私たちのグループでは,富士山頂で雲水化学に関する研究を2006年から行っています.
図は世界の山岳域で雲水化学観測を行っている地点をすべてプロットしたものです.94%が標高2000 m以下で,3000 mを越えるのは世界で6地点しかありません.そのなかでも,富士山測候所は世界最高峰の雲水化学観測ステーションです!!
標高3000 mを越える観測地点における雲水pHの経年変化を示したのが上の小さい図です.pH(ピーエイチ)は酸の強さを示すもので,この値が低いと酸性が強いことを示しています.
世界の山岳域ではpHが4よりも高いですが,富士山と乗鞍岳ではpHが3より小さく,酸性の強い雲が生成していることを示しています.
約15年間の観測により,富士山頂でpHが低下するときは,大陸から二酸化硫黄を含む空気が運ばれているときであることが分かりました.つまり,越境大気汚染によって,日本上空の雲水が酸性になるのです.このような雲から雨が降れば酸性雨が降ります.酸性雨は過去の話ではありません.
ただし,最近はpHの値が上昇傾向にあります.この15年間でpHは25%ほど上昇しました.また,雲水内の硫酸イオンという,二酸化硫黄から生成する強い酸の濃度も25%ほど減少していました.
この観測結果は,中国における環境対策により,二酸化硫黄の排出量が減少していることと整合しています.
日本は世界における大気汚染物質の主要発生源であるアジアの風下にあるため,富士山頂における大気観測は地球規模大気汚染の変化を検知することが可能であることを示す結果といえます.
富士山測候所は,世界最高峰の貴重な雲水化学観測ステーションなのです.