「平和の湧き水・笹の墓標展示館」
出会いと対話の場が平和の基礎になるということを学んだのは北海道とドイツでした。
ドイツのNGO「行動・償いの印・平和奉仕」は60年以上にわたって、ナチスドイツがかつて引き起こした加害の現場に若者たちを派遣して、ホロコースト生存者のケアや歴史ガイドなどを体験する機会を作っています。例えば私が参加した、チェコのテレジン強制収容所跡でのサマーキャンプではヨーロッパ各地から来た若者たちが寝食を共にしながら、歴史を学んだり、清掃などの奉仕作業をしたり、強制収容所生存者の話を聴いたりしました。そのサマーキャンプを率いるのが20歳くらいのドイツ人の2名の若者で、その責任感と有能さ、また何より被害者の痛みの声に耳を傾けながら、歴史を学ぶ謙虚さには感銘を受けました。ヨーロッパでは、強制収容所跡などの歴史の現場が、交流と学びの場になっています。そしてそこで学んだ人たちによって、現代のヨーロッパの平和は層が厚くなっています。
一方、東アジアを振り返ると、歴史の現場が対立と忘却の場になってしまいがちです。けれどもここで単純にヨーロッパ/東アジアを対比すべきではありません。そのことに気付かされたのが、北海道に来て「民衆史掘りおこし運動」のことを知り、その流れの中から生まれた空知民衆史講座の活動と、そのご努力の結晶たる旧光顕寺・笹の墓標展示館を目の当たりにしたことによってでした。朱鞠内ダム建設の際の強制労働という歴史の暴力が刻まれたこの現場で、旧光顕寺は見事に若い世代の出会いと対話、交流と学びの場になって来たのです。ここは小さいけれど、重要な「湧き水」です。湧き水から流れ出した小川がつながり合って川となり、やがては大いなる海に注ぎます。その海は「平和」という名前を持ちます。旧光顕寺・笹の墓標展示館という東アジアの平和の湧き水の再生をご支援ください。
北海道大学大学院文学研究院教員
小田博志