前回の記事「難民がぶつかる壁:日本語」では、難民に対する政府からの日本語学習支援の概要と長期的な日本語学習支援の必要性について説明しました。本記事では、難民の日本語習得に絡めて、難民が直面する日本での就職における困難について説明します。
厚生労働省によると、2018年10月末時点の外国人労働者数は、1,460,463人で、2007年に届けが義務化されてから過去最高を記録しています。読者の皆様の周りでも、外国人を見かける機会はここ数年で一気に増えたのではないでしょうか?日本人の生産年齢人口の減少に歯止めがかかっていないことを踏まえると、外国人労働者は日本経済を維持・成長させていくうえで欠かせない存在です。
一方で、外国人の採用、特にホワイトカラーかつ正社員の募集においては、その採用条件として高い日本語能力(日本語能力試験(JLPT)におけるN1、N2程度)が求められることがほとんどです。N1、N2の数値的な認定目安によると、N1は日本語を900時間程度学習したレベル、高度の文法・漢字(2,000字程度)と語彙(10,000語程度)を習得している、N2は日本語を600時間程度学習したレベル、すなわちやや高度の文法・漢字(1,000字程度)と語彙(6,000語程度)を習得している、とされています。
しかしながら、前回の記事で紹介した文化庁の「条約難民及び第三国定住難民に対する日本語教育事業」で提供される日本語教育プログラムの総時間数は572時間しかありません。また、前回の記事でも触れましたが、難民として日本で生活するにも身体的・精神的・金銭的な困難を抱えている方々にとっては、N2を取得するのに認定目安の600時間以上かかるケースがあっても不思議ではないと考えます。
これらのことを勘案すると、文化庁からの日本語教育支援だけでは、難民がホワイトカラーかつ正社員として就職できるレベルの日本語を身に付けることは困難だということがわかります。つまり、行政からの日本語教育支援だけでは、最悪の場合日本語が原因で就職できず、就職できたとしても日本語がほとんど必要とされない弁当工場や荷物の仕分け等の仕事にしか就けず、ますます日本語を使わず、日本語が一向に上達しないため、来日前には専門性の高い職に就いていた難民であっても日本語が障害となって自分の専門性を活かした仕事に就けず、結果として経済的な自立・安定が遠のいていく…といった負のサイクルに陥ってしまいます。
また、日本における就職に係る様々な慣習、特に新卒一括採用は、難民にとって全く馴染みのないものです。そのため、日本語で記載・発信された就職活動の情報にアクセスできないうちに、いつの間にか就職活動の機会を逃してしまった、というケースも散見されます。これらの例からもわかるように、日本社会で暮らし、経済的に自立して生活することができるようになるためには、日本語の習得がひとつの鍵となっているのです。