■ ごあいさつ
はじめまして。犬キューピットの作者ペンネーム「郁美ひよと」です。この犬キューピットは文も絵も一人で書きあげましたが、実態は工場勤務のごく普通の会社員の53歳です。最後に犬キューピット誕生秘話を軽く紹介のつもりでしたが、想いが強すぎて思わぬ長文となり最後にもっていきました。犬キューピットに興味を持った方は読んで下さい。
■ 「犬キューピット 夢丸と呪犬のヨンバン」のあらすじ
捨てられるためにダンボール箱につめこまれて軽トラで運ばれる仔犬たち。一匹の勝気な仔犬が身の危険を察知して、大胆に飛び降りて脱走した。しばらくの放浪の末、運よく「佳代」というお婆さんに拾われて「夢丸」と名付けてもらった。八年ほど幸せな生活を過ごしたが、最後は壮絶な死を遂げ、その経験を活かし、佳代の口癖である「一身独立」の影響を受けた凄腕の犬キューピットとなり活躍する。犬キューピット達は「念の矢」というほんの少しだけ心を誘導できる道具を使い、人と犬のステキな共生の為に、密かに活動している。
犬しては珍しく群れる事を嫌う夢丸だったが、成り行きで白い犬キューピット「マリ」とコンビを組むことになる。困惑しながらも、先天性の病気を抱える仔犬「ネロ」と正義感の強い女子高生「杉原りんね」の「運命の出会い」をマリに見せた。そして、ネロは短いながらも幸せに生き抜いた。当然、天に召されると思われたネロだが、マリからネロは天国にいないと、聞かされた、夢丸は驚愕する。
ネロはどこへ.....そしてその時、りんねは....
不幸にも人間から愛情を受けられず彷徨い続ける魂「サマヨイ」
虐待を受け、人間に復讐する道を選んだ魂「呪犬」
そして「ヨンバン」と名乗る呪犬と夢丸の関係とは...
■犬キューピットのプロジェクトで目指すは「殺処分ゼロ!」
STEP1「NPO法人等非営利団体の推薦」獲得
STEP2「条例改正」
STEP3「悪質ブリーダーの撲滅、繁殖犬の解放」
LAST 「殺処分ゼロ」
もちろん、「殺処分ゼロ」はこのプロジェクトだけで達成できる問題とは思ってません。「犬キューピット」が役割の一部分を担えればいい。そう思っています。
まずは「犬キューピット」を多くの人に存在を知ってもらいたい。それには図書館や学校の図書室で置かれたいのですが、原則として、図書室には「文部科学省の評価図書」しか置かれることはありません。けれども一つの可能性として「NPO法人等非営利団体の推薦」があれば、図書室に置かれることが可能と聞きました。ゆえに出版後はまず、それを目指します。
■ リターンについて
一つ大事な事になりますが、クラウドの分から残ったものはAmazonにで、1650円(消費税込み)で販売します。よって、ここでの購入は割高となります。応援資金とご理解ください。
そこで全コースで応援して頂いた方の名前を今後、「犬キューピット」がどれだけ増刷されても、そこには条例改正で悪徳ブリーダー撲滅の同じ志を持つ同士「犬キューピット倶楽部」のメンバーとして、ずっとお名前を記載し続けます。
※「必須」全コースお名前記載。支援時、必ず「備考欄にお希望の名前を御記入」下さい。
・1000円コース 「種の起源の犬」待ち受け+お礼のメール
・1500円コース A4サイズ「種の起源の犬」ダイレクトメールにて自筆でお礼
・2000円コース 「犬キューピット」1冊+お礼のメール
・3000円コース 「犬キューピット」1冊+待ち受け画面+A4ダイレクトメール
■ 資金の使い道
200冊の「犬キューピット」自費出版費用(出版社V2ソリューション) 304,018円
A4のダイレクトメール印刷 (200部) 4800円
その他、手数料、送料、封筒、などもろもろ 約60000円
そんなわけで目標の」35万円達成でも赤字ですが...なんとか実現できます(汗)
■ 実施スケジュール
7月20日の締め切りで、目標達成できた時点で、出版を依頼、約一か月後の八月末より順次発送します。
■ 最後のお願い
犬キューピットの創作は何かに突き動かされての創作な気がしてなりません。色々な出会いで書きあがりました。その中の一つは、ペット同伴バル「ZORION」との出会い。
「ZORION」は漠然としていた犬キューピットに目指すべき道を教えてくれました。そこに至る詳細は最後の章の誕生秘話に書いてます。
「犬キューピット」も読んで終わるだでなく、何かを変えるものになってほしい。
そんな思いで掲げた最大の目標「条例改正」「殺処分ゼロ」と大風呂敷を掲げました。けれど、自分が関わった保護犬は愛犬のメルだけで、最前線の実情は書籍やTwitterで知るのみです。至らぬ所ばかりとは自覚しております。
もし、ここ関係者の方があれば、どうかご意見、ご感想を聞かせてください。
私のメンタルの強さは定評あります。厳しい声にも必ず耐えしのぎ、次へ生かします。
犬キューピットが「殺処分ゼロ」への一つをポジションを担います!
