Pat Morin 氏の Open Data Structures プロジェクトでは、コンピュータサイエンスの基礎科目「データ構造」の高品質な教科書を、フリーで公開しています。
本プロジェクトでは、これを日本語に翻訳することで、コンピュータサイエンス入門のハードルを下げ、分野の裾野を広げることを目指しています。2ヶ月ほど前に作業を開始し、既に全章の試訳を終えています。プロジェクトのウェブサイトでドラフトを公開しています。
翻訳者はみなコンピュータサイエンスのバックグラウンドを持つ一方で、翻訳・出版・英語の専門家ではありません。そのため、校正・校閲を専門家に依頼することで、公開される教科書の品質を担保したいと考えています。本クラウドファンディングでは、このための資金を集めたいと考えています。
「Open Data Structures」とは?
Open Data Structures とは、Pat Morin氏が立ち上げたプロジェクトです。このプロジェクトでは、データ構造の高品質な教科書を、フリーで公開しています。
データ構造とは?
データ構造(英:data structure)とは、コンピュータの中で情報を格納する際に使われる容れ物のことです。
どのようなかたちをした容れ物を選ぶかによって、同じスペースにどれくらい物を詰め込めるか、あるいはどれくらい早く必要なものを取り出せるかが決まります。
たとえば、Google で私たちが0.1秒足らずで検索結果を見ることができるのは、Google が適切なデータ構造を使っているからです。世界最大の検索サイトである Google には既に 1,000,000,000,000 ページ以上もの Web ページが登録されています。ユーザーが検索するたびに全ての Web ページの文章から単語を探していては、検索にはとても長い時間がかかります。Google は検索結果を予め特殊なデータ構造に詰め込んでおくことで、大量の情報から瞬時に必要な部分を取り出せるようにしています。
このように、データ構造という容れ物は、見えないところで私たちの快適な生活を支えています。
プロジェクトの目標
本プロジェクトの目標は、Open Data Structures で公開されているデータ構造の教科書の日本語版を作成し、フリーで公開することです。
より具体的には、Java・C++・擬似コード版の3種類の版をすべて日本語訳し、プロジェクトのホームページから無償で閲覧できるようにします。また、書籍のソースコード(Latex)、およびサンプルコードもすべてGitHubで公開しています。
プロジェクトの動機
先述したように、データ構造は世界中の大学において、コンピュータサイエンスを学ぶ学生が初めに学ぶ科目のうちの一つです。
「大学で」「皆が」「最初に」学ぶということは
・一般性・普遍性があり
・だれでも使う
・いつでも使う
ということを示唆しており、この分野、そしてこのプロジェクトの意義深さを端的に示しています。
本プロジェクトの翻訳者たちも、大学の専門課程における最初の学期に、Open Data Structures を使ってデータ構造を学びました。(東京大学 学際科学科 情報数理科学II)
母国語で大学レベルの教科書が読める国は多くありません。より専門的な内容は、おそらくもっぱら英語で読むことになるでしょう。一方、この教科書は入門書です。この教科書を読むための前提知識は多くありません。これに英語を加わることで、対象読者が制限されているのではないかと考えています。日本語で読める無料の教科書は、分野の裾野を広げ、楽しくプログラムを書ける・効率的なプログラムが書ける人を増やしてくれると期待しています。そして、母国語でこのような入門書が読める、少なくともその選択肢があるのは望ましいことだと考えています。より専門的な書籍への橋渡しであるこの教科書を、日本語で・フリーでアクセスできるようにするのが、本プロジェクトの目指すところです。
資金の使いみち
校正・校閲を依頼するために使います。
翻訳の成果物は約300ページ・20万字ほどです。この文量の校正・校閲を依頼するためには、校閲作業に40万円、校正作業に20万円ほど必要になるようです。より具体的には、ご支援いただいた金額のうち、クラウドファンディングのための費用を除いた全額を、翻訳書の校正・校閲のために充てます。
ライセンス・著作権
原著(および翻訳書)のライセンスはCC-BY 2.5(https://creativecommons.org/licenses/by/2.5/) です。 また翻訳・クラウドファンディングについては事前に原著者にメールで連絡し、許可を頂いています。
翻訳者
・堀江 慧:東京大学 学際科学科 総合情報学コース(学士)、東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系(修士)卒業。現在はIT企業勤務。本プロジェクトに関連する実績としては、Google Summer of Code 2016 にて、Ruby 処理系におけるデータ構造の実装の改良 に取り組んだ。
・陣内 デイビッド 佑:東京大学 学際科学科 地球システム・エネルギーコース(学士)、東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム(修士)卒業。理研革新知能統合研究センターテクニカルスタッフを経て、現在は Brown University の Ph.D candidate (Computer Science)。
・田中 康隆:東京大学 学際科学科 総合情報学コース(学士)卒業。現在は Columbia University の修士課程(Computer Science)に在籍。2017年夏には、世界最大級のオンライン学習サイト edX にて、Artificial Intelligence の講義の Teaching Assistant を務めた。
最新の活動報告
もっと見る「みんなのデータ構造」を日本情報オリンピック参加者に献本します
