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小説好きのあなたに近未来を届けます。

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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終了

目標金額1,000,000

支援者数4

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

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 机を並べて勉強するのは楽しい。困ったことがひとつだけ起きた。勉強して

いても勉強に集中できていたかは疑わしい。それにお喋りばかり。

 隣の人に注意される始末。そんな時には机に筆記用具やテキストを置いて一

Fロビーに避難した。これは席取りの反則。

 花南は反則を無視して階段を降りた。今日は浪人生が少ない。

 お喋りを止めたくなかった。話したいことが次々に浮かんでくる。

「高校ってどんな処。中学と何が変わった…」

「勉強できない奴は大勢いるが馬鹿はいない。イジメが無い。喧嘩はたまにあ

る。でもそれはイジメとは無関係。白昼堂々の男同士の対マン」 

「イジメが無いんだ」

「他の高校は分からないけれど俺の高校では無い。散々中学でのイジメを見て

きたから愛想をつかしているんだ。イジメる奴もイジメられる奴も馬鹿だって

みんな思っている。そんな奴が出てきたら双方がハブられる。受け狙いのイジ

メる奴とイジメられる奴のコンビが居てけっこう面白い。奴らにとっては学校

がネタ探しの場所。教師ネタが笑いを取る。学校はネタの宝庫だそうだ」

「陽大の高校は超進学校だからかな~」

「あんまり関係ないと思う。退屈している奴が居ないんだ。勉強できない奴は

勉強しないからだ。だからと云って馬鹿ではない」

「どうして勉強しないの…。せっかく難関の高校に合格したのに…」

「好きなことに夢中になっているんだ」

「例えば…」

「野球部はめっちゃ弱い。でも一年生のエースはめげずに今年中に一四〇キロ

を投げると言って早朝からトレーニング室で独り筋トレに励んでいる。ふたつ

の弁当を午前中に完食。授業中でもハンドグリップを手放さない。授業が終わ

ると体育館でダッシュ。陸上部よりも早い。陸上部はインターハイの地区予選

リレーに借りると決めている。牛乳ばかり飲んでいる。一日二ℓも」

「弟は野球少年。聞かせてやりたい。きっと目をキラキラさせる」

「他にも不思議な奴が多い」

「聞かせて。聞かせて」

「ストリーテラーになると言って一日中コンテンツを考えていて思いついたら

授業中でもお構いなしにスケッチしている。ノートにも教科書にもメモ書きが

びっしり。カメラに没頭していて眼球が飛び出ている奴。世の中をアッと驚か

せる動画を創ると意気込んでいる奴。一日中ラップを唄っている奴。これは女

子だけど、カラオケ選手権優勝を目指して、午後になると代返を頼んで、しょ

っちゅう消える。平日のカラオケはタダみないな料金だからだってさ。休み時

間になるとギターを抱える奴。トランペットのマウスピースを胸ポケットに仕

舞い込んでいる奴。こいつのブーイングは大迫力。俺はゴッホになると言って

美術室に泊まり込む奴。宇宙を表わす数式は美しくないと間違いだと言って先

生を困らせ、自分で考えた数式を黒板に書いた奴。ガロアに傾注してるあいつ

は天才だ。地学教室で石や隕石の標本を見つめてトロ~ンとしている奴。春と

秋深しになると縄文遺跡を巡って学校に来ない奴。どうして春と秋深しなんだ

と尋ねたら、雑草が遺跡を邪魔しないから、と答えた。俺は『な~るほど』。

宮澤賢治は近代以降の日本人が喪った精神を取り戻そうとする古代人と研究し

ている奴。声楽志望のぽっちゃり女子。彼女のソプラノは教室の窓ガラスを震

わせ俺の耳を塞いだ。あっ。もう一人居た。ピアノ弾きの女子。俺の教室は音

楽室の隣なんだ。授業が始まっても音楽室からショパンのノクターンが微かに

聞こえてくる。実に妙な気分。担任も彼女を咎めない。担任は彼らや彼女たち

の夢の途中を時々尋ねる。その答えを楽しみにしているみたい」

「面白そう。高校も悪くない。ガロアって誰…」

「ガロアは後で。俺のクラスだけでもこんな連中が居る。確かに毎日が面白い。

ひとつことに夢中になっている奴らを見ているのは楽しいし応援したくなる」

「そ~だよね」

