quazero – カゼロウ
今沢カゲロウ ルワンダ滞在目撃録8
(現地ガイドが目撃したことを書き記しています)
自然の中で一番相性いいものってなんですか?
「雲ですね。断然、雲。表情とか、伝えたいことが伝わってくるんです」
こんな会話をするようになるとは、ルワンダにお迎えした当初は想像もしていなかった。
一糸乱れぬ正確性を天才的なテトリスのように隙間無く組み上げ、完璧に仕上がったものを自ら爆破する。その爆風に狂気を感じ、正と異が風車のように高速回転をして入り混じったかとおもえば、全く別の色になって迫ってくる。
ハッと我に返るとそれはもう通り過ぎていて、その手に握っているものは無く、振り返るためにしげしげと見つめるお土産のようなものが存在しないので「あれはなんだったんだろう?」という強い衝撃のみがこびり付く。
パフォーマンスはもちろん、それに付随する立ち居振る舞いも、使うことばも、身なりも、誰かと向き合うその目つきも、あらゆる瞬間に緻密な今沢カゲロウ感が満たされていた。
そういう像が少しずつ変化してくる。
「プロになってヨーロッパに拠点を移して、その時からずっと一人でやってきてますからね。何にも所属せず、野良犬なんですよ。こういう万人受けするようなスタイルじゃない音楽を長く続けていくにはそれ相応のやり方が必要で。」
「ずっと戦ってきました。」
精密で、強く、冷たく、鋭く、堅く、速く、ブレず、ズレず、閃き、眩ませる
そういう印象のその奥にある人間味の正体のようなものが、ルワンダの爽やかな風を受けるたびにひらりひらりと透けて見えるような気がしていた。
ルワンダの自然の音を集めるフィールドレコーディングのため、首都キガリを離れバスに揺られて約3時間半、西部の湖エリアにご案内した。
人工的な音がほとんど耳に入らないこの場所は、飾られていないそのままのルワンダの音に浸るには最適だ。
この湖では小さなワカサギのような魚がとれる。
湖の遠くに男たちの伸びやかな声と軽快な歯笛が響く。
来た。
夜中に漁に出て、朝 岸に戻る。その時の業歌がなんとも気持ちいいのだ。
小走りで山を越え、着岸するであろう場所までいそいそと向かった。
途中道がなくなる。
かろうじてうっすら残る獣道をたどり、木々の茂る斜面を降りる。
(世界のBASSNINJAにこんな藪を分け入らせるなんて、、)と一瞬よぎったがそうも言っていられない。
湖畔にたどり着くと、漁師たちとそれを迎える女性たちが賑やかに仕事をしていた。
「ムラーホ!」
カゲロウさんはルワンダ語で彼らに挨拶を投げかけていた。
「警戒心の方が先に来ちゃうんですよね。ヨーロッパで活動していた時、到着初日に騙されてすっからかんになっちゃって。いい顔しながら近づいてくる人には用心する癖がついてる気がします。」
ルワンダでは知らない人でもすれ違うと挨拶をすることが多い。こちらが外人だからということもあるが、近寄ってきて気さくに話しかけてくることもままある。
ルワンダ滞在初期の方は確かに地元の方と積極的に交流していくような様子は見かけなかったが、この警戒心ゆえだとしたら、今目の前で起きている彼の方から挨拶を投げかけ近寄っていく姿は、何かが入れ替わった証にも見える。
岸でのレコーディングを終え、引き続き山を散歩する。
「この風はF♯ですね」
途中良い風の抜けるスポットを見つけ深呼吸しながら教えてくれる。
「グラデーションなんです。日が昇ってゆっくりと明るくなっていく感じ。そこからひらけていく感じ。だからただのFじゃない。」
7:30amの風はF♯
13:00pmの風はE♭
20:00pmの風はB 紛れもないB
Bは地球の音であるオーム音(聖音)と同じで、コントラバスのハーモニクスにも似る。
風が完全に身体に染み入り、身体が完全に風に染み入るトーン。
蟻の行列を見つけて立ち止まり
「日本のと全然違いますね〜!こっちは随分スリムだ!」と目を輝かせ
節理むき出しの岩壁を見つけて
「うわぁ〜!かっこいい!都市みたいだ」と何枚も写真を撮り
虫の声の方に手をかざし
「あそこにいますね!あんな身体の構造でこんな大きい鳴き声出せるんだ!」と感心し
高らかに子ヤギが呼ぶのを聞きつけて
「この子の、この額の縦ライン!美しいなぁ〜!」と近寄り
湖を見渡せる場所でじっと空を見て
「雲が、すっごいゆっくりですね!全然動いてない、何があったのかな?」と流れが確認できるまで見上げ続け
こうして、あちこちひょんひょん飛び回る散歩中に聞いてみた
自然の中で一番相性いいものってなんですか?
「雲ですね。断然、雲。表情とか、伝えたいことが伝わってくるんです」
「あぁ、この美しい自然を、どうやってやったら奏できれるかな。。どうやって描いたら表現しきれるかな。。それがミッションのような気がしてきました。」
音と、音以外のものから
今沢カゲロウの音はできていく
目にした世界や感じたこと、考えていることがそのまま生み出す音に反映されるなら
今回のアルバムに宿る音は。
(文・写真:masako kato)