日本をはじめとし、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染が世界的な拡がりを続けています。現在、私たちが活動しているアフリカのウガンダやコンゴなどでも感染者が確認されている状況です。
これらの地域は、もともと紛争の影響で、多くの避難民や貧しい人々が劣悪な環境下での生活を余儀なくされています。医療体制や衛生管理が不十分であり、今後さらなる感染拡大が懸念されます。
「ウィルスに殺される前に、失業に殺される」
感染予防の対策として経済活動が制限されていますが、これにより新たな問題が浮上しています。 多くの住民が失業もしくは一時的に収入源が絶たれ、現地の人々の生活が圧迫されているのです。
労働者の大半が、日払い、週払いで生計を立てており、生活の糧を失った最貧困層の人々の生命を脅かす事態が生じています。 残念ながら、過去にテラ・ルネッサンスの社会復帰支援センターを卒業し、自立を果たした元子ども兵の人々も同じような状況にあることがわかりました。
元子ども兵のモニカさん(仮名)も、そのなかの一人です。新型コロナの猛威が迫る以前、彼女はどのような過程を経て自立を果たすことができたのでしょうか。以下より、少しだけご紹介させてください。
人はその日一日を穏やかに過ごすことができる。
そう話してくれたのは、テラ・ルネッサンスの元子ども兵社会復帰支援センターの卒業生であるモニカさん。彼女は、ウガンダの反政府軍に誘拐され、2003~2004年の2年間を『子ども兵』として過ごしていました。
軍隊を除隊後、彼女はなんとか自分の村に戻ることができました。ですが、周囲からの差別や偏見を受け、自分は何の価値もない人間だと塞ぎ込むような生活を送ることになります。このような状況だったことから、彼女は2013~2015年にかけてテラ・ルネッサンスの施設で社会復帰のための支援を受けることになりました。
自立を目指して訓練に励んでいくモニカさん。彼女自身の変化のキッカケとなったのは、支援の一環として学んだ「平和教育」だったと話してくれます。
「平和教育」の授業で、彼女は「人はその日一日を心穏やかに過ごすことができる」ということを知り、人生を変えることができたと語ってくれました。
支援を受ける以前、「毎日が嵐の中にいるような日々だった」と話す彼女。「でも、その嵐は自分が作り出していたものだと気がつきました」といいます。
また周りの人と、どのように付き合えば良いのかといったことも学び、たくさんの新しい友達にも恵まれます。職業訓練として洋裁の技術を身につけた彼女は、村に戻ったあと洋裁店を開業することができました。
気づけば、私に夢中。
テラ・ルネッサンスで受けた社会復帰の支援を通じて、人生を変えてきたモニカさん。そうした変化は、一日一日の生活、まさに今この作業に集中することの連続の中で生まれた結果でした。
目の前の訓練を一つひとつこなしていくことで、ミシンが使えるようになり、その技術で収入を得ることができるようになり、そして洋裁店を開くことができていた。
気がつけば彼女は、自分の人生に、夢中になって生きていたのです。
内戦後も続く苦しみを乗り越えて。
ウガンダ北部では、2000年代に内戦が終結しました。しかしその爪痕は今日まで消えずに残っています。反政府軍に誘拐されていた元子ども兵は、今も隣国からウガンダに帰還することがあります。
自分の村に帰ったあとも、元子ども兵たちの苦しみは続きます。多くの元子ども兵は、帰ってきた村で差別を受けたり、また戦闘に参加していたため教育を受けておらず、自分の力で生活することができない場合が多いためです。
私たちは、そうした元子ども兵をウガンダ北部の町(グル)にある施設に受け入れ、職業訓練などを通して社会復帰できるようにサポートしています。
身体だけでなく、心に深い傷を負った元子ども兵の人々。施設にきた最初の頃は、多くの場合、自分の心を閉ざしてしまうことがほとんどです。それでも、日々の訓練を通して、そんな状況が少しずつ変化していきます。
「洋裁の技術を活かした仕事をしたい」「子どもに教育を受けさせたい」「町に出てもっと勉強したい」など、笑顔でそれぞれの夢を語ってくれる人たちもいます。そんな彼ら彼女らの姿から、私たち自身も学ぶことが多いです。
「自立」と「自治」を促進するテラ・ルネッサンスの支援
自立支援において、私たちが大事にしている考え方があります。それは「自立」と「自治」を促進した支援のあり方です。
「自立」とは一人ひとりが自らの力で立ち上がり、周囲との関係性の中で生きていくこと。そして「自治」とは、その人たちが互いに手を携え、さまざまな問題を解決していくことです。
