今から約四百年前に伊達政宗の命によりサンファンバチスタ号に乗り込み石巻
からイスパニアに向かった仙台藩の支倉常長の一行。その中に瀧上嘉蔵と家来の
与助が居た。政宗の命とはイスパニアとの直接交易の実現。交易とは主に貿易で
在る。政宗の狙いは交易による富の独占。ないしは富の拡充で在った。家康もそ
れを後押しした。命を受けた支倉常長はフイリッペ三世の「NO」により失意の
帰国を余儀なくされた。しかし嘉蔵と与助は帰国せず滞在先のコリア・デル・リ
オに残った。
瀧上家では四百年前から嘉蔵不帰還の謎が続いていた。幾度となく仮説が建て
られ嘉蔵から数えて十六代目の海彦も同じだった。仮説は何時の間にか消え謎だ
けが命を繋いでいた。海彦の仮説は「剣の達人で在り、イノベーターでも在り、
発明家でも在った嘉蔵を尊敬できない。帰ろうとするなら戻れたのにコリア・デ
ル・リオに残った。俺はお家断絶の危機を乗り越え家族を守り抜いた長男蔵之助
の不屈を尊敬している。嘉蔵には人格的欠陥が在ったのでは…。俺は何時か嘉蔵
の人格的欠陥を証明しようと考えている」。海彦は嘉蔵不帰還の謎をこう締めく
くっていた。
コリア・デル・リオに暮らす、海彦と同じ歳のマリアからの手紙が舞い込む。
マリアは嘉蔵の子孫だった。仙台の日西友好協会の招きで来仙。海彦の家にホー
ムスティ。マリアは海彦に案内され四百年前の仙台を知る。瀧上家の四百年前と
変わらぬ正月を体験。マリアは嘉蔵の墓参りの時に「マルガリータと云う与助の
子孫も現存」と。十五代目の与一は号泣の後に歓びを爆発させた。
マリアは類まれな美人。気性の激しい天然。挨拶の喋りと唄が凄かった。海彦
は出迎えた仙台駅で一目惚れ。二人でユニットを組み、歌を創り、唄う音楽の路
に進みたいと願うようになった。しかしマリアは恐ろしい女を連れて来た。先ず
はマリアが恐ろしい。次に海彦が所属する軽音楽部の佐々木薫子。薫子の誘惑は
マリアの助言も在り回避したものの、小五のクラスメイトであり今は同じ高校に
通う橘南のアプローチとプロポーズを受け入れてしまう。受け入れると云うより
南が言う「トモダチ以上恋人未満」に引き寄せられてしまう。南は津波で両親を
亡くした。それで会津若松の祖父母に引き取られていた。小五の時に離れ離れに
なったが今は仙台で独り暮らし。「私には家族が居ない。海彦の子供を沢山産み
たい」に殺られてしまう海彦。何とか踏み止まる。マリアに言えないやましいこ
とは出来ない。けれどこれから先に南ににじり寄られたら分からない。
海彦の音楽の路を応援すると言った父海太郎(海上保安官)がオホーツクの海
で不審船から銃撃を受け撃れてしまう。生死の境目を潜り抜け海太郎は幸運にも
今生に止まった。不審船は銃撃の後に追跡されない確信の下でゆうゆう逃亡。不
審船の思惑通り『ゆうぎり』は不審船を追跡して拿捕しなかった。海太郎の部下
の宮田安夫は即死。回復したとは云え入院中の海太郎は「日本の弱虫を何とかせ
ねば…‼…」と来たる参議院選挙に立候補する旨を海彦に打診。…流石はオヤジ。
これぞ蔵之介の不屈…。胸を熱くする海彦。
マリアからメール。コリア・デル・リア市の資料室には誰にも気づかれないま
ま嘉蔵が秘かに眠っていた。嘉蔵が書き残した巻物が五巻。文書には『故里吾出
瑠里緒日誌』。これを明らかにすれなら嘉蔵不帰還の謎が解き明かせる。祖父海
之進が現代語に翻訳すると海彦にはコリア・デル・リオのハポンの会からのマリ
アが書いたと思える招待状が届く。出立する海彦。身を硬くして見送る南。再会
を喜ぶマリア。嘉蔵不帰還の謎を明らかにする日は近い。