2月21日(木)、ベトナム社会主義共和国首都ハノイ市において「日本鍼灸セミナー ~講義とデモンストレーション~」を開催しました。本セミナーにおける演題と演者は次の通りです。(1)良導絡治療術 岡山県鍼灸師会 内田輝和会長 (上記写真)(2)経絡療法、接触新法 日本鍼灸師会 津田昌樹研修委員長(3)社会健康医療学、伝統医療経済学 未来工学研究所 小野直哉鍼灸師(4)臨床心理鍼灸 日本鍼灸師会 南治成副会長本セミナーでは、鍼灸に関するセイリン㈱や㈱山正など日本製品の紹介説明を行いました。当初、ベトナム側からは26名が出席する予定でしたが、本セミナーが日本鍼灸を深く知る機会であることから、ベトナム政府保健省伝統医学局ファム・ヴー・カン局長からベトナム各地の鍼灸専門家9名を追加招待したいとの要請がありました。さらに、国立鍼灸病院グエン・バー・クァン院長から同病院各診療科の科長級の専門家を参加させたいとの要請があり、当初の予定ははるかに上回る78名(日本側11名、ベトナム側67名)の出席のもと、盛大に開催されました。平成31年度はベトナム人鍼灸専門家を日本に招聘して、さらに技術交流を深め、ベトナムにおける日本鍼灸の普及へ向けた活動を進めることとします。引き続きご支援賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。プロジェクトオーナー 小西 恵一郎
良導絡自律神経調整治療故中谷義雄博士は京都大学医学部生理学教室において、ツボと皮膚通電抵抗の関係を研究し、それによって「良導点および反応良導点」を発見しました。さらにそれらが機能的に関連することを見つけ「良導絡」とし、「皮膚通電抵抗と良導絡」と題した論文にまとめ、学位(医学博士)を取得されました。今日、「良導絡」と言えば「良導絡治療」をイメージされることも多いのですが、厳密には鍼灸学における”経絡”の科学的一面が”良導絡”と考えられ、良導絡理論の中核に座る現象になっています。一方、良導絡治療とは、良導絡理論に則って構築されたすべての治療法を指し、正式には「良導絡自律神経調整療法」と呼ばれています。本法は『皮膚通電抵抗を指標として、体表における自律神経(交感神経)系の興奮性を客観的にとらえ、統計学的なデータを基にして全身的、局所的に生じる興奮性(異常=病的)を、いわゆる健康人の興奮性(正常=生理的)に近づけようとする治療法』です。主な医療行為(手技)は針灸による自律神経調整、しかしその解釈(理解)は現代医学(とくに神経生理学)に基づいておこないます。このような独創的な『理論体系』と『治療方針』をもつ治療法が、日本において確立されたことから、中国伝統医学(中医学)においても日本的針灸と理解されております。
心療鍼灸精神科・心療内科領域に対する鍼灸治療③症例2[主訴]左顔面部の痛み 左眼周囲、左前額部、左側頭部、左後頭部の引きつったような痛みと違和感左腰痛[西洋医学的診断名]三叉神経痛、筋緊張性頭痛、パニック障害、抑うつ状態、腰痛症[所見]眼瞼や口角の下垂はなく、麻痺症状は認められない。左顔面部の知覚は過敏になっており、表皮に触れるとピリピリ感がでる。眼窩上切痕、眼窩下孔、オトガイ孔を圧迫すると各神経支配領域に放散痛がある。左後頭部に筋緊張があり、後頭神経表出部の圧迫により後頭部に放散痛を認める。[弁証]肝陰虚[治療]GV-20四紳聡・PC-6内関・SP-9陰陵泉・ST-36足三里・SP-6三陰交・LR-3太衝Ex-HN-5(L)左太陽・ST-8(L)左頭維・TE-20(L)左角孫・GB-1(L)左瞳子膠・ST-2(L)左四白TE-17翳風・GB-12完骨・GB-20風池・GB-21肩井・SI-13曲垣・BL-17膈兪・BL-18肝兪18×40mmステンレス鍼 置鍼15分コンスタントに週1回の頻度で施術。[心理的アプローチ]精神的愁訴ではなく、左顔面部の痛みという身体的愁訴の改善を目的に来院されたことから、パッケージとしての心理療法はせず、鍼灸と心理療法を統合的に行うこととする。