◆富士山頂における高所(低圧低酸素)環境
高度が上昇すると気圧が低下し、それに伴い空気中の酸素含有量も減少します。平地と比較して、富士山頂(3776m)では気圧が2/3、体内の酸素量は1/2になり、エベレスト山頂(8848m)では気圧が1/3、体内の酸素量はわずか1/4になります。このような低酸素環境により身体に様々な症状をきたすのが高山病です。
急性の高山病には、急性高山病(Acute Mountain Sickness、以下AMS)、高地肺水腫(High Altitude pulmonary edema、以下HAPE)、高地脳浮腫(High Altitude cerebral edema、以下HACE)があります。AMSは高度2500m以上からを発症するといわれており、高度が上がるにつれて、HAPE、HACEへ進展して重症化します。
◆AMSと睡眠時無呼吸症候群
高所(低圧低酸素環境)では夜間SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が低下し、低酸素血症による過呼吸は血中の二酸化炭素分圧が低下して呼吸性アルカローシスが起こります。二酸化炭素分圧の低下は呼吸中枢を抑制し、睡眠中の中枢性無呼吸を引き起こします。この無呼吸により血中酸素分圧が低下すると、呼吸中枢を刺激して過換気になり、交互におこると周期性呼吸になります。低酸素血症は肺高血圧症の発症リスクであり、HAPEのリスクも高くなります。健常人でも中枢性無呼吸、周期性低呼吸は見られ、高度が上がるほど増悪しますが、肥満、舌根沈下など閉塞性無呼吸があるとさらに増悪します。睡眠時無呼吸症候群による睡眠中の低酸素血症はAMSの増悪因子となります。
◆富士山頂での睡眠状態は?
ヘルシンキ宣言に従い、本研究に同意された健常者の方の測定をおこないました。図1のように携帯型睡眠時無呼吸モニターを装着して、富士山頂での睡眠中の睡眠状態を評価しました。同時に図2の腕時計型微小型ロガーも装着して生体リズムを解析して睡眠・覚醒の状態も判定しました。図3に示すように、SpO2が著明に低下し、HR(心拍数)が増加していました。平地では少なかった無呼吸も富士山頂では著明に増加していました。図4のように、典型的な周期性呼吸パターンで、中枢性無呼吸を認めておりました。AMSは中等度で、中枢性無呼吸による睡眠中の低酸素血症が翌日のAMSの症状を増長していたと推測されました。
◆AMSの診断・重症度判定
AMSの症状は、新しい高度に到達した後、6-12時間で出現します。主な症状として、頭痛、胃腸症状(食欲不振・嘔気)、疲労・脱力、めまい・ふらつきをきたします。AMSの診断・重症度は、図5のLake Louise Score(LLS)を用いて判定します。頭痛を含むスコア合計3点以上あるいは頭痛の有無にかかわらずスコア合計4点以上でAMSと判定します。重症度の判定はスコア3~5点で軽度、スコア6~9点で中等症、10~12点で重症となります。AMSの重症度により適切な対応や治療が必要になります。