(写真は13歳の頃のメル)
本プロジェクトはAll-or-Nothing方式で実施します。
目標金額に満たない場合はまだ自分の力が未熟だったと潔く諦めます。
計画の実行及びリターンのお届けはございません。
(追記 犬キューピットに興味を持った方は読んで下さい)
犬キューピット誕生秘話 信は力なり~OME TEAM
■ 1話 信は力なり
幼少の頃から、絵を描くのが好きで空想癖がある漫画家を目指す創作気質の典型的な人見知りで友達は少ない方。それでも運動神経はあまりないけれど、持久力だけは人並み以上あったので、運動部に入り、高校では「ラグビー部」に所属し、普通の高校生活をおくってました。けれど二年の時、自分にとって、衝撃的な出来事がおきた。伝説のドラマ「スクール☆ウォーズ」の放送だ。衝撃だった。人生が変わったほどに。そして振り返れば、それは私にとって「犬キューピット」が出来るまでの巧妙に張られた伏線だった気がしてならないのです。
「スクール☆ウォーズ」以降、全力で打ち込んだラグビーでしたが、自分の高校は弱体校。最後の大会は一度も勝てず、半端でない不完全燃焼感を抱えたまま終わりました。ゆえに進路を決める時、二つの選択肢で迷った。一番自信のある絵を学ぶか? ラグビーが向上できる道を選ぶか? その時……
(⦅⦅ ラグビーで己の限界を測れ ⦆⦆)
漠然と突きあがる不思議な直感を初めて体感した。でも、ラグビーを頑張りたいは建前で、大したストーリーは浮かばず、漫画家への道に限界を感じ、逃げたとも言えた。戸惑いながら、この直感に従うと、導かれるように地元のラグビー部のある会社に就職し、気が付けばラグビー部に入部できていた。そのチームは弱体校出身者でセンスのない自分には驚くほど厳しい練習で、「三か月でやめるだろう」と陰で言われ、チームに迷惑をかけていただろう。それでももう逃げるわけにはいかない。スクール☆ウォーズの名台詞「信は力なり」を心の支えにしたのと、数々の幸運で救われ、なんとか、二十代をラグビー漬けして九年在籍した。その間、ラグビーマガジンの選手名鑑にて載れたり、オーストラリア遠征に行けたりと、自分の能力以上の夢のような体験が出来た。運が良かったとしか言いようのない、落ち着かない心持ちを感じ、この頃から(この世には目には見えない不思議な力は、本当にあるんだ)と思うようになった。
そんな会社のラグビー部の生活は「伸び率だけはナンバー1」それが唯一の貰った誉め言葉だったが、そこで学んだ事は本当に多々あった。「人見知りの克服」「コミュニケーション向上」「前向き思考」などだけど、自分が勉強になったのは「自分の限界を悟った」事のような気がする。「可能性は無限大」とよく言われるが、(可能性は無限ではないなぁ....)というのが実感だ。どんなに頑張ってもイチローやなったカズにはなれない。それよりも「自分の可能性を使い切る」。こちらの方が現実的でピンと来る。これだけでも実践するのはなかなか大変だ。でも、使い切ると120%位の成果は確かにある。この+20%の達成感は本人でしかきっとわからない。そこまでふり返ると「+20%こそが可能性は無限大の正体」ではなかろうかと思った。じゃあ、まだ残ってる自分の可能性ってなんだろう? そんな自問自答で出した答えは、やはり「創作」しかない。
■ 2話 犬キューピット出現
三十歳で結婚、すぐに子供も産まれ、家族を養わなければならず、さすがに漫画家を目指すのはありえない。(もう創作で世に出る事はないのかなぁ)と諦めたかけた。それでも(一冊でもいいから世に出したい)想いは捨てきれない。そんな葛藤の中のある日、妻の実家が墓石屋だった事から、「生と死」について身近に感じていたのかもそれない。一つの閃きが降臨した。それが生前に愛情をうけた犬は死後、人と犬の仲を取り持つ存在になる存在「犬キューピット」だった。
(⦅⦅ これは売れる! ダイヤの原石だ!⦆⦆)
そんな直感に興奮した。ラグビー自分にとってダイヤではなかったけれど、おかげで「石を磨く技術」は身についていた。高校生の時のような「がむしゃらだけでは通じない世界」を理解している。
私は売れる為の二つの条件を意識していた。一つは「モノノ怪」がいること。人間には得体の知れないものに惹かれるきっと本能がある。もう一つは「聞きなれた言葉の組み合わせ」である。例えば「人魚姫」や「長靴をはいた猫」など。どれも知ってる言葉だけど、組み合わせると、急に想像を掻き立てる者に変身する。そこで「犬キューピット」である。
さらに「犬もの」には人知を超える力があると常日頃から思っていた。永遠の犬スターの「ハチ公」や「南極物語」何度見ても泣ける。毎年のように犬映画がある。「人間がどれだけ失恋しようが死のうが、まったく泣けないけど、犬は座っているだけでヤバイ」。そんな人、あなたの身近にもいるでしょう。犬にはそんな魅力がある。もうこれしかない。実際に絵にしてみると、すぐにそれっぽいキャラができた。(⦅⦅ 犬キューピット、行ける!⦆⦆)
儚い自分の創作意欲をすべてを「犬キューピット」に賭けようと決めた。十年も頑張れば何か形が出来る。そう信じた。
ところがそこから長かった。
さて、この「犬キューピット」をどうすれば、売れる形に持ち込めるのだろうと「マンガ」「絵本」「ゆるキャラ」など試行錯誤することだけで数年かけ、ようやく小説で行こうと決めた。頭に浮かぶ伝えたい事を、全て伝え切るには、小説が一番圧縮して詰め込めるからと判断したからだ。けれど、それまでの読書は、ほぼハウツーものか雑学もので、小説はほとんど読んでなかったので、筆は全く進まない。こりゃいかんと「小説の書き方」のハウツーものから始め、小説も気になるものは片っ端から読んだ。何年かかけると、よくやく文章として形になり、応募が出来るくらいまで成長した。これは意外と大事な事で、ストーリーを最後まで書き切ることは思っているより難しい。
そして目標期限の十年経った。が、何も起こらなかった。それでも「犬キューピット」をやめるわけにはいかなかった。なぜなら犬キューピットの閃き以来、びっくりするほど社会的に認められることがなくなったからだ。どれだけ改善や資料の出来が良くてもまるで認めらない。何がどうなるっているのかわからない苦しい日々が長く続いた。その頃から、私は(犬キューピットはホントにいるんじゃないか)という気がして来た。何か気配を感じるのだ。彼らは書かせようと追い込んでくる。ゲームの「スーパーマリオ」に「崩れる橋」というトラップがある。乗ったと途端に崩れ出し、急いで渡らなければ落ちてしまうやつだ。それに乗ってしまったような緊迫感を抱えてった生きる心持ちになっていた。そんな不安定な心の支えは「犬キューピット」の創作と美談にしたいところだが、私が受けている心境はもっと恫喝的なものだった。
(⦅⦅ お前が世に認められるのは、犬キューピットだけだ、覚悟しろ! ⦆⦆)
■ 3話 送られてくる刺客
そんな苦しい時に頭に浮かぶ言葉は、やはり「信は力なり」だった。何度も何度も「犬キューピット」を書き直しました。ストーリーを丸ごと替え、登場人物を替え、時には主役までもひっくり返して、ひたすら犬キューピットにこだわり、信じて書き続けた。その頃には犬キューピットの実在はもう確信してる私に、奴らは次々と「刺客」を送り込んで来た。
