前作『遺言 ~原発さえなければ』にも登場していただいた浪江町赤宇木の関場健治・和代さん夫妻の一時帰宅に同行した。
荒らされた室内に入ると、ケモノたちの宴の跡。
イノシシは畳に背中をこすりつけ、サルはお客用の布団を引っぱり出して寝床に、ハクビシンは屋根裏を簡易トイレに使っていた。
庭先には白骨化したイノシシの下アゴも落ちている。
倒れかかった棚の引き出しを開けると、引き延ばした1枚の写真が出てきた。
ドレスアップした2人が手を取り合ってキャンドルに火を灯す結婚式のもの。
「3月14日が結婚記念日だったんですよ」
和代さんは30年以上前のことを振り返る。
2人は同じ津島の集落に生まれ育ったが、見合いで知り合う。
「この人だ」と感じ、4か月後にスピード結婚。
それから、野山をかけめぐり育った1男2女は、それぞれ結婚して巣立っていった。
健二さんは趣味の盆栽を育て、渓流釣りに興じ、自然に囲まれた暮らしを楽しんでいた。
そして2011年、結婚記念日直前に3号機が爆発し、赤宇木に大量の放射性物質が降った。
「逃げ惑うばかりで、記念日のことは忘れていました。
ほんの数日の避難のつもりが、100年もふるさとに帰れないなんて…」。
一時帰宅したこの日、わずか4時間の滞在で、積算計は11μSvを示す。
「想い出がたくさん詰まっているからこそ、ふるさとなんです。
この風の香りが、どんなに懐かしいことか」
茨城県に新居を購入し、帰還困難区域の赤宇木に戻るつもりはない。
「どこにいても、いつも心にぽっかり穴が空いた状態なんです…」
野田雅也(共同監督)