中央図書館まではチャリで十五分。初めて入った。小学生は居ない。爺さん
が多い。爺さんの多くは新聞に群がっている。婆さんは僅か。ニFには学習室。
二〇人ほどが勉強している。高校生のようだけれど高校生だと学校に行ってい
る時間。だったら浪人生だ。学習室で勉強しているんだ。
一FとニFには数えられないほどの本が置かれていた。学校には図書館がな
い。在るのは図書室だった。小学生用の伝記とが図鑑が多い。花南は図書室と
図書館の違いを認識した。図書館には世界が詰まっている。
二Fの奥にはパソコンが六台も置かれていた。ひょっとしてパソコンを使っ
ても良いのだろうか。六台は使って下さいと囁いているようだった。花南はパ
ソコンの前に佇んだ。使ってみたいけれど使い方が全く分からない。一度も触
ったことがない。白衣の女の人から声をかけられた。
「パソコンを使いたいの…。だったらここで手続きして」
やっぱり使えるんだ。花南は白衣の女の人に近づいた。『相談員』と書かれ
たプレートが席に置かれていた。意地悪そうには見えない。太っていた。
「手続きすればわたしでも使っていいんですか」
「住所と名前と年齢を書くと手続き完了。貴女は小学生…」
「はい。今日は学校が休みなので図書館に来ました。初めてなんです」
「パソコンを使いたいの…」
「はい。でも使い方が全く分からないんです」
「では立ち上げ方とネット検索を教えます。手続きは住所氏名携帯番号」
太った『相談員』は花南をパソコンの前に座らせた。
パソコンの立ち上げ方とマウスの動かし方。ネットを開く方法を示した。す
るとYahooが出てきた。次に検索方法。
「調べたいことがあったら枠の中に文字を入れてEnter Keyを押す。何か調べ
たい単語を言ってみて。このパソコンはローマ字変換だからね」
「中学生の不登校」
『相談員』はギョとして、それでも「中学生の不登校」を入力した。
見出しがいっぱい出てきた。
「この見出しをマウスの左側でクリックすると内容が現れる。何処でもいいか
ら見出しを左クリックしてごらん」
「マウスってコードで繋がれている変な形のこれ…」
「そう。マウスとはネズミ。ネズミの形に似ているからマウス」
「クリックって…」
「マウスは右と左があるの。左を人差し指で軽く一回押す。それがクリック」
花南は言われた通りに、見出しの一番上を、軽く一回、人差し指で押した。
―― 不登校になるきっかけ
①腹痛・頭痛・下痢・吐き気
②起立性調節障害(朝起きられない)
③人間関係(友達・先生)
④部活動のトラブル
⑤勉強の遅れ
⑥精神的な疲れ
⑦ゲーム依存
⑧原因不明
■不登校者数
①中学一年…23,959人
②中学二年…34,832人
③中学三年…38,832人 (平成二六年) ――
花南は現れた文面に喰い入った。
登校拒否はすべて不登校に組み込まれていた。
①から⑧にはイジメが書かれていない。特別な目もない。③の人間関係と⑥
の精神的な疲れはどうして起こったのかに触れていない。こんなのでは参考に
ならない。ただ不登校者の多さに驚いた。それも中一から中三までに一万五千
人も増えている。この生徒たちは高校へ進学するのだろうか。しないと思う。
中には卒業証書が発行されない人も多いはず。
やはりパソコンは凄い。知りたいと思ったことに容易く辿り着く。それでも
分からないことは必ず出てくる。諦めないで色んな方法で追及する他ない。パ
ソコンで、あっちに行き、こっちに帰って、追及できそう。
「検索の方法は分かったでしょう。パソコンを使える時間は一時間。それ以上
使いたかったら再度申し出る。他に使いたい人がいなかったら継続して使える。
パソコンを閉じる方法はまた今度。今日は私がOffにするから。あなた。パ
ソコンに興味ありそう。此処にはパソコンの操作方法やパソコンの機能を書い
た本が沢山揃えてあります。調べて分からなかったら聞いてね」
「はい。調べてみます。本を借りたい時はどうしたらいいのですか…」
「図書カードを持っていないと貸出できない。作りましょう。貴女が貴女であ
るとの証明が必要。多くの人は免許証で自分を証明できる。貴女には無理。で
も他にも方法がある。区役所から発行される個人ナンバーカードで大丈夫」
「そうですか。個人ナンバーカードはテレビで知っています。これから区役所
に行って作ります。作ってからまた来るので宜しくお願いします」
一週間後に本を借りられた。借りられるのは本だけではなかった。DVDも
借りられる他に図書館の再生機で見られる。DVDも沢山書棚に並んでいる。
観たいのが沢山あった。皇帝ペンギンやアザラシ、北極熊も。『日本人は何を
食べてきたのか。何処から来たのか』。『ブラックホールの謎』。『月から見
た地球』。『縄文人のDNA』。見出しだけでワクワクした。借り放題。観放
題。本は何台もある検索用のパソコンにカタカナを入力して検索をクリックす
れば画面に出てくる。『詳細をプリント』をクリックすると他の図書館の蔵書
の有無と冊数、貸出が記載されている。二Fのパソコンに向かう前に練習済み。
花南は『林修』で検索してみた。林先生の本はテンコ盛りだった。
こうして花南の図書館通いが始まった。
■『どうせ死ぬなら恋してから(上)侵入者』は明日のその12で終了します。
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