四十を超えても、四苦八苦でクラブチームでラグビー続けていた私に、奴らの仕業としか思えない出会いがあった。試合前のグランドで「〇〇クラブの方ですか?」と別のクラブに入ろうとしていた青年が自分に声をかけて来た。少し話すとその青年の職業はなんと「獣医」。栃木の実家の動物病院を継ぐ前に名古屋に修行に来ていたという。人見知りだった私がいつの間にか身に付けた話術で会話した彼は、飛び込むように私のクラブに入部してくれた。後に「犬キューピット」に出てくる獣医のモデルになってもらった彼は「スクール☆ウォーズ」に縁のある苗字。さて、それは本編で確認していただきたい。
この出会いが終着点だったように、私はラグビーをプレーすることに限界を感じ、徐々に身を引いたが、次の創作以外の目標探しに迷っていた。
そんな私に「崩れる橋」はいよいよ追い込みをかけて来た。仕事はさらに干され、点々と職場を放浪としていた。けれども、そこで出来た友人に誘われて地元で開催の「穂の国マラソン」(ハーフ)に軽い気持ちで出場した。ラグビーに打ち込んでいた私は、正直マラソンは(ただ走るだけじゃん)と軽んじていたが、それは大きな間違いだった。メンバーの制限がある球技と違って、マラソンは確実に大会に出れる。久しぶりに達成感のあるトレーニングができ、少し自身をもって出場したが、そこは驚きの連続だった。「マラソン楽しい!」大会はもう祭りだ。人波にもまれ高揚した。そして何より驚いたのは「お爺さん、お婆さんの年配者に抜かれまくった」事だった。四十を過ぎ「若者に負ける屈辱」を徐々に感じていたが、それはとんでもない間違いだった。ライバルは元気な年配者だった。そして気付いた「年配者に負けると感動する」のだ。そんなわけで次の「自分の限界を知るチャレンジはマラソン」に定め、打ち込むことにした。
その勢いで秋には「神戸マラソン」でに初フルチャレンジし、4時間7分とまずますの成績を出したちょうどその頃、中学時代の同窓会があった。当時の中学は第二次ベビーブーム。しかも、わが校は超マンモス校で15クラスもあった。そんな中で起きた奇跡の出来事。200人ほどの出席者で私の隣にいた同級生のコジマは中学時代は友達ではなかったが、彼の一言はその距離は一気に縮めた。「今、マラソンにはまってるんだよね。この前、初フルで3時間38分だった」驚愕した。4時間7分を自慢しようとした自分はひっくり返って驚いた。その後、彼とはサブ3.5を目指す盟友として年一回ほど一緒に走り、Facebookでお互いの活動を報告し合った。それが後に大きな出会いを生むことになる。
一方、「犬キューピット」を書く事は誰にも告げずにこそこそと進めていたが、何も新展開はない。さすがに誰かの意見を聞かねば方向は定まらないと思い、当時あった有料で作品を読んで品評してくる会社に依頼した。結果は私の期待を応えられず、品評は可もなく不可もなくだったが、決定的にショックだったのは、それまでは犬キューピットは正体を現さず、感じるだけのハートフル寄りのストーリー展開だったが、品評に「犬キューピットの存在にまるで触れられていなかった」事だった。これはマズかった。拙い文章で唯一の武器である「犬キューピットキャラ立ち」がなければ何も残せない作品だ。犬キューピット達が活躍する話は、デビュー後の切り札として出し惜しみしていたが、それでは通じないらしい。「作家は処女作を追いかける」。そんな名言が身に染みた。「全力を注がなければ、世に出るのは叶わなぬ願い」と思い知らされた。
主役を人間から犬キューピットにひっくり返して、一からストーリーを練り直した。主人公は以前、実家で飼っていた「ネロ」というミニチュアダックスに決めた。他も出てくる犬も、自分に縁のある犬にすると、不思議とピタリとハマっていく。ストーリー展開はハートフル一辺等よりも、冒険活劇にしたい。そんな人を引き付けるストーリーにする為には敵役は必須である。犬キューピットは「人と犬を結びつける存在」である。ならば敵役は「人と犬を引き離す」存在が適当であろう。ではそれはどんな犬だろう? 少し考えてすぐに「虐待を受け、人間に怨みのある犬」に決めた。とりあえず、その敵役の魂を「怨ネン」と名付けて書き進めてみた。その時、きっと何かが取り憑いた。気をつけなければ飲み込まれそうになるほどの感情がどっと溢れ、自分が予想してなかった「神羅万象から連なる台詞」が一気に五行ほど書きあがった。その時の驚きは忘れられない。(もしかしたらこっちが主役なのか)と真剣に今後の展開に迷った。そして、その葛藤を最後まで抱えたまま、ストーリーを書き終わり、なんとか「犬キューピット主役版」は完成した。
この犬キューピットは、少し実績を残した。今読めば文章も構成も未熟だが(今もまだ未熟だが.....)人の目に触れ、心に届いた。演劇部員になった高校三年の娘の部で題目に「犬キューピット」を選んでもらったのだ。娘が赤ん坊の時に閃いた犬キューピットは十数年をへて、ようやく小さな芽をだした。未熟な台本、高校の演劇部員の演技だったが、観客は、食い入るように観てくれている。ハンカチを手にする人も見える。素直にうれしかった。「何としてでも犬キューピットを世に出すぞ」決意を新たにする。
ところが、投稿をすればするほど、そこは迷宮となる。
■ 4 迷宮から脱出
ずいぶん時がたち、「応募は照準を絞らないと入選は不可能」とさすがの私も気づいたが、「犬キューピット」に適当な応募がないのでは、とも感じ始めていた。純文学では当然ない。児童文学にしてはページ数がオーバーする。条件の少ないライトノベルにふさわしい可愛い女の子もいない。頼りの「犬もの」の応募も実話での応募しかない。それに自分は子供の頃、挿絵がたくさん入った本に心躍ったので、そんな本にしたかったけれど、「文学賞では挿絵のアピールは論外」らしく、それだけで軽んじられて弾かれると知り、愕然としてしまった。
それに、一番大きな縛りは「時間」だった。応募は大抵年一度。締め切りに間に合わねばまた一年待たねばならない。そうなると、締め切りの時期が大きな判断基準になる。そして応募すれば当落が決まるまでもう他へは出せない。そこから発表までの短くても半年ほど身動きが取れなくなる。五十代の自分にそれは致命的な縛りだ。応募で認められる気が全くしなくなった。
もはや残る道は「自費出版」しかない。
だが、それは絶対にしないと決めていた。以前、某社で200万円ほどの見積もりをされた。とても出せないし、回収不可能な金額だ。悪質な業者による詐欺まがいの被害も聞いている。それに安易な出版は文章を磨く努力を怠り、作家気どりに陥り、紙くずを発生させるだけと思っていた。ところがそんなある日、ネット広告で飛び込んで来た広告で「V2ソリューション」という出版社を知った。広告通りお手軽に見積もりをしてみると、30万円ほどで出版が出来そうで、会社の評判も良さそうだ。
(待てよ。自費出版も有りなんじゃないか)
ふと、気が変わった。30万円はポンと出せる額ではない。だが絶対不可な額でもない。二十年間、何の趣味をしてもそれくらいのお金はかかる。
それにあまり人を信じれない心境でもあった。とはいえ「人間不信」ほどの重いものではなくて、サラリーマン川柳と同レベルの不信感だ。自分の身を人に預けきれないじれったさを常日頃から感じていた。
(もしや、それって文学賞でも同じなのか?)