2回目以降は、四診・施術という一般的な鍼灸治療の手順のみを行い、施術中に患者が話しかけてくる場合において、心理療法を取り入れることとした。[経過] 初回は病歴の聴取と治療方針や内容を説明するインテーク面接である。痛みの程度は、発症後、発作時と常時の最も痛い時を10とした場合のVASは発作時で8、常時で6である。2回目~3回目:患者の社会的背景をより詳しく知ることや、ラポールを形成することを目的とし、患者の世間話や痛みの訴えを受容、共感的に傾聴した。症状に変化はない。4回目~12回目:単に痛いと思うだけでなく、痛みの程度や発作の頻度、その前後の状況を客観的に観察するよう指示した。家庭や職場の話題を、受容、共感的に傾聴した。(来談者中心療法)毎回、置鍼後10分を経過した段階で脈診をしながら話すが、来院時には沈んでいる左関部L-barの脈が、10回目から10分後に少し力強くなる反応を示す。痛みは夕方に強くなり、治療後数日は程度、頻度ともに少し良くなっている。また、何となくわかっているつもりになっていたが、嫌なことがあったりすると症状が増悪することが自分の中で明確になったと報告される。13回目:心療内科の主治医より減薬を勧められ、処方は同じで土曜日と日曜日の朝のみ中止となる。心療内科の主治医は偶然にも学会などで私と面識があり、「痛みに対して私はこれ以上何も出来ないので、鍼と心理療法をメインにした方が良い。」と患者が主治医に言われる。14回目~30回目:痛みを客観的に捉えることが出来るようになってきたので、痛みの訴えを長々と聞くことが痛みに対する強化子とならないよう、痛みに対する訴えにあまり時間をとらず流すようにし、痛みの話題から他の話題への転換を意識した対応を行った。(オペラント条件付け)痛みの程度や頻度を問診として聞くことを4回に1回とし、3回は痛みについて患者が話してこないかぎり一切触れないようにした。14回目の痛みの問診では、発作時VASが6、常時が3である。痛みの軽減とともに、引きつるような違和感が余計に気になるようになっている。違和感についても痛み同様の対応をした。来院時の脈は相変わらず左関部L-barが沈細であるが、置鍼10分後の脈は平脈に近くなる反応を示す。娘のことを話すときや、一つの仕事の案件が無事終わると、そのことを明るく話してくれる。逆に腹の立つことやイライラすることは、不快な表情を示すなど、顔の表情も豊かになってくる。30回目の問診で、会社の休みが数日続くときは、痛みが全くなく、違和感は少しあるものの気にならないことが報告される。31回目~49回目:会社のことや家庭のことで、否定的な感情を訴えたとき、その時何を考えていたかを質問し、感情と思考の関係について説明しながら、別の考え方や可能性が自然と出てくるよう誘導した。(認知の再構成法)48回目の問診で、痛みについては全くないことが2週間続いているが、Ex-HN-5(太陽穴)周辺の違和感のみが普段は気にならない程度に残っており、嫌なことがあってストレスがかかったときにその違和感が少し強くなることが報告される。また、ストレスがかかっても、自分の意見や感情を表現することでコントロールしている様子がうかがえる。来院時には左後頭部の筋緊張は残っているが、鍼施術後は緊張が解けている。脈は来院時でも沈細がやや改善されてきている。[考察]心身症では、その発症や経過に心理的要因が関与していることを患者が自覚していないか、何となく気付いていても明確になっていないことが多い。そのため、介入時に身体的アプローチから入っていくことは、患者にとって違和感がなく、治療方法に対する納得もし易い。この症例でも、本人は発症については心因の関与を自覚しているが、経過については明確にはなっていない。そこで、三叉神経痛と筋緊張性頭痛の治療として鍼灸を行うことで、患者はスムーズに治療に入っていくことができ、治療開始初期から症状を軽減させることができた。さらに、解剖学的生理学的観点からの治療のみならず、弁証論治を行うことで、身体的アプローチから心因にも介入した。患者は自覚していないが、施術者は意図して施術中の会話に心理的アプローチとして心理療法を導入した。