職開始2カ月前から別のクリニックで漢方薬を処方してもらっていた。
加味帰脾湯をベースに、イライラが強かったりピリピリしたときは、抑肝散加陳皮半夏に変更となり、治まれば加味帰脾湯にもどるという経過であった。
本症例は、開始時期は違うものの、標準治療と漢方、鍼灸が同時に治療にあたったものである。
[治療・経過]
初診
電車を利用して帽子とマスク着用して来院。服装は整っているが化粧はしておらず、髪も乱れている。来院するのもやっとという感じである。
一口二口の少量しか食べれず、多めに食べると嘔吐しそうになる。
胃がちゃぽちゃぽした感じで口が渇いて水分が手放せない。
かといって喉が渇いているのではなく、ほんの少し飲む。
歩いていてもフワフワした感じ。日に何度か不意にめまいがおこる。
足の冷えがあり、後頭部が痛くなることもある。
漢方処方 加味帰脾湯
脈は沈細 右関部R-barが若干弱い。
肝脾不和
SP-4公孫 SP-3太白 LR-3大衝 PC-6内関 GV-20四神総 BL-17隔兪 BL-20脾兪 BL-23腎兪
5回目
足の冷えと口渇がましになり、食事量も増えてきて普段の半分程度となる。気分に大きな変化はない。認知療法を開始する。
13回目
食事量は8割程度までもどる。浮動感とめまいは、程度は少しましになったが残っている。体の調子がましだと、抑うつ気分や不安もましになる。
また、その逆もある。現在気分は一時の大きな落ち込みはないが、低空飛行で落ち着いている
漢方処方 加味帰脾湯
脈 沈滑 右関部R-barは平となり、左関部L-barは初診時より若干強い。
肝陰虚
LR-3大衝 SP-6三陰交 KI-3大谿 PC-6内関 GV-20四神総 GB-21肩井 SI-13曲垣 GB-20風池 BL-17隔兪 BL-18肝兪
22回目
食事量はほぼ平常通りとなった。浮動感やめまいの頻度も減って、ほとんど気にしなくてよくなった。
気力が少しわいてきて、買い物に行ったり、友人と食事に行くこともある。顔の火照りが出てきて、更年期障害が始まったのかと不安になっている。
脈 弦 左関部L-bar強い。
肝陽上亢
LR-2行間 LR-3大衝 SP-6三陰交 ST-36足三里 PC-6内関 GV-20四神総 GB-21肩井 SI-13曲垣 GB-20風池 BL-17隔兪 BL-18肝兪
24回目
漢方処方が、抑肝散加陳皮半夏に変更となる。
Ⅹ年8月より復職に向けて訓練を行い、9月から復職。
36回目
ⅹ年12月 復職してから、気分がしんどくなることもあるが、なんとかコントロールしている。自分で気分の変化や体調の変化もわかるようになってきた。
浮動感やめまいもほとんどない。
維持療法期間に入る。通院間隔を月2回程度にし、徐々に月1回程度へとむける。
41回目
Ⅹ+1年4月 終了となる。フォローアップを半年後に設定。
漢方は、24回目以降、加味帰脾湯にもどらず。
[考察]
うつ病では、抑うつや不安などの精神症状だけでなく、浮動感やめまい、動悸等の身体症状も出現することはよく知られたことである。身体症状が精神症状の増悪因子となることもある。
標準治療や漢方に加えて、鍼灸治療で直接的に身体的アプローチをすることで、身体症状を軽減させることにより、精神症状の安定化をはかり、寛解までのQOLを高めることや、期間の短縮に寄与しているのではないかと考える。