そんな疑問に襲われた。もちろん全部がそうではないとわかっている。けれど自分は今までの人生をふり返り、彗眼ある人に発掘されることはないと覚悟した。上司や先生、先輩など上の人に可愛がられるタイプではない。人はそれぞれ、ふさわしい生き方がある。自分の道は自分で切り開くのがおそらく自分のスタイルだ。「一身独立」の主人公、夢丸の生き方と同じだ。自費出版を決めた。
その頃、テレビでは林先生が「いつやるの? 今でしょ?」と語るが、自分は今でないと思っていた。
■ 5 強硬突破
その後も「犬キューピット」は主役をネロから夢丸に替え、敵役は怨ネンから呪犬と名を替え、そんな手直しを何度も何度も繰り返して書き直し、「もう、いいんじゃないか」と思えるレベルにようやく達した。
2その頃、011年に始めたマラソンは2013年には2度目のフルマラソンで3時間36分まで記録を達成し、これはサブ3(3時間切り)も行けるだろうと高をくくったが、それはとんでもない過信だった。小説同様に甘くはない。マラソンは例えればトランプゲームのブラックジャックのようにドボンがあり、ある一線を越えると、突然身体が動かなくなり、その後は地獄なる。これに何度もハマり、サブ3どころか、サブ3.5もままならない。記録更新は6年間と長い長い停滞をしていた。そんな自分だが、2018年の「金沢マラソン」の前にして、ふと思う事があった。(ラグビーに恩返ししなくちゃ……)。最近はマラソンに熱中してラグビーへの関心をほとんど失っていたが、自分を成長させてくれたラグビーへの恩返しを忘れているじゃないかと反省した。ほんとにささやかで、気持ちだけではあるが、だが、次年に日本開催されるワールドカップを盛り上げようと、ジャパンのユニホームを着て、マラソン大会に走る事にした。すると「ラグビー頑張れ!」と自分にピンポイントに送られる熱さで知られる金沢の皆様の声援に背中を押され、6年ぶりの自己新を達成したのだ。そして年明けて、2019年の「姫路マラソン」でついに3時間28分17秒でゴールし、ついに夢のサブ3.5達成した。充実感は半端なかった。トンネルを抜ける解放感に包まれた。
そしてこの秋には「ラグビーワールドカップ in Japan」が控えている。
(⦅⦅ 犬キューピットをワールドカップより先に出せ! ⦆⦆)
久々に直感が湧いて来た。自費出版をすれば、もう後戻りは出来ない。文学賞に応募はは出来なくなる。けれど迷いはない。妻に相談すると、「どうせやるんでしょ」とあきれながらも納得してくれた。一念発起して30万ほどかけ、予定どうりにV2ソリューションで自費出版をした。
2019年7月26日 「犬キューピット 呪犬の怨嗟の渦」初版発行
(Amazonで購入可能。購入はお勧めしませんがレビューは参考にしていただきたいです)
自分の本を実際に手に取って感激、という感情は全くわかず、むしろ敗北感の方が強かった。だが、完全に負けたわけじゃない。ノーサイドの笛はまだ。
でも、実物の本は、確実に動きだした。今までは一人きりのコツコツ活動だったが、さっそく同級生の友人に本の出版を告げると「ま、まじか!」衝撃的に迎えられた。これを機に昔のラグビー仲間とのつながりも復活し、飲み会の機会も増え、同時に本も買ってもらえた。読者は購入してくれて友人に留まらず、友人の家族、同僚、母のサークル仲間など、老若男女に読んで頂き、「感動した!」「泣けた...」「涙腺崩壊したわ」とうれしい感想を頂いた。ある中学生が読書感想文に選んでくれたと聞いた時は震える想いだった。
そして、再会したラグビー友達とワールドカップの観戦も行けた。「日本VSアイルランド」絶対に無理だとほぼ諦めていたのに、システムを教えてくれた友人のおかげで直前にチケットが手に入ったのだ。自分の方に向かってトライを決める福岡選手の姿に興奮した。(これは走馬灯にこの風景は出てくる!)それくらい夢のような体験だった。
「ONE TEAM」日本代表が掲げたあまりに有名なキャッチフレーズ。ラグビーの技術はあまり理解できなかった自分でも、「ONE TEAM」の言わんとする精神は理解できる。
行きつけのお店でも応援を頂いた。動物好きの美容院の「ハダトコ」の年賀状にちゃっかり登場。ここにも「ONE TEAM」がある。(リニューアル版ではハダトコが登場します)
■ 再チャレンジ
おかげで「犬キューピット」は多くの人に受け入れられたけれど、耳の痛い指摘も頂いた。
「中盤がだれる」「言い回しが難しい」「タイトルが怖すぎる」「誤字脱字が気になる」
(なるほど)と反省した。人の声を聞くと、改めて見える事がたくさんある。それに一年間の間に絵画アプリの技術が劇的に向上し、挿絵も簡単に描けるようになると、子供の頃に好きだった「挿絵のたくさんある本」にしたい。
(⦅⦅ 書き直したい ⦆⦆)
欲求が湧く。が、たとえ書き直したとしても、もう自費出版する金はない。悩む。
