来年の国際天文学連合100周年記念事業(IAU100)に向けての会合が、日本天文協議会において、今年2月と5月に行われ、その対応が協議されました。 IAU100への日本からの取り組みの一つとして国立天文台天文情報センターが進めている「一家に1台天体望遠鏡」を来年には製造完了し、IAUに参加している国々に配布する案が日本天文協議会で了承され、かつ、日本学術会議IAU分科会に報告されました。 国立天文台は世界天文年2009に際し、「君もガリレオ!」プロジェクト http://kimigali.jp/ を2008年に立ち上げ、多くの方々にご支援いただきながら、国内外で天体望遠鏡工作教室と観望会等を実施してきましたが、今回、新たに口径5㎝の組立式望遠鏡キットを作成したいのは、主に次の理由からです。1.国内においては、小学校や中学校の理科の教具として、 性能と価格が充分な望遠鏡を供給したい。2.国外においては、IAU100年記念事業の柱である天体望遠鏡を 用いての天体観望を広く実施できるよう 流通が充分な望遠鏡キットを提供したい。 この目的を達成するための方策の一つとして、日本天文協議会会長の海部宣男さんが中心になって「子どもたちに天体望遠鏡を届ける会」という任意団体を作り、クラウドファンディングに挑戦しています。 https://faavo.jp/tokyomitaka/project/2984https://academist-cf.com/projects/76 2つの資金集めともに9月4日が締め切りで、合計240万円以上を達成した場合、この資金は国立天文台に使用目的限定で寄付され、望遠鏡キットの製作が始まります。 2009年に米国で製造されたThe Galileoscope(口径5㎝、25$)は、性能が充分でしたが、残念ながら今年3月で製造販売が中止になりました。合同会社を立ち上げての事業でしたが、流通経路が不十分だったことが撤退の主たる原因です。 2008年、国立天文台はIAUから10ドル望遠鏡の製造・配布を要請されましたが、当時、そのような仕組みや能力は無く、私たち君もガリレオ!チームは多くの市場の望遠鏡を調査・利用した結果、オルビイスと星の手帖社のそれぞれ口径4cm組立キットを「君もガリレオ!」望遠鏡と認定し、この十年使ってきました。 しかし、口径4㎝では、金星の満ち欠けも、土星の環も子どもたちが作成する精度レベルでは充分に観察することが出来ません。君もガリレオ!プロジェクトを推進してきて、その点が私たちにとってはとても申し訳なく思う点でした。5㎝製品もすでに市場にありますが、価格が1万円近かったり、製作後に壊れやすく、維持管理が難しく、適切なものが国内外で見つかりませんでした。 一方、小学校、中学校での聞き取り調査によると、学校で理科備品としてまとめ買いするなら単価5千円以内、個人個人に買わせるのなら、3千円程度が限界ということも分かりました。 今回、計画している口径5㎝の望遠鏡キットは、すでに予算(主に寄付金)として420万円を確保しています。残り200万円以上の資金調達によって、金型+1000台程度の初期製造を実現可能です。また、資金がさらに集まれば製造単価を下げていくことが可能です。 1000台の製造で製造単価は3千円程度と試算しています。ところで、通常の市場での販売価格は製造単価の3倍が一般的とのことです。倉庫代、問屋払い、小売り、運送、宣伝などなどが加算されるからです(通販の場合は2倍以上3倍以下)。 現在、国立天文台では3回ほど試作を繰り返し、性能や使い方のチェックをしブラッシュアップしてきました。これらの試作品作りでは、その設計を(株)ビクセンの研究開発部のエンジニアの方に協力していただきましたが、ビクセンが製品製造をするという前提ではありません。 現在、私たち国立天文台関係者はは寄付金集めと平行して、最終設計、仕様書の作成を進めています。順調にいけば、9月中に広く一般社団法人日本望遠鏡工業会社ほか関係企業・団体にお声をかけ、入札が行われ、その後、製造業者が決まり次第、製造等の契約書を国立天文台が交わし、初期期生産数の確定と発注が行われます。