医療システムが脆弱で、生まれつき免疫不全の子どもたちもいる施設での共同生活は感染のリスク、重症化のリスクとも高いといえます。孤児たちは感染予防のためにマスクを自作しているとお伝えしたところ、多くのご支援者からたくさんの布マスクが届きました。
国際郵便物の取り扱いが停止している中、帰国するタンザニア人に託して現地に贈ることができました。中には、あの小さめの布マスクも。小顔の子どもたちにはピッタリサイズでした。
新型コロナ感染症が世界中に蔓延している中、「タンザニアはどんな状況?行っても大丈夫なの?」とよく聞かれます。正直なところ「よくわからない」としか答えられません。現地のタンザニア人に尋ねてみても、やっぱり「よくわからない」あるいはむしろ「コロナなんて無いよ」「もう終わった」と答える人のなんと多いことか。
アフリカ連合AUによれば、アフリカ大陸における感染者数は9月末に145万人を超えましたが、検査キットの不足や情報操作により信頼できるデータが不足している国が多く、正しく評価する事は不可能としています。タンザニア政府の発表ではわずか509人。5月以降更新はされていません。
■タンザニアで最初の感染者が確認されたのは3月16日。北欧から帰国したタンザニア人女性が、泣いて国民に詫びる姿が実名で報道されました。
■翌17日にタンザニア政府はすべての学校を休校にし、スポーツ観戦やコンサートなどイベントを禁止しました。実に素早い対応でした。
■22日から感染発生国からの入国者(帰国者含む)に2週間の隔離を義務づけるなど水際対策を強化しました。
■当初は外国人の感染者が多かったのですが、4月に入ると渡航歴のあるタンザニア人の感染者が増え、市中感染も起こり始めます。他のアフリカ諸国では外出禁止令や都市封鎖が敷かれましたが、政府は導入に否定的でした。
■4月10日、経済活動を優先するマグフリ大統領は『神に祈り、仕事を続けよう』と国民に呼びかけました。手洗いの励行、3密の回避が徹底されます。
■11日からすべての国際線旅客便の運行を停止しました。
■29日、国内の感染者が480人、ケニアを抜いて東アフリカで最多になり、この後、異端ともブルドーザーとも称される強権大統領の特異な対策や言動が顕著になってきます。
■5月3日、PCR検査に疑念を抱く大統領はパパイヤやヤギ、エンジンオイルなど様々な検体に氏名、年齢、性別を添えて抜打ち検査をしたところ、陽性反応が出たと発表しました。
■8日、ザンジバル政府が新規感染者を発表し、タンザニア全体の累計感染者数は509人となりました。以降、データは完全に非公表となります。
■マダガスカルが自国土着のハーブに由来するコロナ特効薬を発表し、タンザニアなどアフリカ諸国が購入しました。WHOは効果を否認しています。
■タンザニアの感染拡大を疑うケニアやザンビアなど近隣諸国が国境を閉鎖し、物流面でも混乱が生じました。
■13日、在タンザニア米国大使館は国内の米国民に対し、首都で医療崩壊が起きており外出を自粛するよう警告を出しました。
■17日、大統領は自身の息子が新型コロナウイルスに感染したことを公表、生姜とレモンを食べたら完治したそうです。
■18日、空港閉鎖を解除し、観光再開を呼びかけました。2週間の隔離措置もありません。
■大統領は「祈りが神に通じた」と、22〜24日の3日間を神の救済に感謝する断食と祈りの日としました。最終日はラマダン明けと重なり、国中がお祭り騒ぎになりました。
■6月1日、全国の高校、大学が再開し、スポーツやイベントも通常どおりに行われています。
■8日、大統領は「神の恩恵でコロナは取り除かれた」と克服宣言を出しました。
■29日、全国の小中学校も再開しました。
■7月1日NHK放送文化研究所発行『放送研究と調査』は、タンザニアでコロナ報道は完全な管制下に置かれているという記事を掲載しました。また7日付朝日新聞デジタル版は、『神のおかげで収束したはずの国』との見出しで、原因不明の死で数十人の遺体が夜中に埋葬されている、治療のために数百人のタンザニア人が国境を超えたといった記事を掲載しています。
■いま、国民はまるで何もなかったかのように普段どおりの日常生活を送っています。マスクをしている人もソーシャルディスタンスをとる人もいません。コロナという言葉さえ聞かれなくなっています。経済活動の維持を優先したマグフリ大統領は、情報を制限し信仰に拠らせ、人心の不安を取り除くことには成功しているようです。10月28日の総選挙に向けて、感染対策を批判していた野党でさえノーマスクで大規模な集会を開いているのですから。
ちなみに日本の外務省はアフリカ諸国のほとんどを日本への上陸拒否国に、渡航についても感染症危険情報レベル3(渡航中止勧告)としていますが、いずれもタンザニアはその指定から外れています。だから安心安全というわけではありません。感染予防の対策を十分に講じて臨むつもりです。