そんな煮え切らない私に、犬キューピットは最強の刺客を送り込んで来た。マラソンの盟友のコジマとFacebookつながりである同級生ヤノの活動に目が留まった。美容師の彼女は同時に保護犬活動をしていて、そこからペット同伴の飲食店「ZORION(ソリオン)」を知った。中学時代は特に親しくしたわけではなかったので、少しためらったが、勇気を出して「犬キューピット」を売り込むと、快く受け入れてくれた。そして、そこには犬キューピットが避けて通れない事実を突き付けられた。
ZORIONの意味は「幸福」。そんなお店のロゴマークのお話。
人間でならばおそらく50歳を過ぎているその「シュナウザー」がうちにきたのは、6月のある日のこと。6月(ジューン)にちなんで、名前は「ジュノ」になった。当時TVドラマの影響でシュナウザーブームが絶頂で、ジュノはそのブームの犠牲になった「繁殖犬」でした。おそらくずっと劣悪な環境で過ごし、何度も何度も、赤ちゃんを産んでは奪われ、産んでは奪われ、そしてあっさり捨てられた末にうちに来た。せめて余生は「普通の犬」として暮して欲しい。美味しいご飯、ふかふかのベット、可愛いお洋服。けれど、繁殖犬として「人間の為に子供を産むことだけが生存理由」だったジュノには戸惑いでしかなかったみたい。それだけじゃなく、一歩檻の外でさえ、ジュノにとっては未知の世界。犬の大好きな散歩で、たった一歩踏み出すのさえ、怯えてためらった。
それでもジュノは人間を怨まなかった。私たちの愛情を受け入れ、楽しみ、頼りにしてくれた。ジュノはまごうことなき「家族」。だから、ひとりぼっちのお留守番は少しでも短くしたいし、家族団らんの時間は少しでも増やしたい。でもまだまだ人と犬が一緒にお出かけするには、今の生活環境は不自由、不都合な事ばかり。人と犬の共存が幸せであるライフスタイルを広めたい。飼い主もペットも、同伴マナーが高まるような練習できる場所。ペットと一緒に入れるお店あればいい。そんな想いのぎゅっと詰め込まれてペットフレンドリースタイルのバルカフェ「ZORION」はオープンしました。だからロゴマークには「ジュノ」がいるのです。(リニューアル版にはこのエピソードも登場します)
(⦅⦅ もう後には引けないぞ ⦆⦆)
あの直感がまた湧いて来た。
以前、イラストレーターの知人から「クラウドファンド」を勧められたのを思い出した。うまくいけば資金の調達も出来るし、何より「たくさんの人目にふれる」可能性が増える。これは大きい。再び創作意欲の力が湧いた。そしてタイトルを怖すぎないように「犬キューピット 夢丸と呪犬のヨンバン」に改め、キャラの配置展開で「だれる中盤」を直し、「難しい言い回し」を、自分を大きく見せない身の丈に合わせ、書き直しをほぼ終えた。
けれど、クラウドファンドに決意するにはもう二つ大きな課題があった。
一つは「リターンをどうする?」である。ところが、本以外の自信ある品がなかなか思い浮かばない。決心を突きかねていた。そんなある日、不思議な夢をみた。
深い深い森の中、向こうから深い紺色で小山のような大きな大きな犬がこっちに近づいてきたのです。少しビビりましたが、その大きな犬はどこまでも優しい目をしていたので、私は安心してその犬に身を預けました。そんな夢です。ふと(これって犬キューピットにでてくる『種の起源の犬』じゃないか)と気づき、何気なくそれを形に残しておこうと、その日のうちに絵にしてみると、我ながら気に入ったものが仕上がった。(これをリターンに使いたいなぁ)と気持ちが湧いて来た。これなら人に出しても恥ずかしくないと思えた。
もう一つは「プロジェクトの目的」である。
「で、犬キューピットは最終的に何を目指しているの?」初めて犬キューピットを「ZORION」に売り込みに行き、ヤノにそう問われた時、私は言葉に詰まった。
何も考えてなかった。言い訳するならば、自分の筆力では前後のつじつま合わせで精一杯だったし、それに創作中は「思念」を表に出し過ぎると、途端に物語が説教ぽくなると想いがあったので、極力「犬キューピットたちの傍観者」であろうと心掛けた結果でもある。
けれど、書き直しにあたり、余裕も出てきて創作がマクロに見えるようになると、今度は犬キューピットの進むべき道を示すことが大切な事と気付いた。「ZORION」で聞いた「悪質ブリーダーによる繁殖崩壊」の悪質さは想像以上だった。犬は一匹育てるだけで、大変なのは身をもって知っている。犬の保護には限界がある。「殺処分ゼロ」を達成させるためには、大元を絶たねばあり得ないと悟った。
そしてそれには「条例の改正が必要」ではないか感じた。
きっとそれこそが「犬キューピットの目指す道」
達成したら素直に「可能性は無限大」を認めます。
「信は力なり」この言葉が、自分を導いてくれた。
そして「ONE TEAM」がこれからの私の道しるべ。
最後まで読んでくれてありがとう。
志を共に...