1000台発注の場合、完全納品まで約10か月かかると予想しています。 来年度の初めには、商品委託販売(商品管理を含む)契約を複数の業者と結ぶ予定です。つまり、国立天文台が直接、販売する訳ではありません。複数業者間では、「オープン価格」で価格競争していただき、なるべく安く国内や国外で販売していただければと希望します。幾つかの業者は海外に支店や販売網をお持ちなので小売り4000円は無理でしょうが6千-8千円で海外でも売っていただけるとと期待しています。 国内に関しても自由競争ですが、学校へのまとめ買いのみの対応という縛りの範囲に限定してですが、例えば40個まとめ買い(製造され送られてくる箱をそのまま学校へ送るだけの作業)の場合は、単価4千円を切る金額で学校に金星の満ち欠けも土星を環も観察可能な性能の望遠鏡キットを提供できる企業もあり、安価での販売を期待しています。 いずれにせよ、国立天文台は利益目的では無く、国立大学法人法で定められた大学共同利用機関法人の業務、同法29条1項4号「当該大学共同利用機関における研究の成果を普及し、その活用を促進すること。」という趣旨にそって製造を担当しようと考えています。 もちろん、性能が充分で安価な望遠鏡キットが市場に出回れば、学校で天体観察がおろそかにされがちな問題がすべて解決する訳ではありません。三脚や記録のためのタブレットやスマフォのカメラの取り付け方法などの開発は必須です。または、天体観察を学校ではなく家に機材を持ちかえって各自観察する方針に切り替えるとしても、その指導法を現場の教員と共有することが不可欠で、まずは協力を得られる小中学校で実践研究を行う予定です。協力可能な小・中学校の先生はぜひ、お申し出いただければ助かります。 また、現在市場に出回っている製品も今以上に売れるように配慮すべきでしょう。近い領域の製品を扱っている業者さんにも、この望遠鏡販売に参加してほしいと願っていますが、例えば、4cmでより安価で購入できる望遠鏡にも、既存の小型経緯儀にもそれぞれの利点があり、市場が拡大されることで業会全体が活性化することを期待しています。 「一家に1台天体望遠鏡」も、決して文字通りのほど売れるとは考えていません。6人に一人が貧困世帯という児童・生徒を取り巻く日本の環境は厳しく、一学年100万人強とはいえ、家庭で数千円のこのキットと数千円の三脚を購入する家庭は多めに見積もっても20-30万人/年ではないでしょうか? 私たちの主なターゲットは小学校、中学校(+地学開設の高校)と理科教員養成大学+教員研修です。 理科教育振興法では、顕微鏡は一人1台、天体望遠鏡は4人に1台の割合で配備となっています。望遠鏡に関しては現状そのような学校はほぼありませんが、国立天文台が高等教育のみならず初等中等教育にも力を今後入れることで、また、日本天文協議会加盟の日本天文教育普及研究会はじめ日本望遠鏡工業会等関係者が、その目的や効果を理解し協力しあうなかで少しでも現状打破につながればと努力しております。更なる資金や協力、何よりも皆様からのの関心が必要です。クラウドファンディングへのご支援をよろしくお願いします。 ---
去る7月21日・22日、みたかサイエンスキッズ(日本宇宙少年団の三鷹分団)の合宿に、試作品の望遠鏡をもって参加してきました。 行先は、三鷹市川上郷自然の村。施設のウェブサイトの説明によると、三鷹市の市立小・中学校の児童・生徒が豊かな自然環境の中で学習活動を行い、心身ともにたくましく成長するための場として作られた施設で、学校が使用しない期間は、一般からも申し込みが可能です。みたかサイエンスキッズは、普段から井之頭ロータリークラブの支援を受けて活発に活動を行っていますが、夏休みならではの体験をみんなで、ということで昨年に引き続き、こちらへ合宿にやってきたのです。 宿舎に到着したばかりのころは、一雨通り過ぎたところで、雲が多めで果たして星空が見られるか?と懸念されましたが、「星空を見たい!」という祈りが通じたのか、19時以降半を過ぎるころには、雲の合間から、上弦を過ぎたばかりの月、木星、土星などが、姿を見せ始めました。 