これら両者によって、心因の関与への気付きを促し、症状と心理状態の関係を客観的に理解することで、症状をさらに軽減させることができた。また、心理療法によりストレス耐性を高めることで、一部症状が消失し、残存している症状の軽減されている状態を維持コントロールすることが可能となった。心理的アプローチをする意味•ストレス耐性の向上による再発の防止•寛解あるいは治癒までの期間の短縮•寛解あるいは治癒までの間のQOLの向上「体の痛み」と「心の痛み」鍼をして痛みが軽減されたとき脳はどんな反応をするのか?ニューロサイエンスによる検証の可能性薬と認知行動療法(CBT)と鍼灸•共通の変化•固有の変化•ユニークな変化
心療鍼灸精神科・心療内科領域に対する鍼灸治療②症例1[患者]40代 女性 会社員 独身[主訴]抑うつ 不安感 動悸 息切れ 嘔気 めまい 浮動感 食欲不振 [現病歴]Ⅹ-1年6月ごろより仕事中に動悸と息切れが出現。内科受診するも異常なしと言われる。8月ごろにはなんとなく気分が鬱々とし、家事の気力がなくなるが、仕事はなんとか気力を振り絞っていた。11月に上司が気付き、産業医受診を指示され、産業医より精神科受診を助言される。抑うつ状態で服薬開始。体が動かず朝起きづらくなり、めまいや浮動感もあって、仕事を休みがちになる。Ⅹ年4月にうつ病と診断され休職となる。Ⅹ年5月に知人の紹介で母親と来院。現在の症状を本人の言葉そのままで記述動悸 息切れ常に不安感があって、たまに近い強い不安が襲ってくる落ち着かない感じ頭(特に後頭部)が張った感じ考えがパッと浮かばない頸と肩の凝る急に手足が冷たくなって頭の中心だけ熱いなんかザワザワする休職開始2カ月前から別のクリニックで漢方薬を処方してもらっていた。加味帰脾湯をベースに、イライラが強かったりピリピリしたときは、抑肝散加陳皮半夏に変更となり、治まれば加味帰脾湯にもどるという経過であった。本症例は、開始時期は違うものの、標準治療と漢方、鍼灸が同時に治療にあたったものである。[治療・経過]初診電車を利用して帽子とマスク着用して来院。服装は整っているが化粧はしておらず、髪も乱れている。来院するのもやっとという感じである。一口二口の少量しか食べれず、多めに食べると嘔吐しそうになる。胃がちゃぽちゃぽした感じで口が渇いて水分が手放せない。かといって喉が渇いているのではなく、ほんの少し飲む。歩いていてもフワフワした感じ。日に何度か不意にめまいがおこる。足の冷えがあり、後頭部が痛くなることもある。漢方処方 加味帰脾湯脈は沈細 右関部R-barが若干弱い。肝脾不和SP-4公孫 SP-3太白 LR-3大衝 PC-6内関 GV-20四神総 BL-17隔兪 BL-20脾兪 BL-23腎兪 5回目足の冷えと口渇がましになり、食事量も増えてきて普段の半分程度となる。気分に大きな変化はない。認知療法を開始する。13回目 食事量は8割程度までもどる。浮動感とめまいは、程度は少しましになったが残っている。体の調子がましだと、抑うつ気分や不安もましになる。また、その逆もある。現在気分は一時の大きな落ち込みはないが、低空飛行で落ち着いている 漢方処方 加味帰脾湯脈 沈滑 右関部R-barは平となり、左関部L-barは初診時より若干強い。肝陰虚LR-3大衝 SP-6三陰交 KI-3大谿 PC-6内関 GV-20四神総 GB-21肩井 SI-13曲垣 GB-20風池 BL-17隔兪 BL-18肝兪22回目食事量はほぼ平常通りとなった。浮動感やめまいの頻度も減って、ほとんど気にしなくてよくなった。気力が少しわいてきて、買い物に行ったり、友人と食事に行くこともある。顔の火照りが出てきて、更年期障害が始まったのかと不安になっている。 脈 弦 左関部L-bar強い。肝陽上亢LR-2行間 LR-3大衝 SP-6三陰交 ST-36足三里 PC-6内関 GV-20四神総 GB-21肩井 SI-13曲垣 GB-20風池 BL-17隔兪 BL-18肝兪 24回目漢方処方が、抑肝散加陳皮半夏に変更となる。Ⅹ年8月より復職に向けて訓練を行い、9月から復職。 