さらにもう一つ、個人個人の状況に合わせて支援の方法をカスタマイズすることです。これは、一人ひとりが「やりたいこと」「できること」に焦点を当てるこのオーダーメイド型の支援です。
これらの方法にもとづき、これまでに、208名の元子ども兵がテラ・ルネッサンスの支援を受け、自立への道を歩んでいます。支援の成果の一部をご紹介します。
手に職をつけ収入を得られるようになったことから、収入面の変化は支援前の約50倍に。さらに、自分の村で差別や疎外感を感じずに生活できる元子ども兵の割合も3倍以上になりました。そのなかで、自尊心の回復も確認することができました。
経済的にも自立しながら、周囲との関係性の中で、自分の人生を歩むことができるようになったのです。
気がつけば、村の人々を支える存在へ
現在は洋裁店を営んでいる卒業生のモニカさん。大勢の人がお店に訪れるようになり、なかには「洋裁の技術を教えてほしい」と相談する人も現れるように。このことから、彼女はそんな人たちに、洋裁の技術を教えるようになりました。
かつて、「自分には何の価値もない」と思っていた彼女も、今では村の人々から頼りにされる存在になってました。彼女は笑みを浮かべて、このように言います。
「このように、いまではコミュニティの人々もサポートすることができ、以前よりも良い関係になりました。平和に暮らせるようになって、とても幸せです。」
そんな彼女には夢があります。
ひとつは、プロの洋裁家として仕事と講師を続けること。
そして、子どもたちに教育を受けさせることです。
5人の子を持つ彼女は、子どもたちの将来について話してくれました。
「子どもたちにはまず、十分に教育を受けてもらって、二人の男の子には先生と医者になってほしいです。そして、女の子たちには自分の洋裁のビジネスを続けてほしいですね。」
ここには、今も変わらず、自分の人生に夢中で生きている彼女の姿がありました。
日本の皆さんにお願いしたいことは…
テラ・ルネッサンスでの支援を通して、自分の人生を切り開いていったモニカさん。私たちとの会話の最後には、このようにも話してくれました。
「皆さんからの支援があったからこそ、いまの私になることができました。心から感謝しています。私に支援してくださったように、私も他の人々を支援するように務めることを誓います。そして日本の皆さんにお願いしたいことがあります。
世界中のあらゆるところで、私にしてくださったように他の人々の支援も続けていってください。」
新型コロナを生きる、彼女たちの今。
現在、新型コロナの影響によりモニカさんの洋裁店も営業することができない状態に陥っています。 やっと掴んだ自立した暮らし。そこに対するこれまでの努力を思うと、とてもやりきれない気持ちです。
このような状況のなか、私たちはモニカさんをはじめとする人々に対して、布マスクの生産を発注し収入を得られるようにサポートを開始しました。
現地では、日本同様にマスクの需要が高まっています。また、輸入物のマスクが通常価格よりも数十倍に高騰しているため、貧困層の人々ではとても手にいれることができません。そのような人々をはじめ、病院や医療従事者へも布マスクを配布し、非常に良い評判をいただくことができました。紛争を生き延び、差別や偏見を受けるなどさまざまな困難を受けた人々ですが、今ではマスクの制作を通じて、人と社会になくてはならない存在になっています。
皆様と一緒に。
「新型コロナウイルス対策緊急支援プロジェクト」では、5月31日をもって、本キャンペーンにおけるご支援の呼び掛けを終了しました。結果、921名の方々から24,460,616円のご支援をお寄せいただきました。日本国内も大変な状況であるにも関わらず、お一人お一人からの温かいお気持ちとご支援が本当に嬉しかったです。重ねて御礼申し上げます。
新型コロナウイルスの感染拡大のなか、弊会の事業地であるコンゴ民主共和国では大規模な洪水災害が発生し、多くの人々が生命の危機にさらされる事態となっています。また、ウガンダやコンゴに加え、私たちが活動する隣国ブルンジにおいても新型コロナウイルスによる被害が深刻化しています。
その中で、テラ・ルネッサンスだからこそ「できることがある」と考え、感染予防活動や生活に困窮している人々へ生計支援活動を実施しています。
キャンペーンとしてのご寄付の呼びかけは終了しましたが、これからも活動地でのコロナ対策のための支援は続いていきます。
テラ・ルネッサンスでは、月々1,000円から継続的に支援していただけるファンクラブ会員制度をご用意しております。ファンクラブ会員になって、テラ・ルネッサンスの活動を継続的に支えてくださいませんか。
これからも、みなさまと一緒にテラ・ルネッサンスの活動を推し進められることを心よりお待ちしております。
2020年6月25日 テラ・ルネッサンス一同