最新の活動報告
もっと見る過去のレビューで、参考にして欲しい。
2020/07/14 11:42改編前の「犬キューピット 呪犬の怨嗟の渦」のレビューを参考にして下さい。① すごく共感できました!犬キューピット と可愛い題名の下に何やら、恐ろしいサブタイトルにビックリ。怖いやつ?画はメッチャ可愛い犬の天使のようなのに(笑)字は気にならない大きさ表現や漢字が難しいところあり。人によるかな?25ページ頃には涙が・・・自分も犬を亡くしたので色々な感情がこみ上げてくるし、共感でき、改めて「そうか〜そう考えればいいんだな」って思いながら話の内容の波に乗れたんですよ〜、そこに居れた感じ。ペットは人間の生活に思いっきり関わっていて、もう家族なのに虐待や商品としか思ってない人に出会ってしまった子達を思うと心が痛い。そこに愛はあるの?って考えさせられる話だったです。ペットとお別れした飼い主の悲しさと自分を責めてしまう心情そういうものも全てひっくるめて書いてあったので、共感出来たと思います。そして最後にたくさんの人に読んで欲しいなって思いました。犬キューピットは本当にいるのかも、いや居る!② 愛犬との運命的な出会いを感じた人にお勧め愛犬との運命的な出会いを感じた方にはぜひ読んでもらいたい。犬キューピットという本の題名の下に呪い犬と怨嗟の渦という恐い言葉も書かれているがストーリーは本当に愛のあふれる物語になっていて、犬を飼っていた方が読めば涙があふれると思います。人間と犬の関わり方も考えさせられるし、人としての生き方も教えてもらえる作品でした 。③ 面白かったです。可愛いメインタイトルとサブタイトルのギャップに最初は驚きましたが、読み進めるうちに著者の意図が伝わってきました。とりわけ犬を飼っている人や最愛の犬を亡くした人が読まれると感じる事が多いと思います。愛犬を亡くして未だ犬を飼えない私にとっては一層引き込まれる世界観で、非常に面白かったです。 ④ ペットに関わる全ての人に読んでもらいたい。わたしはチワワを飼っていますが、この作品を読ませていただき今まで以上に愛おしくなりました。犬は家族と思って一緒にいますが、再確認させていただけるステキな内容です。深い深い内容ではありますが、本当に大切なことですし、今ペットを飼われている方、これから飼う方みなさんに一度読んでいただきたい作品だと思います。すごくおススメです。⑤ ヤバイ本!犬好きだから犬関係の本は沢山読んだけどこんな視点で考えた事無かったから斬新!是非、沢山の方々に読んでみて欲しいです。■著者談どうやらサブタイトルの「呪犬の怨嗟の渦」が怖すぎだったみたい……サブタイトルは「夢丸と呪犬のヨンバン」に変更します(汗) もっと見る
立ち読みできます。 第一章 「俺は生きる!」 掲載
2020/07/12 08:43・序章私は遥か昔、初めて「人と共に生きる」という選択をした狼そして「種の起源の犬」と呼ばれる初めの犬の魂となる狼は犬として、ここまで繁栄したけれども今、人と犬の関係は変わってしまった 過剰に愛情を受ける犬その一方でまったく愛情を受けない犬そんな哀れな犬たちが行く末は……よりどころなく天国と下界の間の世界を漂う「サマヨイ」人への復讐を誓い、天国への昇天を捨てた「呪犬」私は憂うそんな現状を憂う私を助けてくれるのが「犬キューピット」。愛犬との「運命の出会い」を感じた人ならわかるはず人知れず働く犬キューピットの存在を……『希望』と『絶望』『慈愛』と『憎悪』この「四つの心」を理解する者が良き犬キューピットになるという夢丸もそんな犬キューピットの一匹これは夢丸がおこした奇跡の物語一 俺は生きる‼とある田舎の農家に留まっている軽トラの荷台に積んである箱の中、五匹の兄弟の仔犬が一緒に詰め込まれている。箱の中の仔犬たちの顔は怯え、落ち着かず周りを見回したり、意味もなく顔を見合わせてたり、目を白黒させたりしていたが、その中で勝気な一匹の仔犬だけが何かを察して目をぎらつかせた。その軽トラに乗りかけた初老の男に小さな女の子がまとわりついて来た。「爺ちゃん、犬がおらん‼」最愛の孫だ。男は少し焦りながら笑顔を取り作って応えた。「あ、あぁ……犬ならここにおる。もらってくれる人が見つかったんだ」みるみる女の子の目が潤んだ。それでも涙をこらえてお願いをした。「最後にバイバイする」最愛の孫のお願いには勝てず、男は荷台に上げてやり、箱のガムテープをバリバリと剥がして開けて、仔犬たちと最後のお別れをさせてあげた。「バイバイ」 ゴトゴト走る軽トラのバックミラーに映る半べそをかく孫の姿に、男はチクリと胸を痛めた。なぜなら仔犬の引き取り手が見つかったというのは大嘘で、保健所に持っていて処分するからだ。 けれどもこの最後のお別れが一匹の仔犬の運命を開いた。 一度開き、貼り直されたテープの箱の閉じが雑で甘くなっていた。差し込んだ光の先に見える空の青さに胸踊らせたのは勝気な仔犬だ。「逃げるぞ‼」「なんで?」「ここにいたら、きっと俺たち死ぬ」 勘のいい勝気な仔犬はこの箱の中の不穏で危険な気配を察していた。「逃げるっていったって……」 兄弟たちはしり込みしたが、勝気な仔犬は動じない。「俺は行く‼ 俺は生きる‼」 兄弟たちの上に乗りかかると、箱がバランスを崩し倒れた。うまい具合に足場ができ、脚を踏んばり、僅かに開いた箱の隙間をこじ開けると、勝気な仔犬は、上手い具合に箱の外に出るのに成功した。「やった‼」 そのまま隣の箱に飛び乗り、軽トラの荷台からのゴトゴト揺れる景色を眺めると、河川敷の遠方に連なる山脈は美しく、川はキラキラと輝いている。 勝気な仔犬の高揚はさらに高まる。ウオォォンと一人前の遠吠えをした。「すげえぞ、みんな来い‼」 勝気な仔犬が誘っても、他の仔犬は目を白黒させ、箱の隙間からこの危なっかしい兄弟をのぞき見てるだけだった。「危ないよ。戻っておいでよ」「嫌だ‼ 俺は行く」 兄弟たちの制止を振り切り、無謀にも荷台から飛び降りた。「わぁぁぁ」ドーンと衝撃を感じ、坂をゴロゴロ転がったが、幸運だったのは飛び降りた先は草むらでダメージはない。