36回目ⅹ年12月 復職してから、気分がしんどくなることもあるが、なんとかコントロールしている。自分で気分の変化や体調の変化もわかるようになってきた。浮動感やめまいもほとんどない。維持療法期間に入る。通院間隔を月2回程度にし、徐々に月1回程度へとむける。41回目Ⅹ+1年4月 終了となる。フォローアップを半年後に設定。漢方は、24回目以降、加味帰脾湯にもどらず。[考察]うつ病では、抑うつや不安などの精神症状だけでなく、浮動感やめまい、動悸等の身体症状も出現することはよく知られたことである。身体症状が精神症状の増悪因子となることもある。標準治療や漢方に加えて、鍼灸治療で直接的に身体的アプローチをすることで、身体症状を軽減させることにより、精神症状の安定化をはかり、寛解までのQOLを高めることや、期間の短縮に寄与しているのではないかと考える。
心療鍼灸精神科・心療内科領域に対する鍼灸治療①心療鍼灸とは?・高橋 孝二郎氏が提唱(1990年 全日本鍼灸学会で発表)・鍼灸と心理療法、カウンセリングとの合体・南の臨床現場での実施方法 統合的:鍼灸施術の一連の行為の中に、心理療法を取り入れた構造。 折衷的:別々に構造化された鍼灸施術と心理療法の組み合わせ。種類•気分障害(うつ病 双極性障害)•認知症•睡眠障害•不安症(不安障害)•統合失調症•パーソナリティー障害(人格障害)•摂食障害•身体表現性障害(身体化障害 転換性障害 疼痛性障害 心気症 身体醜形障害)•成年以前に診断される障害(発達障害・注意欠陥障害などを含む)対人援助の基本姿勢・傾聴・受容・共感的理解・自己一致認知行動療法C B T•第1段階 心理教育 治療可能性を理解する•第2段階 認知モデル 疾病と認知の関連について理解する•第3段階 認知再構成法 認知の問題は修正可能であり、その修正方法を練習する•第4段階 スキーマ療法 新しい認知スタイルを実行し、日常生活の中に生かしていく認知モデル(その1)認知モデル(その2)介入可能なのは?認知の歪み自分の思い込みや願望、恐怖心などのために論理的な判断を下せなくなる心理パターン↓↓↓↓↓↓↓考え方の癖だれでも考え方の癖を持っている。いくつかのパターンがある。類型・全か無か思考・「べき」思考・過度の一般化・心のフィルター・肯定的側面の否定・否定的予測・読心術・拡大視/微小視・感情的理由づけ・レッテル貼り・自己関連づけ・破局視自動思考・認知の修正(新たな思考の創出)自動思考を検討するための質問・自動思考がその通りであるとの事実や根拠は?・自動思考に反する事実や根拠は?・自動思考を信じることのメリットは?・自動思考を信じることのデメリットは?・最悪どんなことになる可能性があるか?・奇跡が起きたら、どんなすばらしいことになるか?・現実的には、どんなことになりそうか?・以前、似たような体験をしたとき、どんな対処をした?・他の人なら、この状況に対してどんなことをするだろうか?・この状況に対して、どんなことができそうか?・もし (友人)だったら、何と言ってあげたい?・自分自身に対して、どんなことを言ってあげたい?新たな思考・認知新たな考えで感情はどう変化するか。もともとの自動思考、新たな思考、いくつもの考えが出てきて、どれを採用しても良い。どれも自分の考えなので、どれをとるかは自分の自由。選択肢の幅を持たせることが肝要であって、自動思考を否定するものではない。認知的概念化(アセスメント)媒介信念の表出いろんな状況での自動思考を集めて、類型化していると、構えや思い込み、ルールの存在が浮かび上がってくる。治療者は、早い段階から媒介信念の同定を意識して自動思考を考察する。中核信念中核信念は2つの大きな領域に該当する。・「私は出来が悪い」・「私は好かれない」どちらか一方の場合もあるし、両方にまたがる場合もある。信念の修正自動思考を検討したときと同様に、信念についても、その妥当性を検討する。般化セッションでとりあげた特定の状況だけでなく、日常の些細なことも含めたあらゆる場面で、CBTの手法が使えることを体感する。最終的に患者さんが、自分自身のセラピストになる。