場の一切を祓い清める榊の舞
打立(うったて)による楽合わせが終わると、次に榊の舞が舞われた。場の一切を祓い清める舞で、神楽でも最初のほうに舞われる場合が多い。備中神楽では一人で舞われる榊の舞だが、比婆荒神神楽では二人舞となる。常緑樹である榊は、古来より神が舞い降りる依代とされてきた。古事記神話の岩戸開きの段にも、天小屋根命(あめのこやねのみこと)が天真榊(あめのまさかき)を使ったという記述がある。
榊舞は巫舞(かんなぎまい)という巫女舞の一種で、出雲地方の神楽では「手草(たくさ)」などと呼ばれていて、比婆荒神神楽の榊の舞もそれによく似たところがある。
鈴、榊、綾笠とも呼ばれる多色の御幣、それに扇子で軽やかに舞う。観客もその流れるような動きに心を奪われている様子で、神楽を舞う舞台も、神楽社の人たちも、見ている人も、その場の空気まで含めたすべてが舞によって祓い清められたのだ。
顔見世の曲舞
次に曲舞(きょくまい)が舞われた。10分に満たない舞の中に、神楽の舞の所作のほとんどが入っているという基本の型となる舞だ。神楽を習うものは、まずはこの曲舞から練習することになる。神楽では神楽の所作の紹介、そして太夫の顔見せとして若手が舞うことも多い。左手に御幣、右手に扇子を持ち、御幣を指して扇子を回しながら太鼓と歌に合わせて舞う。御幣は神が降りる依代として基本的に立てて持ち、外回し、内回しと回しながら神を指し示す。
「神楽とは神楽しむと書くゆえに 神の心をいさみまします」
舞の合間には三曲の歌を歌うが、これは太夫によっても歌う歌が違っていたりするのでおもしろい。
霊峰伯耆大山の三宝荒神社跡に特設された神殿(こうどの)で、後ろに祭壇と大山を拝みながらの荒神神楽は、とても神聖で通りかかった登山客も驚いて足を止めていた。