急いで起き上がり、道に駆けあがり、兄弟たちに自分の雄姿を伝えたかったけれど、軽トラはすでに小さくなっていた。勝気な仔犬は軽トラが見えなくなるまで見送った。兄弟たちとはそれきりだ。「やるぞ。俺は生きる‼」 不安よりも好奇心が勝る。怖い事なんてなかった。 とはいえ、まだ仔犬が一匹で生き延びるには並大抵ではない。人気のない野山を無我夢中で駆けまわり、野ネズミや爬虫類や虫を食べて生命をつないだ。辛くはない。生き残る執念がわく感覚にかえってワクワクした。けれども飼い犬に産まれた性なのか、無意識に人気のある所を目指していた。そして、とある集落についたその日は台風が近づく夜のこと。みるみるうちに真っ黒になった空からは、身体に当たると痛いほど大粒の雨と、身体を吹き飛ばすほどの暴風がおそいかかった。一歩間違えば、豪雨で現れた濁流に何度も飲み込まれそうになったが、不思議なくらい感が冴え、曲芸ごとく何度もひょいとかわして難を逃れた。そのまま懸命にしのげる場所を探すと、どこかはわからないが、偶然に見つかった雨風から身を守れる空間に飛び込むことができた。そこに転がりこむと、疲労でばったりと倒れた。次の日の朝である。この集落から少し離れた集落にすむ『天野良治』という初老の男がこの集落に来た。この辺りに住む叔母の家の台風見舞いに来たのだ。良治は、到着早々にふと、家の軒先にあるもうすぐ捨てるはずの犬小屋がやけに気になった。大きな体を無理やり屈めて覗き込んで少し驚いた。「おーい、佳代ネェ」 良治が呼ぶと、家から出てきたお婆さんが、叔母の『佳代』である。 子だくさんの時代で末っ子だった佳代は叔母といえ、良治とは歳は十も離れていない。家も近所で兄弟の様に育ったので、叔母というより、姉の感覚なので良治は「佳代ネェ」と呼んでいる。高血圧で糖尿の化もある良治より、散歩好きの佳代の方が、色々な数値も、見た目も若く見えるくらいだ。「まぁ良ちゃん、大丈夫だった?」 佳代は昨夜の台風の事を気にかけたが、良治は軒下の犬小屋を指さし、まったく別の事が気になっていた。「ほら、犬小屋に犬がおるよ」「え、まさか」 犬なんてずいぶん前からいないので、何かの見間違いだろうと、犬小屋をのぞいた佳代も驚いた。全身泥まみれで死んでいるかのよう不自然に身体をよじりながら転がっている犬がいる。まだ仔犬。しかも生死不明。 佳代はドキドキして、手をかけようとするとブウブウと軽いイビキをかいたので、ほっと胸をなでおろした。「びっくりした……この子、昨日の台風の中でここまで来たのかしら」「らしいね。疲れ切ってんだろう」 その場にしゃがみこんで静かに見守っていると、仔犬は時おり、前後の脚をばたつかせて、まるでどこかを必死で走っているような仕草をみせた。「昨日の夢でも見てるのかしら?」 こんな仔犬一匹が昨夜の暴風雨におそわれながらここまで来た姿を想像したら、どうしたって情がわく。すぐに目が潤んでしまった。しばらくすると、仔犬は気配を感じて目を覚まし、佳代に向かってゆっくり顔を起こすと、泥んこまみれの瞼をこじ開けてまん丸の目をふたつ現した。そして、その目でじっと佳代を見つめた。勝気な仔犬は、その光景にドキリとした。逆光で顔はよく見えなかったけれど、佳代の背中の向こうから差し込む優しい光が神々しく輝いていて見えた。(あ、この人はいい人だ)一目でそう直感した勝気な仔犬は残る力を振り絞ってヨロヨロと立ち上がり、尻尾を振ると、慌てたのは佳代だ。ほって置ける人ではない。「絶対お腹がすいてるわよね。何かあげなきゃ……ちょっと犬、見てて」 仔犬を良治に任せ、急いで家に戻り、冷蔵庫の中から、犬が食べれそうなものを見つくろい、魚肉ソーセージと食パンを持って行った。 久しぶりのご馳走に興奮した仔犬は、食べながらちぎれんばかりに尻尾を振って喜びを伝えると、佳代も目を細めて笑顔を見せた。「佳代ネェ、いいの? そこまでしたら捨てるに捨てれなくなるに」 良治の指摘通りである。佳代はもう完全にこの仔犬に心を奪われている。 けれども事態はそう簡単にはいかない。その時、佳代は七十三歳。旦那さんとは七年前に死別した。二人の間に子供は恵まれなかったので、今は一人暮らしをしている。足腰は丈夫な方であるが寄る年波には勝てない事は自覚して日々を送っている。とても最後までこの犬の面倒を見る自信はない。「どこか飼ってくれる人はいないかしら?」 良治の心当たりは、佳代くらいの老人ばかりだ。とんと思いつかない。「この辺りでは無理だわな。佳代ネェが一番元気なくらいだ」 しばらく二人とも沈黙していたが良治はきっぱりと言った。「佳代ネェが飼えばいい」「簡単に言わないでよ。そりゃもう十歳若かったら、迷わず飼ってたわ。でもこの歳じゃあ、きっと最後まで面倒見れない」「でもそこまでは生きられる。このまま保健所に連れて行ったら数日の命。奇跡的にここにたどり着いた犬。どっちがいいか考えればすぐにわかる」 この一言で佳代をこの仔犬を飼う決心をする。 勝気な仔犬は箱から這い出て、車から飛び降りた無謀な賭けに勝った。自分の力で生き残る権利を手に入れた。 そして佳代から「夢丸」という名をもらった。この佳代の名付けにはささやかな伝統がある。これまで飼った犬は四匹。最初は物心ついた頃すでにいた犬「雪丸」だ。父が名付けた。当時、一万円札の顔だった聖徳太子にあやかろうと、その愛犬「雪丸」から名前をいただいたが、残念ながらさぼど一万円札に縁はなかった。けれどこの名前のリズムを気に入った佳代は以後、「吉丸」「姫丸」「風丸」と愛犬には必ず、「丸」をつけ、五匹目が「夢丸」となったのである。犬小屋の中で夢を見ていた姿が佳代の印象に残っていたからだ。 そんな夢丸と佳代の生活は始まった。三か月もすると、夢丸はみるみる大きくなり、身体だけは一人前の中型犬になると、夢丸は近所で今時珍しい「野生を感じる犬」と噂になった。一見、柴犬ぽいが顔も鼻先が長くて、体毛は短く、茶色に黒毛をまぶしたように生やしているから「狼みたい」とよく言われた。それでも首回りと足先は白く、マフラーと靴下をしてるように見える愛嬌もある。