「俺にはそれが無い。だから地味に勉強している」

「夢中になれるものが無いってこと」

「そう。花南と同じさ」

 花南はドキッとした。

 夢と目標は違う。夢中になっていると目標が見えてくる。目標が向こうから

手を差し伸べてくる。夢中とは夢の中でも好きにまっしぐら。夢中にならない

目標は好きの追及ではない。今まで花南は必要と考えたひとつひとつを目標に

据えた。好きに夢中になるとは遠い世界のように想えた。

「両親はお前の好きなことをやれば良いと言ってくれる。母親までも私たちは

それを応援すると言う。それも嬉しそうに。でも俺には好きが無い」

「陽大はきっと見つける。好きが勝手に陽大ににじり寄ってくる。クラスの面

白そうな連中に囲まれて刺激をこれでもかってもらっているじゃない。好きに

夢中になるって気づいたらそうなっている状態。考えて創り出すものじゃない。

だから強い。好きに包み込まれていない今は勉強するのがイチバン。包み込ま

れた時にはきっと勉強が役に立つ。それで良いじゃん」

「ときどき想うことがあるんだ」

「ナニ」

「両親は俺が好きに夢中になって、のめりこんで、勉強を放り出してしまう。

それにハラハラドキドキしたいのかもって。もの凄いプレシャ~」

「ご両親の職業は…」

「二人とも公務員」

「そうか。ご両親の期待を一身に背負っているんだ」

「でもな~。二人とも無理強いしないんだ」

「立派だね。ご両親の期待は期待。陽大は陽大。無理はダメ。続かない。壊れ

る。わたしは今日を生きるのに精一杯だった。最近はそれが財産と思えるよう

になった。だって生き抜く力は誰にも敗けないもの」

「花南の苦労が分からない俺は世間知らずだ」

「わたしも世間が分かっている訳ではないよ。家と近所と小学校しか知らない

もの。そんな狭い範囲でわたしなりに今を乗り超えてきただけ」

 花南には楽しみがひとつ増えた。

 今日から楽しみにする。

 わたしが夢中になる好きとの出逢いを。

 今まで考えもしなかった好きとの出逢い。

「イヤなこともあるんだ」

「…」

「今年になってから三回。ストーカーに付け回された。考えてみれば一週間に

一度ずつ。それも金曜日ばっか。前はバレンタインディだったからそろそろ一

ケ月。もう付け回されないと思いたいけれどそうはゆかない。必ず付け回され                                

る。ストーカーは簡単に諦めない。目的を達成するまでチャンスを窺う」

「心当たりはあるの…」

「ある。四人のうちの一人か、全員か分からない」

 花南は心当たりの四人の特徴を陽大に告げた。

「分かった。花南を守れないなら男を止める」

 二つのドアの開閉で寒気が吹き込んでくる一Fロビー。上気しているのは顔

と頭だけ。花南の身体は冷えきってしまった。

 

 花南はパン屋への就職を諦めた。家から近過ぎる。それに給料が時給。 

…これではパートと変わらない…

 花南はスーパーの履歴書に中学卒業見込みと書いた。そう書かなければ採用

されない。面接すら受けられない。嘘をつかないと仕事に就けない、思い余っ

て書いてしまった。バレない目算が背中を押した。中学を卒業していない人な

んか居ない。それが世間の常識。中学を卒業したか、どうかなんて、誰も調べ

ない。でもバレないためには用心が大切。知っている顔と出くわさないのがす

べて。顔見知りは中学校への登校拒否を知っている。最も油断できないのが小

学校の同学年の子供たち。次に近所のオバさんたち。要警戒は民生委員。この

オバさんは何処にでも顔を出しそう。決して就職先を知られてはならない。

…嘘も方便…

 花南は都合の良いことわざを思い浮かべた。こうでもしないと自分の未来が

拓けない。納得させようと試みた。けれども納得させられなかった。自分は嘘

つきではない。一度も嘘をついたことがないかと、問うたなら、在りだ。でも

それは他愛のない嘘。健太と母に心配かけないために。

 今回のは違う。喋りの嘘ではない。文字で履歴書に書いた。記録はズ~ッと

残る。花南は自分をさいなむ心を振り払おうと力を使った。もしバレたらその

時はその時と潔く諦めよう。それでもわだかまりは消えなかった。

『中認』に合格すれば何もなかったことになる。それまでの辛抱。そう気持ち

を切りかえた。花南には生活保護からの脱出と中学卒業が壁に思えた。働けた

なら生活保護から離れられる。『中認』を取れば卒業していなくとも堂々とし

ていられる。『中認』は一〇月。それまでバレなければ何とかなる。

 

