今回のCD収録は、ラプトサウンドという会社を立ち上げて活動している瀬口氏にお願いしている。
誰に収録をお願いするかという算段の中で、様々な知り合いに口をきいていただいて10人ほどの技術者さんと電話で話をした。
皆さんにお話を聞かせていただきながら、いろいろ勉強になった。
それとは別にネット検索で探していると、ラプトサウンドという会社に行きつき、代表者の技術者の名前が瀬口とあった。
20年以上前に石原ホールでお世話になった瀬口さんが頭に浮かんだ。
電話をしてみると、その瀬口さんの息子さんがドイツのハイデルベルクで7年修行されて録音技術者となっておられた。
話を聞くとハイデルベルクで修行を積むことになった経緯、録音に対しての熱意に強く引かれた。
ハイデルベルクの田舎の真ん中にある録音スタジオはフィッシャーディースカウや、ペーターシュライヤー、その他著名な歌い手もCD収録を行ったという有名なスタジオらしく、それらのアーティストの録音を手掛けたトーンマイスターに弟子入りしたという。
それで、彼に収録をお願いすることに決めた。
先日阿波座のスタジオに来ていただいて、初めてお会いして打ち合わせを行った。
年齢は聞かなかったが、おそらく30代後半の穏やかな好青年である。
しかし内に秘めた仕事に対する熱い意気込みが感じられ、そこも僕にとってとても好印象であった。
10年前のCD収録の際に感じた僕の疑問。
録音技術者と演奏者の間にある良しとするこだわりのズレのこと。
いろんなCDを引っ張り出して着て、60年代、70年代の録音と、今の録音を聴き比べて、今の録音技術の過剰な雑音除去の話など、僕の意見に真剣に耳を傾けて下さり、ある意味納得もして下さった。
結果彼はコンタクトを駆使して、フィッシャー・ディースカウが当時使用していたという古いマイクと同様のものを借りることを手配し、前代未聞の、いわば時代錯誤とも言える録音を試みることとなった。
しかしマイクでもカメラでもオーディオでも、今の機械がすべて優れていて、昔のものがだめとは全く言えず、これは大変楽しみな取り組みになりそうである。
瀬口氏もまさにご自分が研究してこられた分野での技術が発揮できるチャンスということで、大変張り切っておられる。
この部分は今回のCD製作の大きな特徴となりそうである。