前回の記事「世界と日本の難民認定の現状」では、日本の難民認定数・認定率が諸外国に比べて著しく低いこと、その背景には日本の難民認定制度が抱える様々な問題があることを説明しました。本記事では、前回の記事でも言及した「言語(日本語)の壁」について、難民認定後に焦点を当てて説明します。
日本で難民申請をし、晴れて難民であると認定された人々は、文化庁が行う難民に対する定住支援事業のひとつ、「条約難民及び第三国定住難民に対する日本語教育事業」の対象となり、日本への定住に必要とされている最低限の基礎日本語能力の習得を目的とした日本語教育プログラムを受講することができます。コースは2種類用意されており、昼間学習する人向けの6か月コースは1日6コマ、夜間に学習する人向けの1年コースは1日3コマとされています(1コマ45分で、計572時間)。
ただし、上記図1からも明らかであるように、第三国定住難民(*1)と比較すると、来日してから難民認定された人々(これまでの記事で「難民」と呼んできた人々、条約難民)が受けることのできる日本語支援は非常に限られており、彼らは「定住支援施設退所後の支援」の対象外となっています。
(*1)既に母国を逃れて難民となっているものの、一次避難国では十分な保護を受けられないことなどを理由に、他国(第三国)へ行くことを希望する人を受け入れに同意した第三国が受け入れる制度で、日本では2010年より開始されました(対象はタイに避難していたミャンマーの少数民族)。日本における第三国定住は、避難先である難民キャンプにおいて来日希望者を募り選考したうえで、日本語などの出国前研修及び来日後の研修を受け、日本社会に定住する、というスキームになっています。
また、難民の中には、来日する前に受けた迫害等による身体的・精神的なダメージを抱えていたり、経済的な余裕がなかったりなどの様々な事情から、なかなか日本語学習に集中することが難しい方々もいます。こうした個々の事情に配慮しつつ、かつ個々の学習スピードに影響する要素(漢字圏出身かどうか、日本語以外の外国語学習の経験があるか、自宅学習の時間を十分確保できるかなど)を考慮した日本語学習支援が必要です。
加えて、多くの日本人が英語学習で経験しているように、語学は一朝一夕で身に付くものではなく、毎日少しずつ、長期的に学習していく性質のものです。これと同様に、難民が日本語を身に付け、日本語で不自由なく生活できるようになるまでには多くの時間がかかります。この過程に寄り添い、長い目で難民の日本語学習をサポートする仕組みが必要です。