2019/12/05 18:00

 今回の鳥公園の創作体制変更に始まる問題提起に対して、様々な方から応援や応答のメッセージをいただきました。ご紹介していきます!

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〈日本の会社〉を題材とした90年代のある漫画の最後のエピソードに、「自立って自分ひとりで生きていくこと?だったらオレは自立したくない」という内容の、他人に支えてもらって生きているがゆえに誰よりも自立願望の強い車椅子の少女に向かって主人公が放つ台詞がありまして、小・中学生の頃に読んだわりには自分の中に残っている台詞なのですが、今回の『鳥公園 新体制についてのステートメント』を読んで連想していたらまんまと「自立とは、依存先を増やすこと」なる一言が登場し、いつものことながら西尾さんに対して一方的に通じ合うものを感じていたら(そもそも「複数性の演劇」という考え方も、木村敏さんの『あいだ』も、ずっと自分の中にある意識のひとつです)、拙文を寄せる機会をいただきました。どうも小堀陽平といいます。岩手の山奥にある西和賀町という寒村で演劇合宿を営んだり、中学生や高校生の演劇指導をしたり、地域住民と演劇をつくったり、最近は高校演劇の大会を立ち上げたりしています。たまに自分の作品も発表します。

 

 西尾さんとは共通の知人を通じてSNSでやりとりさせていただき、それをきっかけに先述の高校演劇の大会『いわて銀河ホール高校演劇アワード』の第2回目の課題戯曲を書き下ろしていただきました。この大会は今のところ全国唯一の〈劇作家が書き下ろした共通課題戯曲による演出勝負の高校演劇大会〉というもので、戯曲=作家が書いたもの/上演台本=上演団体が上演作品のために用いるもの、という語義規定のもとで行なっているイベントです。

 表向きの企画経緯や意図はいくつかあるのですが、それはそれでウェブサイト(gingaku.jimdo.comでもご覧いただくとして、あまり語ってこなかったややこしい個人的な思いとして、多様な関わり方が必要であり、しかもさらなる多様化さえも許容できてしまう演劇という営みをめぐる各々の〈(一方的でよいという)自由〉と〈(負うのではなくまっとうするものとしての)責任〉の整理について、どうにか枠組みでもって提示できないものかという問題意識が働いています。また、それをまがりなりにも公共劇場である西和賀町文化創造館でやるということに意味があるとも思っていて、自分としては〈公共〉は〈共〉にアクセントを置いて捉え直しを図りたいと考えているわけですが、そこでもやはり〈自由〉と〈責任〉の問題は整理されなければならないだろうと日々感じています(余計なことをいえば、あいちトリエンナーレをめぐる諸問題についても高度に政治的なところはさておくとして、ゴシップ的な騒動ではなくそういう市井の議論がもっと活発化したほうが健康的ではなかろうかと思ったりもしています)。アクティブな〈共〉のありようとして誰かの〈自由〉を保証したり尊重したりすることは〈干渉しない〉ということではないと思いたいものの私たちの社会はそのへんがどうしもなくまだまだで、スマートな美学のように無関心を装ってみたり、頭では分かっていても余裕がなくなるとすぐハラスメントしちゃったりする様を毎日目にしていると、ほどよい干渉の仕方や関係の結び方をひとまず稽古していくためにはまず枠組みをつくり「今この場では何をどんな立場でどのように扱うのか」ということを整理して思考回路の醸成をうながすという一種の政治的な視座がどうしても必要になる。まあ自分がつくった枠組みは高校生の演劇大会という大変ニッチなものですが、だから逆にというか、将来性を考えて、あせらず慌てずポジティブな意味で正しくニッチでありたいと思っています。


 うっかり自分の思考をだだ漏れさせてしまいましたが、劇作と演出を異なる人間が担うという素朴なシステム変更がもたらす意味の大きさ……というか、それが大きな意味を持ってしまう国内の演劇状況の未熟さへの具体的で有効なアクションとして鳥公園の新体制には確かな希望を感じています。当たり前っちゃ当たり前ですがパラダイムシフトは既存のパラダイムを嫌というほど分かっている当事者がもたらしてこそ意義も効果も大きいわけですが、そういうふるまいを実行する際、どんどん話を重くしてあたかも勇気だの覚悟だのが必要とされているかのようなネガティブ誇大妄想に引きずり込む日本人社会のなかで、こういう軽やかな、それでいて誰かを置き去りにしないようなやわらかさをもった営みはそれだけでも示唆に富むはずだと信じています。

 

 鳥公園のこの新たな営みが鳥公園だけのものにとどまらず、あるいは演劇だけのものにとどまらず、じんわりと確かに波及していくように祈りつつ、これからも遠くから勝手に共感を寄せていきたいと思います。

 というわけでまた西和賀にもお越しください。これからもよろしくお願いいたします。


2019.12.3

清澄白河から東京都現代美術館に向かう道中にて


ギンガク実行委員会事務局

(一般社団法人ブリッジ)


小堀 陽平