 三月一〇日の面接はスーパーの店長。花南は手にしていた求人広告紙を開き

「『年齢不問・未経験者歓迎』を見て、ここで働きたいと思って来ました」。

 履歴書を差し出した。

 店長は履歴書に目を通してから「社員に中卒はいるけれど新卒は初めてだ」

と言った。それから仕事の内容に入った。

「品出し。賞味期限切れの日配品の回収。在庫管理。発注。値引き商品の選別

と値札貼り。贈答品の発送。店内の掃除。レジ打ちは慣れてから。労働条件は

求人広告紙に書いてある通り。書いていないところは労働基準法やその他の関

連する法律を守っている。君を夜の八時以降は働かせられない。これは社内規                                

定。君は何が得意ですか…」

「はい。パソコンと暗算です。小っちゃい頃から母に算盤を習っていました」

「ほう。それは頼もしい。お金の管理はレジが担っているけれどそうではない

計算は至る処で必要になる。ワードとエクセルを使いこなせますか」

「大丈夫だと思います。働くにはワードとエクセルができないとダメと思い沢

山練習しました」

「君はパソコンを持っているんですね」

「いいえ。就職が決まったら買おうと思っています」                                

「では家のパソコンで練習したんだ」

「家にもパソコンがなくて中央図書館のパソコンを借りました」

「そうですか。君は努力家だ。パートのおばさんたちはパソコンを使えない。

中には触ったこともない人も多い。若い人でもパソコン苦手が多い。ところで

君はパート希望なのか、それとも正社員を希望しているのですか」

「正社員です」                             

「そうですか。最初の三ケ月間は試用期間。正社員への登用はそれからの判断。

判断するのは私と本社の人事部の担当者です。試用期間とは分かり易く言うな

ら見習い期間。こうしましょう。直ぐに働いて慣れてもらいたいのは山々だけ

れど四月一日まで待たないと十五歳にならない。区切りの良い四月一日から朝

の八時に出社して下さい。社員の通用口から店に入って下さい。場所は後で教

えます。新人教育係が居りますのでその方に付いて下さい。制服は貸与します。

それと正社員希望者は入社時から社会労働保険に加入します。保険料は会社と

折半。手取りは少なくなるけれど構わないですね」

「はい」

 花南は即日採用された。

 正社員時の初任給は十七万二千円と告げられた。母よりも七万円も多い。

 正社員にこだわったのは労働条件だった。退職金と賞与はパートに適用され

ない。見習い期間の間はパートと同じ時給。いわゆる日給月給。正社員は月給。

この違いは大きい。責任は大きくなるけれどシッカリと働くなら問題なし。パ

ートでもシッカリ働くのだから正社員の方が良いに決まっている。

 社会保険に加入すると生活保護は受けられなくなる。社会保険とは厚生年金

保険と健康保険。だから母はズ~ッとパート。国民年金は免除。健康保険は医

療チケットが区役所から送られてくる。花南は社会労働保険加入が一人前の証

と思えた。労働保険とは雇用保険と労働災害保険。このくらい知っておくのは

労働者の常識。常識を知れば労働者は守られていると気づいた。

 矢野先生のお陰で店長の労働基準法にたじろがなかった。

 試用期間の意味も知っていた。第二五条に何が書かれていると問われたら困

るけれど、最初から最後まで何度も読み、理解しようとパソコンで格闘した。

賞与と退職金の定めはない。…と云うことは労働基準法では支払わなくとも良

いことになる。だからパートには適用されない。これは大発見だった。


■4/12にリターンを見直しました。4/12をクリックして見て下さい。


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