もやい展参加アーティストメッセージvol.1
今回は2021年4月5日(月)にパフォーマンスをしてくださる高橋アキさんからのメッセージです。
クラウドファンディグでは公演の椅子席鑑賞券もございます!詳細をぜひご確認ください!
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10年前の東北大震災。テレビで目の当たりにしたその光景は、押し寄せる巨大な津波が人々を飲み込むなど凄惨を極め、さらに原発事故も発生していよいよ“世の終わり”かと思いました。
そうした中で福島出身の長田弘さんの「おやすみなさい」という追悼の詩に、同じ福島出身の湯浅譲二さんが作曲した深い想いを秘めた歌曲の伴奏をしました。のち、その伴奏のピアノ部分を追悼の想いを込めてソロで弾き続けています。
曲の後半に転調して希望という光が射し始めるところがとくに好きです。
今回、もやい展でも「おやすみなさい」を弾きたいと思います。
ほかに、武満徹さんの「死んだ男の残したものは」(谷川俊太郎さんの詩は清水寛二さんの朗読で)やシューベルト、サティの曲を捧げるつもりです。
高橋アキ(ピアニスト)
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2003年、ジョン・ケージ初期の名作「フォー・ウォールズ」日本初演を舞踊家の田中泯さんとおこなった公演でご一緒させていただいた以来のお付き合い。白州の森の舞台での演奏など、世界屈指の現代音楽のピアニストでありながらいつも気さくに応じてくださった。
いまは、清水寛二さん(能役者)らと能舞台で「青山実験工房」の活動をするにあたり音楽面で柱になっていただいている。
現代曲の初演にとどまらず、大ブームを巻き起こしたE.サティの曲やビートルズ・ナンバーを作曲家たちが見事に編曲した委嘱曲など、いつもリサイタルでは絶妙なプログラム構成と明晰かつみずみずしい演奏で、音楽の奥行きと深さ、喜びをあたえてくださる。
2009年春に体験した「シューベルト 三大遺作ソナタ・コンサート」の感動が忘れられない。
シューベルトが31歳で逝く前に書いた長大なソナタ3曲を、連続で2時間半におよぶ演奏。シューベルトの孤独や希望のゆらぎが、歩いたり立ち止まったりため息となり、その調べが「歌」となって響く演奏に生命の神秘さえ感じられた。亡き祖父母や恩師が眼前に蘇ってくるような感覚にとめどもなく涙があふれた。
東日本大震災後、福島から避難している方や東北の人にも聴いて欲しいと山形での再演をお願いした。奏でられる音の「生」と曲間にある無音。ただ、無音は「死」ではなく、じつに満ち足りた時間とさまざまな感情を喚起する。それがアキさんの演奏の素晴らしさだ。そうした生と死のドラマ、演奏から歌が鳴りひびく体験を、清水寛二さんの舞や謡とともに感じとっていただく機会は「もやい展」にふさわしい。(斎藤)
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高橋アキ(ピアニスト)
鎌倉生まれ。東京藝術大学、同大学院修了。武満徹作品でデビュー。透明な響き、音色の柔軟な感受性を持って現代曲を演奏し、鮮烈な衝撃を与えた。1970年初リサイタルを開催。72年にはじめてヨーロッパに渡り、ベルリン芸術週間、パリ秋の芸術祭などでリサイタルを開き好評を博す。その後も毎年、海外の主要音楽祭から招待され続けている。72年現代音楽の演奏グループ「サウンド・スペース・アーク」を結成。以後19年間活発な演奏活動を行った。73年には昭和48年度芸術祭優秀賞を、『高橋アキの世界』(東芝EMI)により受賞。
75年より『エリック・サティ連続演奏会』(12回)を企画構成の秋山邦晴とともに開催し、「サティ再発見」の大きな契機となった。また『サティ ピアノ全集』(全音)全13巻を校訂、また『サティ ピアノ音楽全集』(東芝EMI・全8枚)をリリース。83年、第1回中島健蔵賞、86年には第1回京都音楽賞・実践部門賞を受賞。
さらに2002年から東京の浜離宮朝日ホールで開始された〈ピアノ・ドラマティック〉シリーズの成果により、2003年には第21回中島健蔵賞を受賞した。
レコーディングにも意欲的に取り組んでおり、現代音楽を代表する世界の作曲家たちに、ビートルズ・ナンバーを主題とする作品を委嘱した『ハイパー・ビートルズ』シリーズCD4枚を完成。2007年よりシューベルトのピアノ・ソナタ録音シリーズ、2013年より新たなサティのピアノ作品録音シリーズ(いずれもカメラータ)をスタートするなど、数多くのCDをリリースしている。CD「シューベルト:ピアノ・ソナタ集」、「モートン・フェルドマン:トリオ」の演奏で、平成19年度(第58回)芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。またCD「ジョン・ケージ:危険な夜」が平成20年度文化庁芸術祭優秀賞受賞。平成23年(2011年)秋の紫綬褒章を受章。2014年、第23回朝日現代音楽賞を受賞。
http://www.aki-takahashi.net/