性格はまさに「番犬」で、庭先では常に辺りを警戒し、不審な者あれば、鎖の目一杯まで飛び掛かかり、近所の人や郵便屋さんをたびたび驚かせた。救急車のサイレンにも健気にウオォォンと遠吠えをして反応してみせる。こんな野生っぽい所が佳代の琴線にぴたりと触れて、夢丸を心から頼もしく、愛おしく感じていた。「私に言わせりゃ、夢丸こそが犬で、そこらの可愛らしいのなんて、品の良い大きいネズミだわ」これは佳代は口癖になり、たまに来る良治に事あるごとにお礼をした。「あの時、良ちゃんの言う事を聞いてホントに良かった」 そう言われれば良治もうれしい。良治にも夢丸は大切な存在となった。そんな心底愛情をそそいでくれる佳代との暮らしは充実し、やりがいのある幸福な日々だった。けれども時に佳代は鬼になる。それは散歩の時だ。いつもは優しい佳代が腰のベルトでリードを括り付け、コウモリ傘を片手に持つのが散歩のスタイル。そして、散歩中、夢丸が少しでも佳代を差し置いて前に出ようとするならば豹変した。「夢丸、待てっ‼」 ビシッとコウモリ傘で鋭く叩き、夢丸の脚に激しい痛みを与えて叱る。「可哀そう……」「たかが犬にそこまでするのかね」 そんな近所の声は当然、佳代にも届いていたが、それに屈するわけにはいかない。なぜなら、これこそが佳代の最大の愛情だからだ。 自分の足腰はこれから必ず衰える。少しでも長い期間、夢丸の散歩を続ける為にはどうしても「引っ張り癖」を直す必要があるからだった。これだけ親密に一緒に暮らしていると、互いに気心が知れてくるらしく、佳代の口癖もどんな時に、どんな心境で呟くのかも夢丸にはわかってきた。「夢丸、一身独立‼」 佳代は時おり、夢丸のほっぺたを両手でぎゅっと挟み、こう言い聞かせた。あの有名な福沢諭吉の「学問のすゝめ」の一文である。『一身独立』 独立の気力なき者は必ず人に依頼す、 人に依頼する者は、必ず人を恐れる、 人を襲るる者は、必ず人にへつらうものなり。 佳代は寝室の額縁にはこの文が飾ってある。祖父からの教えで、佳代はそれに素直に従ったようだ。 もちろん、この文面を夢丸が読めるはずもないが、何度も聞かされると、苦痛を感じている時に、自分を励まし、自分に言い聞かせるように、夢丸に呟いている事を理解した。 夢丸は走る車から飛び降りるほど「勝気」で「独立心」の強い犬である。佳代と気が合うのは当然だった。 そんな幸せな生活が八年過ぎた。 この頃から佳代の足腰は軽いぎっくり腰をきっかけに、一気に衰えた。散歩の距離はずいぶん減り、時には行けない日もあった。 でもそんな時、佳代は散歩の代わりに、縁側に夢丸を連れて行き、小一時間は夢丸の背中やお腹をさすったり、抱きしめながら何度も「ごめんね」とつぶやきながらかまってくれた。夢丸は佳代の衰えは十分承知してたので、それだけで満足だった。 そして、ついにお別れの時が来た。 ある日、佳代は体調を崩すと、その日を境に散歩どころか、起き上がる事すらできなくなった。夢丸はそんな佳代の側をずっと離れず、心配そうに布団の端にちょこんと顔をのせると、目を潤ませながら見守った。そんな夢丸の健気な姿に、佳代は嬉しそうに微笑んだ。そして、最後の力を振り絞り、震える手で夢丸の毛並みを名残惜しそうに撫でると、夢丸はブウブウと鼻を鳴らし、目を細めて思い切り甘えた。佳代は満足そうに、微笑み、最後の言葉を夢丸にかけた。「夢丸、ごめんね……でも、うちに来てくれて本当にありがとう……だって寂しくないもの」 佳代の身体からふわりと力がぬけた。そして、もやもやと白い煙のような魂が身体から出て、ゆっくり天井に上り、そのまますり抜け、天空まで昇天するのを、夢丸は最後まで見届けた。「俺もここで死ぬ」 夢丸はそう決意した。佳代が寝込んでから何も食べていない。ふらふらの身体の最後の力を振り絞り、佳代の亡骸に寄り添った。そしてほとんど意識が遠のいた時、不思議な気持ちに達した。(⦅⦅ もう少し生きるんだ ⦆⦆) どうしてそんな気になったのかわからない。 そして、自分にはもう一つだけ残さられた仕事があるのに気付く。 夢丸は全神経を研ぎ澄ませ、ある人に心の中で吠えた。どれくらい時が経ったのかわからない。ついに聞きなれた足音が聞こえたところで夢丸の意識は途絶える。 外にいたのは良治だった。 ここに来る前、聞こえるはずのない夢丸の鳴き声がなぜか聴こえた。 そんな気がした。まるで自分を呼んでいるように……そして、導かれたかのようにここへ来た。「夢丸……」 軒下の犬小屋をのぞくが、夢丸の姿はない。呼び鈴を鳴らしても、「おーい佳代ネェ‼」と大声で呼びかけても、家の中からの返答はない。間違いなく何か起きている。良治は慌てて駐在所へ駆けこみ、お巡りさんと一緒に戻って来た。お巡りさんに玄関の鍵をこじ開けてもらい、家に飛び込んだ。「あ、佳代ネェ‼」 良治は横たわる土色の顔の佳代を見つけ、悲鳴のような声をあげた。 すでに息はない。 だが不幸中の幸いは死後間もない事だった。腐敗もなく眠るような安らか顔だった。そして、その横に寄り添う夢丸。そして夢丸も動かない。良治は覚悟した。「夢丸……お前が……お前が、俺を呼んだんだな」 亡骸に寄り添う健気な夢丸の姿に、良治の胸はこみ上げ、涙と嗚咽をこらえることは出来ず、大きな手で顔をおおい、おいおいと泣いた。横にいた駐在さんももらい泣きを抑えれきれない。「最後まで一緒にいてくれたんだな……いい子だ」 良治は夢丸にそっと手を添えると、夢丸はうっすらと目を開き、わずかに首を傾げた。「お前、生きてるのか‼」 夢丸は生きていた。 良治は驚き、夢丸を抱え、自宅へ連れて行き、全力で介抱した。寸前の所で一命をとりとめた。 けれども、そんな夢丸を待ち構えるのは「残酷で過酷な経験」だった。 もっと見る
お試し読み出来ます。
2020/07/11 13:00【犬キューピット宣伝宣言】リニューアル版の御試し読みしませんか!・豊橋ペット同伴バル「ZORION」さん・豊橋美容室「Hadatoco」さんどちらも同店のエピソードが取り込まれております。ハンカチお忘れなく!? もっと見る
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