毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズをnoteで公開しています。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。
※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。
りなさん(仮名)は、現在、IT関連の会社に勤める20代の女性です。今回は、知り合いの男性と食事をした後に緊急避妊薬を服用することになった経験をお伺いしました。
※筆者自身、ショックを受ける箇所がありました。苦しいことを思い出してしまいそうな方はお気をつけください
目次
- 母にもなかなか相談できなかった、兄からの性的虐待。
- 後悔と、相手男性との間に感じた温度差。
- 女性一人ではなく、男性も一緒に考えていける未来がくるように。
母にもなかなか相談できなかった、兄からの性的虐待。
――生い立ちのなかで、性に関する話をできる環境にありましたか?
りなさん:私は小学校2年生の時に兄から性的虐待を受けていました。ただ、その時はそれが悪いこととはわかっていなくて、犯罪だということも知りませんでした。
当時通っていた学童保育で5年生ぐらいのお姉さんに話をしたら、「それはいけない」と、私の母にも伝えてくれました。そのおかげで、本当にいけないことなんだと分かったんです。その頃から、「性とは何だろう?」と考えるようになりました。
母は兄を叱ってくれて寝室を別にしてくれたのですが、両親が離婚して兄と離れて住むようになってからも、父の家に行くと兄からの虐待は続きました。結局、母には、被害を受けているということを20歳を過ぎるまでは伝えることはできませんでした。
――恋人や友達とは性の話はできましたか?
りなさん:できませんでした。最初に付き合った彼氏は、10歳以上年上の方だったので、「すべて知ってるだろう」「相手には間違いはないだろう」と受け身な状態でした。性について話しあう関係性ではなかったと思います。二人目の彼からはデートDV(※1)を受け、逆らうこともできませんでした。もちろん話し合いなんてできず、堕胎の経験をしたこともありました。
友人には、生理の話や女性の体の話は気軽にできます。ただ、やっぱり緊急避妊薬を飲んだとか、堕胎した話に関しては難しかったですね。
※1デートDV:交際中に起こる暴力のこと。暴力には性的・身体的・経済的・精神的なものが含まれます。
――安心して頼れる存在がいなかったのですね。
りなさん:はい。その後、ちゃんと付き合ったのが今の夫です。彼は、非常にジェンダー分野に関心が高く、女性の体を気遣ってくれます。性の話もしますし、女性の体に対して非常に親身になってくれます。
後悔と、相手男性との間に感じた温度差。
――緊急避妊薬を飲んだ時のお話を教えていただけますか?
りなさん:大学生の頃、知り合いと呑みにいった時のことです。呑んでいる途中から(お酒で)意識が飛び、気づいた時には何も着てない状態で一緒にいた相手の家にいました。
コンドームを使った形跡がなかったので、「これはちょっとヤバいかもしれない」と。堕胎の経験があったので、「もうこれ以上はもう自分の体を痛めつけるのも良くない」「新しい命を生まれさせてもいけないし、絶ってもいけない」と感じたのを覚えています。帰宅後すぐに病院を探して、予約しました。
ーー当時の気持ちを教えていただけますか?
りなさん:とにかく「最悪」という感じで相手に対しても、自分に対しても嫌悪感を抱きました。「性行為をするつもりなんてなかったのに」と自己管理の甘さを責めましたし、すごく後悔しました。
ーー彼には伝えられましたか?
りなさん:病院に行った後、性行為をした相手に、お金を払ってほしいと連絡すると、「わかった」と返ってきました。喫茶店で待ち合わせをしたんですが、「お疲れ~、いくらだった?」と言われたんです。
私が緊急避妊薬を飲んだことに関して、何にも思ってなさそうな態度を見て、相手のことは何も考えていないんだなあって感じたのを覚えています。女性はお金もかかるし、気持ち悪くもなる。なのに向こうは射精して、お金を出して終わり。責任感の重さの違いというか、温度差を感じました。
女性一人ではなく、男性も一緒に考えていける未来がくるように。
ーーその後、行動の変化はありましたか?
りなさん:より一層気をつけようと思いましたね。わたしの場合、緊急避妊薬を飲んだ後は、胸焼けみたいな胃がムカムカするような感じがありました。気持ちの面でも、次の生理がくるまですごく不安でした。飲んだことによるものなのか、精神的なものなのかは区別はつかないのですが、とにかく気持ち悪かったです。
緊急避妊薬は、身体面にも経済面にも負担が大きいです。本当にしょうがない時にしか使えないものだからこそ、もう起こさないようにしようって思います。
ーーどのような思いでこの取材を受けてくださいましたか?メッセージがあれば、お願いします。
りなさん:望まない状況では絶対に緊急避妊薬を飲んだ方がいいし、そうならないのが一番良いですよね。でも、そうは分かっていても、避妊できない環境であったり、境遇になってしまうことがあります。
これは女性だけでどうにかできる問題ではありません。男性だけがどうにかしてくれるわけでもありません。妊娠は二人の間でおこること。自分一人ではなく、二人で解決できるようにしていけたらいいと思います。
――ありがとうございました。
インタビュー/小谷 真以花
文/辻 奈由巳