デメテルハーブティー代表の西口です。「どうしてカンボジアでハーブを使った製品づくりを始めたんですか?」という質問をよく頂きます。
それに対する一番簡潔で本質的なお返事は、おそらく「そこにハーブがあったから」になると思います。え?!それだけ??と驚かれるかもしれません。もっと高尚かつ感動的な理由を期待されている方には、がっかりされるかもしれません。でも聞いて下さい。
デメテルハーブティーを始める前、NGO職員として働いていた当時、私は地方で貧しい人へも隔てなく平等な医療を行う診療所の自立運営の道筋をつける仕事をしていました。診療所の食品自給率を上げ、販売を通じて現金収入を作り出すために、野菜栽培、養鶏、養豚など多くの事業を試みました。数字の上では診療所の食費支出は減り、販売を通じて入って来る収益は大きなものが期待できるプロジェクトでしたが、うまく行きませんでした。理由はいくつもありますが、大きな要因は診療所のスタッフたちには通常業務以外の仕事が増え、それを日常業務の中に入れこんで既存の診療業務とのバランスを取ることが難しく、ニワトリや豚などの生き物、野菜という生ものを扱う仕事はタイミングを逃すと大きな損失(支出)を生むということが最大の理由だったと思います。
診療業務という一番大事な活動を阻害せず、空き時間だけを使って失敗なくできる事はないか?そんなことを考えていたある日、診療所の裏庭に1本のハイビスカスの木が実を付けているのに気づきました。ハイビスカスというと観賞用のお花をイメージされるかもしれませんが、お茶にする食用のハイビスカスは、ローゼルハイビスカスというアオイ科の別の植物です。普段は葉を付けるだけの立ち木で、一年のうちの2か月くらいだけ、花を咲かせ、実を付けます。花が咲くまでは雑草と変わらないくらい地味な立ち木のため、診療所にハイビスカスがある事を私はその時まで知りませんでした。
改めて周囲を見渡すと、レモングラスやミント、バジルなど、診療所の周囲はハーブで溢れていました。プノンペン在住のハーブに詳しい友人に相談したところ、乾燥ハーブを作ってハーブティーにすることを提案されました。デメテルハーブティーが誕生した瞬間です。
ハーブはすでに診療所の周辺に生えています。土地にあった植物なので、雨季の雨があれば手をかけなくても勝手に成長します。天日乾燥は、診療所の仕事が忙しくない時に、自分のペースで行えます。乾燥させてしまえば日持ちするので、今日明日に売らないとダメになってしまう事はありません。お金の流れをクリアーにし、持続的にするために、ハーブ事業は会社として独立させ、診療所からハーブを買い取る形になりました。
診療所で生まれたこのハーブ事業のモデルは、学校の運営費支援にも使えることを、デメテルハーブティーのアドバイザーである高田忠典氏から提案されました。どこの学校にも、すでにたくさんのハーブが生えていたので、診療所から学校へ活動の範囲を広めることになりました。
すでに何度か書いたように、学校ハーブ園プログラムには、次の3つの目的があります。
1.学校の美化緑化
2.伝統文化の継承
3.学校運営費の創出
さらにもうひとつ、4番目を加えるなら、カンボジアの人たちが「カンボジアってこんな素晴らしいものがある国なんだ」と自信をもって他国へ紹介できる物産を一緒に創り出す過程を通して、自信と誇りを再発見するひとつのプロセスだという事です。
イベント時など、デメテルハーブティーのブースに私がいると、カンボジア人の方たちは「日本の製品なんでしょう?」と聞いてきます。「日本は何でも質が高くて、良いものがありますよね」「私は日本製のものが好きです」というようなコメントを頂く事が多いです。(それは日本人の一人として、とても有り難いことです!)
ですが、「いえ、デメテルハーブティーは全てカンボジア産の製品です。カンボジアは素晴らしいハーブが至る所にあるので、高品質のハーブティーが作れますね」とお伝えすると、皆さんパッと顔を輝かせ、「カンボジア製ですか!そうなんです。カンボジアは土地が豊かで、作物がなんでも豊かに実るんです!」と喜んで下さいます。そして、ハーブティーをひとつずつ丁寧に味見し、自分の気に入るものを探して買って行かれます。今はまだ、カンボジアの中間層の人たちの嗜好が少しずつ変わり始めている途中なので、デメテルハーブティーの購入者全体に占めるカンボジア人の割合は多くはありません。ですが、カンボジア人のお客さまの数が年を追うごとに増えている事は、毎年のイベント出店時に対峙するお客様の変遷で実感しています。
生産に携わる農家さんや学校関係者の人からは、「今まで使えるとは知らなかった植物の部位がこんな風に活用できるなんて知らなかった!」という声を聞きます。実際、ハイビスカスの木は、酸味のある若葉をスープに使うくらいで、花と実はそのまま放置されることがほとんどでした。どこの家にも、学校にも生えているパパイヤの木も、実は食べるけれど葉がハーブティーに使えることは知られていませんでした。今までは価値がないと思っていたものが、収入を生む資源になると知り、自分の周りを見ると、価値のある資源がいっぱいあった!という体験を通じ、「自分は貧しく、何も持っていない」と思っていた人たちが、少し工夫すれば今よりももう少し家族のために、学校のために収入を作れると知り、行動に移す。こういった経験を重ねることで、自分自身の力で、今日よりも明日をより良い日にできると信じられる事。たとえとても小さな灯のようなものでも、自分の力を信じる事ができれば、その人が住むコミュニティーや国全体が、より良い方向へ発展していく原動力になると思うんです。
私たちの場合、きっかけはハーブでしたが、他の何かであった可能性もあると思います。小さなきっかけは、きっとそこら中に溢れているのではないでしょうか?自分たちが見つけた一粒を大切に育てていった結果、気づくといつの間にか大樹になっていた。そんな風にデメテルハーブティーと学校ハーブ園プログラムがこれからも続いていけば最高だなと思います。