施設備え付けの口径10センチ程の屈折天体望遠鏡を2台持ち出して、操作にたけた大人のリーダーが、手際よく、次々と天体を入れていきます。 覗いて見える惑星などの姿に歓声が上がります。一方、この試作品望遠鏡の周りには、やる気満々の子供たちが集まってきました。実は、子どもたちにはこう言ってみたのです。「こっちの望遠鏡は君たちが自由に触っていい望遠鏡だよ。まずは、頑張って月を入れてごらん。」そう、この望遠鏡のまわりに集まってきたのは、ただ見せてもらうだけでは飽き足らない、望遠鏡を自分で使ってみたい、そういう気持ちの子どもたちだったのです。もちろん、初めて望遠鏡を触るのです。そう簡単にはうまくいきません。それでも、動かしているうちに何度か「入った!」と大きな声が上がるようになりました。やがて子供たちは、一人がのぞき「入った!」というと、ほかの友達がねじを締める、というように、工夫してきちんと視野に収める、ということもできるように…。だから次に言ってみました。「もし、土星が入ったら、接眼レンズを変えて倍率をあげよう。ちゃんと土星の環が見えるはずだから」。この言葉でもう一段スイッチが入った子供たちは、猛然と頑張り始めたのです。とはいえ、土星と月では難しさのレベルが違います。さて、その結果は…。 子どもたちの感想から少し抜粋して見てみましょう。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー T君:火星がとても明るく見えました。ISSや流れ星を見てとても感動しました。月やアルタイルにぼうえんきょうを合わせられて、とてもよかったです。土星を見ると土星のわが見えてとても感動しました。 Rさん:自分で月と土星を望遠鏡に入れられてうれしかったYさん:たくさんのきれいな星が見えて、すっごくうれしかったし感動しました。また、自分でぼうえんきょうをセットして初めて「月」が見れた時は、すごい達成感がありました。星を知ることだけでなく、星を探すのうりょくもついたとおもいます。Sさん:夏の大三角や北極星などのいろいろな星や星座が見れて感動しました。また、自分でぼうえん鏡をセットして、アルタイルが見えたときは、達成感がありました。 M君:ISSが見えてよかった。真夜中、流れ星が何個か見えた。いろいろなぼうえん鏡で見られた。火星が明るかった。 Aさん:星空かんさつでは、にくがんやぼうえんきょうでほしなどを見ました。望遠鏡で星を見たことは今までありませんでした。ぼうえんきょうではじめて月、木星や土星を見れて良かったです。Hくん:星空観察一回目では、初めて望遠鏡の中に星を入れてみました。意外と難しく、苦労しましたが、星が入った時はうれしかったです。また夜中に(12:00ほど)もう一回見た時には、肉眼でも天の川が見えました。それだけでなく、流れ星もたくさん見られて、しかも色々な星が見れて良かったです。ものすごく良い体験が出来ました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー これらは、感想のほんの一部です。望遠鏡を操作する体験が、子供たちの心に強く残ったことを実感できました。 星空観察会のしめは、国際宇宙ステーションの通過でした。そのあと子どもたちは、花火を楽しみ、一度解散。 でも、夜半近くなり、火星が昇ってきて、雲も少なくなったので、もう一度、起きられた子どもたちと、川上村の星空を見上げました。 今度は肉眼で。 空高く上った夏の大三角の三つの星。そして、三鷹の街中では決して見ることができなくなってしまった天の川に、子供たちの感動もひとしお。きっと、夢の中でも宇宙を感じた余韻に浸っていたに違いありません。 子どもたちが寝てしまった後も、保護者と数人のリーダー(大人たち)が中庭に残って、しばし美しい星空を堪能しました。気が付くと秋の星座が顔を出し、アンドロメダ銀河が昇る時刻になっていました。子どもたちだけでなく、私たち大人も、遠い遠い宇宙に思いをはせることのできる素晴らしい一夜となりました。





