毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズをnoteで公開しています。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。
※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。
神田 沙織さん(以下、沙織さん)は、株式会社wipをパートナーと経営しながら、数々のソーシャルアクションを行う社会活動家としても活動されています。今回は、20代の時に緊急避妊薬を服用された経験をお伺いしました。
目次
生理用ナプキンはトイレットペーパーと同じぐらい、当たり前のものだった学生時代
偶然でも知ることができた、自分の体のこと
結婚をしていても、避妊という選択肢があっていい
生理用ナプキンはトイレットペーパーと同じぐらい、当たり前のものだった学生時代
ーー生い立ちのなかで、性に関する話をできる環境にありましたか?
沙織さん:性に関してはオープンな家庭だったと思います。二つ年下の弟に「生理用ナプキンを買ってきて」と頼むのはトイレットペーパーをお願いするくらい当たり前のことでした。あと、父親から下着を買うためにお小遣いをもらうこともありました。中学生の時には、母から「もし使うならコンドームあげるよ」といわれたことも。断りましたけど(笑)。
最初に生理について意識した小学生の時の出来事をはっきり覚えてます。
ある日、一緒に下校していた6年生の女の子に「トイレを貸してほしい」と困ってる様子でいわれたことがあって。小学生向けの漫画雑誌の一番後ろに、少しだけ生理についても知識が書かれている生理用ナプキンのカラーページがいつもついていたんですね。それを指さしながら「お姉ちゃん、もしかしてこれなの?」と聞きました。「そうそう、そうだよ」と会話をした時に「そんな風になるのか」と意識したことを覚えています。
偶然でも知ることができた、自分の体のこと
ーー緊急避妊薬を飲んだきっかけを教えていただけますか?
沙織さん:20代の頃、性行為時にコンドームが外れたことがきっかけです。パートナーとは性感染症などお互いの体を守ることについては話していましたが、妊娠については想定しておらず、二人とも「これはまずい」と焦りました。過去、友人から相談されて避妊に失敗した後について調べたことがあり緊急避妊薬の存在は知っていたので、すぐに近くの病院で処方してもらいました。彼から「いくらだった?」と聞かれて、かかった費用を割り勘したことを覚えています。それでも、「高いな!」と思いましたけど。
ーー病院での様子はいかがでしたか?
沙織さん:かなり事務的な感じでした。淡々としすぎてあんまり記憶に残ってないくらいです。ただ、避妊以外にも体にまつわる心配事があったので、その検査の方が印象に残っています。
私、B型のRhマイナスと少し珍しい血液型なんです。この血液型だと、妊娠をした時に胎児との血液型の不適合が起こったり、初回の妊娠で抗体が出来た場合に2回目以降の妊娠に良くない影響があったりするらしく。もし妊娠が成立していたら、「将来子どもが欲しいときに影響があるかも」と心配で、合わせて検査をお願いしました。
ーー血液型や妊娠への影響はどういった経緯で知りましたか?
沙織さん:献血に行った時に知りました。それまでB型Rhプラスだと思っていたので、「妊娠にまつわること以外でも自分の体について全然知らないんだな」とすごく感じました。
妊娠時のリスクについては、当時通っていた婦人科の先生から伺いました。どんな影響があるとか、将来妊娠する時は念のため大きい病院に行く必要があるかもね、と丁寧に教えてくれて。正直、低用量ピルをもらうためだけに診察に行くってめんどくさいな、と感じることもあったけど、今となっては信頼できる医師と話す時間や接点があってよかったなと思います。
結婚をしていても、避妊という選択肢があっていい
ーーその後、行動の変化はありましたか?
沙織さん:避妊するためのコンドームの付け方やいつでも使えるように置く場所を意識するようになりました。ただそれ以上に、パートナーと将来や健康について話すきっかけになりましたね。
「今回は二人で向き合って乗り越えることが出来てよかったけど、私たちってどうしたいんだっけ?もし結婚してたらひやひやしなくてもよかったのかな?」って。
話していく中で、二人とも結婚してから妊娠と考えていることに気づいたので、それから1年程で法律婚(※1)をしました。向き合って話せる人なんだと、お互いの信頼に繋がったことも大きいと思います。
※1 法律婚とは…婚姻届を自治体に届け出て、法律上の婚姻関係になること。
ーーご夫婦で起業されていますが、キャリアに与えた影響はありますか?
沙織さん:今でこそ子育てに関するソーシャルアクションなどを行っていますが、夫婦で起業した会社はコンサルティング業でした。会社を立ち上げた半年後に妊娠が判明し、望んではいたけど思い描いていたマタニティライフとの違いに驚きました。
でもそれって、ロールモデルが少なかったからかな、と考えていて。起業家女性の妊娠、出産に関する情報ってすごく少ないんですね。調べていくうちにそもそも経営者だと産休や育休がないことを知りました。自営業者やフリーランスと会社員を比べた時、出産や育児にかかるお金に大体250万円くらい差がある(※2)んですよ。「じゃあ被雇用者(正社員)の間に妊娠、出産した方が絶対お得だったじゃん!」と驚愕しました。
この手痛い経験から、2017年に女性起業家6名と『非正規雇用や自営業者の女性の産休・育休がないことに対するソーシャルアクション(※3)』を行いました。厚生労働省の省内記者発表や署名集め、データを元にしたロビイングにもつながったんですが、この時に、実体験を持った人が声を上げないと争点にもならなければ、政策にもあがってこないし、調査すら行われないことを実感しましたね。
※2 出産のために会社を休む場合、雇用形態などの条件を満たしている場合『出産手当金』や『出産育児一時金』など条件によって受けられる手当があります。また、万が一お子さんが重度脳性まひになった場合補償される『産科医療補償制度』などもあります。
※3 非正規雇用や自営業者の女性の産休・育休がないことに対するソーシャルアクション…参考記事はこちら
ーー読者へのメッセージをお願いします。
沙織さん:避妊って、未婚の女性に関する問題として捉えられがちだと思うんですね。でも、結婚をしていてもこれ以上子どもを持てないとか、本当は避妊をしたかったからと緊急避妊薬を使うことがあっていいと思ってます。結婚した途端に「せっかく授かったんだから」という風潮は女性を産む機械として扱うことにつながるし、女性が自分の体に対して自分でコントロールすることに社会が干渉する、それ自体にすごく違和感があるんですよね。
子どもを持つことや結婚に対して、人それぞれに考え方があるし、それぞれの立場があると思います。ただ、性行為と妊娠や出産は切り離せないからこそ、世代の違う女性同士が立場を超えて、もっと大きく連帯出来ればな、と思っています。
ーーありがとうございました。
インタビュイープロフィール
神田沙織(かんだ・さおり)
株式会社wip取締役代表であり、一般社団法人母親アップデート理事。平本沙織として「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」の発起人や「子連れ100人カイギ」実行委員長を務めるなど、社会活動家として幅広く活動中。
■Twitter
インタビュー/中村 恵
文/高山 秋帆