前回の記事「難民認定の仕組み」では、難民の定義や難民認定に係る手続きについて説明しました。本記事では、世界と日本の難民認定の現状について説明します。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)の報告によると、2018年時点で、紛争や迫害により故郷を追われた難民の数は7000万人を超えており(国内避難民:4130万人、国外に逃れた難民:2590万人、庇護申請者:350万人)、そのうちの約半数はこどもたちです。
難民の67%は、シリア、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマー、ソマリアで発生し、そのうち84%は難民発生国近隣の開発途上国(トルコ(4年連続1位)、パキスタン、ウガンダ等)で受け入れられています。日本を含む先進国における受け入れは、たったの16%です。
世界と比較すると微々たるものですが、日本においても2016年以降、毎年1万人以上の人々が難民として庇護を求める申請をしています。しかしながら、日本で難民と認められる人々は、毎年わずか数十人です。2019年には、申請者1万375人中、44人が難民として認められました。
※44人の内訳は以下のとおり。
アフガニスタン16人、リビア4人、イエメン3人、コンゴ民主共和国3人、シリア3人、ベネズエラ3人、ウガンダ2人、エチオピア2人、無国籍2人、イラク1人、スーダン1人、ソマリア1人、ブルンジ1人、パキスタン1人(不服申立てで「理由あり」とされた者)、スリランカ1人(裁判所により難民不認定処分が取り消されたことにより認定された者)
それにしても、なぜ日本では他国と比較してここまで難民認定率が低いのでしょうか?日本に「自分は難民ですと言って庇護を求めてくる人の大半は、いわゆる「偽装難民」なのでしょうか?日本の難民認定制度には問題が多々あることを勘案すると、決してそうとは言えません。
前回の記事でも少し触れましたが、日本で難民認定を行う出入国在留管理庁は、「難民の認定は,申請者から提出された資料に基づいて行われます。したがって,申請者は,難民であることの証拠又は関係者の証言により自ら立証することが求められます。」と定めています。これは要するに、「難民本人が自力で自らの難民性を立証してください」ということです。これは、難民申請者にとって無理難題であると言わざるを得ません。なぜなら、難民が命からがら逃げてくる過程で、自分が難民であることを証明する資料を集めて持ってくるということは極めて困難であるからです。このような資料を持って出国しようとし、出国の手続時にその資料が警察や政府機関に見つかってしまえば、その場で逮捕され、最悪の場合殺されてしまうかもしれません。
加えて、難民は言語の壁にもぶつかります。紛争や迫害にから逃れてきた人々が日本で難民として正式に認められるためには、自分が難民であることを証明する書類を日本語で作成し、入国から6か月以内に出入国在留管理庁に提出しなければなりません。しかしながら、難民として来日する多くの人々は日本語に堪能ではなく、日本語での資料の翻訳・作成は困難です。誰かに資料の翻訳・作成を依頼しようにも、その費用を準備することが難しいことも多々あります。
また、他国では難民として認められているのに、日本では認められていない方々がいることを示すデータもあります。
日本とオーストラリアにおけるスリランカ、インドネシア、ベトナムからの難民認定数及び認定率を比較すると、日本では全く難民として認められていない一方で、オーストラリアでは認められている方々がいることがわかります。なお、図3の2018年には、スリランカ2,226人,インドネシア2,038人,ベトナム3,116人が日本で難民申請をしています。
上記に代表されるような難民認定制度上の問題を早急に解消し、難民として保護されるべき人を全て保護することによって、難民が日本社会で安心して生活できるような環境を整えることが急務です。