2019/02/08 12:31Open Data Structures 翻訳プロジェクトのクラウドファンディングから約1年半、 書籍「みんなのデータ構造」の販売開始から約半年が経ちます。このプロジェクトの目標は、コンピュータサイエンスの本格的な入門書を、読みやすい日本語で、かつ無料でアクセスできるようにすることでした。本プロジェクトでは、この目標のもと、以下のような成果を挙げてきました。1. 翻訳の成果物およびソースコードを無償で公開しました * 書籍を公開しているウェブサイトはこれまで10000回以上閲覧されています * プロジェクトの GitHub レポジトリは98のスターを集めています2. クラウドファンディングでご支援頂いたお金を使い、技術書専門の出版社ラムダノート社に校正・校閲を依頼し、その成果物もすべて無償で公開しました * 51名の方から、合計約53万円のご支援をいただきました * 校正・校閲の結果、原稿は300箇所以上改善されました3. 紙で読みたい人、お金を払っても商業水準の見栄えで読みたい人にもリーチできるよう、書籍「みんなのデータ構造」を販売しました * ラムダノートのウェブサイトや Amazon などのオンラインの販路だけでなく、池袋ジュンク堂書店などの実店舗や技術書店などのイベントでも販売していますさらにこの度、2/9, 10に開催される日本情報オリンピック本戦の参加者全員にみんなのデータ構造を献本することにしました。日本情報オリンピック本戦は、予選を通過した高校生以下(高専生や中学生なども含みます)の学生が、アルゴリズムの設計・実装を競う大会です。今年は90名が本戦参加の権利を獲得しています。国際情報オリンピック日本代表の選考会でもあり、今後の日本を牽引するソフトウェアエンジニアが多く参加しているはずです。(ちなみに私は情報のものには出たことはありませんが、化学のものに出たことがあります。)みんなのデータ構造の内容は大学生初年度向けですが、情報オリンピック本戦に参加する意欲と素養のある学生なら、きっと読み通して糧にできると思っています。本プロジェクトの本来の趣旨から考えても、将来有望な若い人達に書籍をぜひ読んでもらいたいということで、今回の献本を決めました。この献本の原資は、クラウドファンディングで集めたお金の余剰と、書籍の印税です。さらに、私が購入し献本する形になるため、訳者価格でより多くの本を贈ることができます。来年度以降も、資金が続く限り、情報オリンピック本戦参加者への献本を続けたいと考えています。クラウドファンディングでご支援頂いた方々、書籍を購入して頂いた方々、GitHub に issue や PR を送ってくださった方々に支えられ、原稿の完成から書籍の販売、今回の献本まで至ることが出来ました。重ねてお礼申し上げます。本プロジェクトを、例えば以下の方法で支援することができます:)1. GitHub レポジトリ にスターを付ける * 励みにしています:)2. https://github.com/spinute/ods や https://github.com/LambdaNote/errata-opendatastructures-1-1 に issue を送る * 誤植は修正し、改善案は順次取り込み、原稿に反映します。PR ももちろん歓迎します3. ラムダノートのウェブサイトなどから本を買う * 印税は来年度以降も情報オリンピック参加者への献本資金にします もっと見る
活動報告
2018/07/02 23:03本クラウドファンディングをご支援いただきました皆様に、プロジェクトの経過報告をさせていただきます。 完成予定日 今、最後の見直しをしている段階で、7月中旬には完成版の PDF ファイルをウェブサイトで公開できる予定です。 校正・校閲作業の依頼先 クラウドファンディング実施時点では校正・校閲の依頼先は未定でしたが、最終的にはラムダノート社にお願いしました。 ラムダノートは 2015 年創業の新進気鋭の技術書出版社です。例えば代表の鹿野さんがこれまで作ってきた本を見れば、多くの素晴らしい本を作り続けていることをおわかりいただけるのではないかと思います。LaTeX で書かれた理論的な内容も含むコンピュータ科学・プログラミングの原稿を編集してもらうにあたり、技術書を専門とするラムダノート社に依頼できたことは幸いでした。 また、成果物の形式や料金などを相談していくうちに、ラムダノートから紙媒体での出版の提案をいただきました。クラウドファンディング支援者のみなさまにとっても満足してもらえるはずの内容にまとまったため、Open Data Structures の翻訳書をラムダノートから出版することにしました。詳しくは以下で説明させていただきます。 書籍の出版について Open Data Structures を出版することにした動機を説明します。 1. PDF だけでなく紙でも読める選択肢があることで、より多くの読者に届く2. 書籍化に向けた編集作業を経て、成果物のクオリティが上がる3. 訳者の印税相当を本書普及のための原資に充てられる 1つ目の点について 書籍出版後も、プロジェクトの成果物はオープンソースで公開し続けます。ただし、書籍版にはラムダノート社の保有するソースコードを一部使っています。この部分はオープンソースでは公開しませんが、オープンな部分だけを使って英語版の原著と同様の見栄えの PDF ファイルを生成できます。 書籍版とウェブサイトで無償公開する PDF ファイルの主な違いは見栄えです。書籍用にフォントや組版を変えるだけで、読みやすさがこれほども違うのかと訳者一同感動しました。皆様にも、ぜひ見比べていただきたいと思っています。 2つめの点について 編集作業の見積もりをしていただくと、常識校正や原文を参照しての編集(数ヶ月程度の作業)を予算内でお願いできるとのことでした。しかし、ラムダノートの本として出版するということなら、それに加えて図やレイアウトの調整などの作業まで、ラムダノート社負担でやってくれるというご提案をいただきました。 そのため、無償で公開する PDF ファイルにも、合計で300箇所以上の変更が加えられ、予算内で最大限に成果物のクオリティを高められたと思っています。 3つめの点について ラムダノート社と相談し、訳者の印税相当を本書の普及のための原資として使うことを計画しています。具体的にどのような形でこの資金を使うかは検討中ですが、本プロジェクトの趣旨に沿う形になるよう、引き続き翻訳者一同真摯に取り組みます。 -- 以上の利点を踏まえて、ラムダノート社から紙媒体での書籍を発行するための準備も進めています。 重ね重ねになりますが、本プロジェクトをご支援いただいた皆様に厚くお礼申し上げます。 もっと見る
活動報告
2018/07/02 22:40こちらの活動報告は支援者限定の公開です。
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